私が平野隼人(ひらの はやと)と結婚するために、手段を選ばなかったということは誰もが知っていた。しかし、当の私は結婚してからもう既に98回も、隼人に離婚を申し出ているのだった。私が暗いリビングに座っていると、隼人が帰ってきた。隼人はジャケットを脱ぎソファに放り投げると、私を見て眉顰める。「一日中くだらないことばかりしてないで、少しはまともなことをしたらどうなんだ?」私はテーブルのグラスを手に取って、彼に差し出した。「お酒を飲むのは、まともなことじゃないの?」いやいやながらもグラスを受け取った隼人は、私をちらりと見る。「また何か企んでるんじゃないだろうな?もしかして、小林家はまた金に困ってるのか?今回はいくらだ?2億で足りるか?」隼人の深い瞳は軽蔑の色に満ちていて、私の心はひどく傷ついた。彼はいつだって、私のプライドを踏みにじる方法をよく知っている。なぜなら私は、平野家に嫁ぐためなら手段を選ばず、自分の体だって売るような女なのだから。「お金はいらない。離婚してほしいの」私はハンカチで口をおさえて軽く咳をすると、気づかれないように口の端の血をそっと拭う。ネクタイを緩めようとしていた隼人の手が止まった。私を見るその目には驚きと探るような色が浮かんだが、すぐ嘲りの表情に変わる。「お前は俺の妻の座手放せるのか?」明らかに、隼人は私の言葉を本気にしていない。なにしろ、私が彼に離婚を切り出すのは、これで99回目なのだから。私はグラスを手に取ると、一気に飲み干した。「今回は本当だから」私は用意していた離婚届を鞄から取り出して隼人に渡し、もう一枚の診断書はバッグの底に押し込んだ。隼人は離婚届を受け取ると、目も通さずにソファの隅へ投げ捨てる。「篠(しの)、そんなくだらない物はしまえ。お前の遊びに付き合っている暇はないんだよ」隼人がそのまま二階へ行こうとしたので、私は慌てて彼の手を掴んだ。「何もいらない。慰謝料も財産も放棄するから。だからお願い、離婚して」激怒した隼人が私を振り払う。そして片手で私の肩を強くつかみ、もう片方の手で首を締めあげると、怒りに燃える目で見つめてきた。「篠。お前が俺に離婚を切り出す?お前にそんな資格があるとでも思ってるのか?」息も声も出なかった。しかし、いつ
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