英樹は完全に高を括っていた。咲夜が制限時間内にこれだけの資金を用意できるはずがない――そう確信していたのだ。その視線には、あからさまな軽蔑が滲んでいる。一方で真奈美は気が気ではなかった。こんな大金、どう考えても無理だ。今すぐ手持ちの不動産をすべて売り払ったとしても、たった二時間で買い手を見つけることなど不可能に近い。仮に買い手が現れたとしても、契約手続きが間に合うはずもない。どうすればいいのだろう。真奈美の顔には隠しきれない焦りが浮かんでいた。英樹はその様子を横目で見て、ますます勝利を確信する。だが咲夜はまっすぐ彼を見据えた。「英樹さん。その言葉に責任は持っていただけますよね?」彼女が求めているのは曖昧な約束ではない。確実な返答だった。英樹は即座に答える。「もちろんだ。口にした以上、撤回するつもりはない」その返事を聞き、咲夜の唇に笑みが浮かんだ。「なら安心しました。ぜひ、その言葉を忘れないでください」そう言い残し、彼女は立ち上がる。そのまま二階に向かった。部屋に入ると一本の電話をかけ、続いて書斎からあらかじめ準備していた株式譲渡契約書を取り出した。リビングでは真奈美が依然として落ち着かない様子で座っている。何度も階段の方に視線を向けていたが、咲夜の姿を見つけるとすぐに立ち上がった。そして咲夜の手にある書類に目を落とす。「咲夜……」不安そうな声だった。咲夜はそんな母に安心させるような眼差しを向ける。再び英樹の向かいに腰を下ろした咲夜は静かに告げた。「四十分以内には終わります」そう言って、それ以上説明することなく視線を外す。英樹は内心で鼻を鳴らした。どうせ強がりだろう。そうとしか思えない。彼は今でも、咲夜にそんな金額を用意できるとは信じていなかった。咲夜は時間だけを告げると、スマホに視線を落とした。画面には千暁から送られてきた大量のウェディングドレスのデザイン案が並んでいる。彼女は画像を拡大しながら、一枚ずつ丁寧に確認していった。中には気に入ったものも何着かある。咲夜はその数枚を選び、千暁に送り返した。だが相手は仕事中なのか、すぐには返信が来ない。しばらく画像を眺めていた咲夜は、ふと思った。――千暁にも何かオーダーメイドで贈ろう
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