LOGIN私が平野隼人(ひらの はやと)と結婚するために、手段を選ばなかったということは誰もが知っていた。 しかし、当の私は結婚してからもう既に99回も、隼人に離婚を申し出ているのだった。 そして今回も、隼人は離婚届をあざ笑うように受け取ると、投げ捨てた。 「お前は俺の妻の座手放せるのか?」 隼人は私が彼のもとを、そして平野家を離れられるはずがないと確信しているのだ。 私は顔をそむけ、口の端に滲んだ血を拭う。 「今回は本当だから」 なぜなら、私はもうすぐ死んでしまうのだから。
View More篠はもう、俺を待っていてはくれない。彼女はもう、俺を愛してないのだから。初めて会った時から、俺はもう篠に夢中だった。クールな眼差しも、意地っ張りなところも、生き生きとした姿も。その全てが、狂おしいほど好きだった。しかし篠の家庭環境や彼女の継母のことがあったので、平野家に嫁いだ篠が幸せになれることはなかった。俺には、篠を守れなかった。篠の葬式の日、どこからか聞きつけたのか勲が来ていた。勲は俺を見つけると、いきなり俺に殴りかかってきた。「隼人、お前はそれでも男か!篠さんと結婚したくせに、なんでちゃんと守ってやらなかったんだよ?彼女がどれだけ辛い思いをして生きてきたか、お前は知らないだろうな!篠さんは死ぬほどの痛みを感じても、それでも生きたいって願ってたんだ。生きたいって、彼女は言ってたんだぞ!」勲の言葉は、まるでナイフみたいに俺の心を突き刺した。息もできないほど、胸が痛い。「俺は本当に後悔してるんだよ。篠さんが俺を頼ってきてくれた時、なんで断っちまったんだろうって。なんでお前みたいなクズに、彼女を渡しちまったんだろうってな」勲は、心の底から悔しそうに俺を責めている。俺は、はっとした。「お前は篠に何を頼まれたんだ?」「お前たちの事件が起きる前の晩、篠さんが俺のところに来たんだよ。助けてくれってさ。お前をこんなことに巻き込みたくないって言ってた。けど、俺は断ったんだ。お前の身代わりになんてなりたくなかったからな。でも、まさかそれで彼女を永遠に失うなんて、思ってもみなかった」勲の言葉に、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。耳鳴りがやまない。俺は自分の勝手な憶測のせいで、篠から俺たちの子供を奪ってしまった。あの子は、俺の子供だったのだ。俺は篠の棺の前に、どさっと膝から崩れ落ちた。もう、なにも言えなかった。その後、俺は植田家に復讐した。平野グループの総力をあげて株を空売りし、会社を倒産に追い込んだ。そのショックで美羽は心臓発作を起こし、この世を去った。植田家を片付けた後は、小林家の番だ。小林家の次男はギャンブル狂だった。だから、俺は裏で手を回して、この男に小林家の財産をほとんどギャンブルですらせた。どうにもならなくなった小林夫婦は、俺に泣きついてきた。しかし、俺は冷たく笑って言い放った。「
番外編:隼人視点なぜかは分からないが、篠の祖母が亡くなったと聞いた瞬間、俺の心はひどく乱れ、それに少し怖くもあった。俺は休む間もなく郊外の家へと車を走らせた。一刻も早く、篠に会いたかったから。今の篠は、まるで一筋の煙みたいで、ふっと息をかければ消えそうなぐらい、俺の前からすぐにでもいなくなってしまいそうな気がしたのだ。結婚してから、ことあるごとに篠からは離婚を切り出された。そのせいで、俺の篠に対する愛情も少しずつすり減っていった。彼女は、たぶん俺のことなど、それほど愛していなかったのだろう。篠が継母に嵌められて、俺のところに送り込まれたことは最初から知っていた。ただ、あの夜の自分を俺は許せない。自分を抑えきれなかった。罠だと分かっていたのに、俺は躊躇わずに飛び込んでしまった。篠の家柄は平野家に相応しくない。そのうえ、あんな汚い手を使ったのだ。平野家が彼女を受け入れるはずもなかった。当時の俺はまだ会社での立場が弱く、篠に冷たくするしか、守ってやれる方法がなかった。結婚して3ヶ月が経ったころ、美羽が俺のところへやってきて、ある写真の束を俺に見せた。そこには、篠が深夜に勲の家を出入りする姿が写っていた。しかも、写真の日付は、俺と篠にあんなことがあった、まさにその前の晩だった。美羽が、篠のお腹の子は勲の子かもしれない、と言った。俺も初めは信じなかった。しかし、あの写真がどうしても頭から離れなかった。篠の顔を見るたびに、俺はあの光景を思い出してしまった。だから、篠の死産が美羽の仕業だと知っていても、俺はなにもしなかった。それどころか、心のどこかでほっとしていた。子供はいなくなってもまた作れる。しかし、篠が俺を裏切ったことは、どうしても許せなかった。しかし、子供をなくした篠は、まるで別人のように変わってしまい、その瞳からは、すっかり光が消えてしまったのだ。それから彼女は、頻繁に俺と喧嘩をして離婚を求めるようになった。ついには植田家のパーティでも騒ぎを起こし、俺の顔に泥を塗った。このとき俺は初めて気づいた。篠は、どうやら本気で離婚したいらしいと。俺はなりふり構わず篠をそばに縛り付けた。しかし、そのせいで彼女が祖母の最期に立ち会えなくなるとは、思ってもみなかった。しかし、大丈夫だ。俺たちには
祖母は立ち上がり、私の手を引いてゆっくりと奥へ歩いていく。できることなら、時間がもう少しゆっくりと流れてくれたらいいのに……そう、ほんの少しでも、今よりゆっくりと。しかし、こんなにも大切な存在だった祖母が、ある日、突然倒れてしまった。私が18歳になった年のこと。祖母と約束してたのだ。私が18歳になったら、一緒に旅行に行って、いろんな世界を見せてあげる、と。だが、祖母は待っていてくれなかった。私が大人になるまで待てなかった……祖母が病気になった時、私は実家である小林家に頭を下げに行った。しかし、祖母との間に確執があった父は、助けてくれようとはしなかった。しかし、継母は私に利用価値があることに気づいたみたいで、祖母を家に住まわせてくれたうえに、医師の手配までしてくれた。おかげで私は無事に大学へ進学でき、そこで隼人や勲にも出会った。太陽みたいに眩しい隼人は、人ごみの中にいても、ひときわ輝いて見えた。その後、実家の事業はだんだん傾いていった。そして継母は言った。「そろそろ恩返しをしてもらうわよ」と。継母は私に薬を盛り、私を隼人のベッドへ送り込んだ。そしてそのまま、私は平野家に入り込むことになった。けれど私の存在は、隼人と美羽の間にあった関係を完全に壊してしまった。そのせいで、美羽は私を激しく憎み、その恨みを胸に募らせ……ついには私を階段から突き落とした。私はお腹の子を失った。それに、私の評判は最悪だったので、誰一人として私の話を信じてくれはしなかった。隼人でさえ、信じてくれなかった。祖母は継母に囲い込まれ、事実上、自由を奪われていた。継母が私に何かさせたい時だけ「餌」のように一度だけ電話をつながせてもらえるだけで、それ以外は、顔を見ることすら許されなかった。おばあちゃんに会いたい。目が覚めても、私はまだ真っ暗な家の中にいた。涙で耳のあたりの髪がぐっしょりと濡れてる。ふらつきながらも、なんとか床から体を起こした。ドアの隙間を覗くと、外に警備員が二人、見張りをしているのが見えた。胸の息苦しさがどんどん酷くなり、心臓を抉られるような痛みが、全身を駆けめぐる。胃から何かが込み上げてくるを感じ、私はよろけながらもトイレに駆け込んだ。ドアを開けたとたん、血生臭いものが口からこみ上げてきた
勲が車を取りに行ったので、私は病院の入り口で待っていた。突然、目の前に大きな人影が立ちはだかる。「篠、どこへ行くつもりだ?家で俺を待っていろと言ったはずだろ?」隼人は私の腕をぐっと掴むと、ものすごい剣幕で私を睨みつけた。「隼人。あなたと揉めている暇はないの。実家に帰らないと」私は隼人の腕を振りほどこうと必死にもがいた。しかし、彼の力はあまりにも強くて、びくともしない。「俺と揉める暇はなくて、工藤ってやつと会う時間はあると?篠、自分の立場を忘れるなよ。お前は今も俺の妻なんだぞ」目を真っ赤にした隼人が、私を射抜くような鋭い目つきで睨んでいる。「隼人、おばあちゃんがもう危ないの。実家に帰らなきゃ。今すぐ帰りたいの。お願い、行かせて」私がそう懇願しても、隼人は平然としたまま、私を鼻で笑った。「篠、俺がお前の言うことをまだ信じるとでも思ってるのか?この大嘘つきが。なるほどな。離婚を急ぐ理由はそれか。工藤と通じていたってわけなんだな……あの男もよくやるよ。何年もお前にへばりついて。二人して、虫唾が走る」隼人はそう言いながら、私を無理やり車の方へ引きずっていった。「隼人、離して!今日だけは実家に帰らせて。おばあちゃんがもう長くないの!お願い。今日行ったら、これからあなたの言うことは何でも聞くから!」私は声を振り絞って懇願した。しかし、隼人は冷たい目で私を一瞥しただけ。「篠、そのくだらない芝居はやめろ。とっとと家に戻れ。二度と外で俺に恥をかかせるな」言い終わるや否や、私は隼人に車の中へ突き飛ばされた。両腕を強く掴まれて、身動きがとれない。「車を出せ」隼人の命令で、運転手はすぐにアクセルを踏んだ。車は急発進し、ちょうど駐車場から出てきた勲の車とすれ違った。私は絶望しながら、窓の外で遠ざかっていく勲の車を見つめることしかできなかった。次の瞬間。私は隼人に首を掴まれた。そして彼は私の顎をきつく掴んで、無理やり顔を自分の方へ向かせる。「篠、お前は汚い手を使ってまで俺と結婚したんだ。なら、一生俺に苦しめられる覚悟をしておけ。お前は死ぬまで、俺の妻でいるしかないんだよ」涙が静かに目尻を伝って流れた。狭い車内が、まるで獰猛な獣の大きな口のようで、私の最後の希望も、それに飲み込まれてしまった。私は隼人に