夫の斉藤渉(さいとう わたる)が、妊娠した若いモデルの坂本胡桃(さかもと くるみ)を堂々と家に連れてきた。そして、彼女の療養のために寝室を明け渡すように言ってきた。でも私は、これまでみたいに物を壊したり、ご飯を食べなくなったりはしなかった。むしろおとなしく部屋を譲って、胡桃のために手料理まで作ってあげた。体にいい栄養満点のスープを。それから私は、香市のセレブの間で笑いものになった。渉に取り入ろうとする女たちは、みんな私のことを「ちょろい」と思ったみたい。渉の子供さえできれば、簡単に私を追い出せる、って。渉の遊び仲間たちは、さらに私のことを馬鹿にした。「斉藤家っていう金の鳥かごから離れられない、かわいそうな女だ」って、笑いながら話していたらしい。やがて、胡桃のお腹も目立ってきた頃。渉は、ベビー服にアイロンをかける私を、得意げな顔で見ていた。「玲奈(れな)、外の女なんて、しょせんは遊びなんだよ。お前がおとなしくさえしていれば、俺が外で何人女を作ろうと関係ない。俺の妻は、永遠にお前だけだから安心しろ」誰もが、私が渉のお金目当てだから、あんなみじめな真似をしているんだと思っていた。でも、本当の理由は私にしか分からなかった。私は斉藤家と、ある婚前契約を結んでいたのだ。【夫側に有責行為がある場合、その行為如何にかかわらず、妻が結婚生活を5年間続けた時点で、斉藤グループの株の10%を受け取ることができる】そして今、その5年が経った。渉の資産は何千億円。その半分が、これからは私のものになるのだ。……私は変わらずベビー服にアイロンをかけていた。渉の愛の誓いのような言葉なんて、まったく心に響かなかった。「わかってるわ」私のそっけない態度に、渉は少しイラっとしたようだった。渉にしてみれば、私がこんなに従順なのは慣れないことなのだろう。なんせ半年前、彼がクルーザーで女優とキスしている写真が出回ったときは、高級なアンティーク食器一式を叩き割って、大騒ぎしたのだから。渉は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその苛立ちを抑え、私の頭をなでようと手を伸ばしてきた。「玲奈、お前もようやく物分かりがよくなったな。やっぱり、お前は分別のある女だと思っていたよ」私はさりげなくその手をかわした。「キッチンに行って、スープ
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