All Chapters of やわらかアルファとおっさんオメガ: Chapter 11 - Chapter 20

32 Chapters

4-1

 数日ぶりに出勤したカケルは、午後になってタケルの元に呼び出された。「一体、どういうつもりなんだ。突然こんな何日も……」「緊急だったんです。オメガの方が突然ヒートしまして……」「さほど珍しいことでもないだろう?」「事案そのものは珍しくもありませんが……。それが、先日話した、カフェでメモをくれた方だったんです」 カケルの答えに、タケルの眉がぴくりと動く。「おまえ、ベータ男性と言ってなかったか?」「はい。そう思っていたんですけど、オメガ性の方でした」「フェロモンの匂いがわからないのは、そういう場合は困りモノだな」 ふうっと息を吐き、タケルは腕組みを解く。「とはいえ、おまえに取っては恩人のようなものだしな。今回は大目に見るが……。身内の病院だからといって、融通をあまり効かせていると、後で困ることになる。気をつけなさい」「あの……、実はこれから、し……瀬尾さんの主治医になりたいと思ってまして……」「知り合いの主治医に? あまり、感心しないな」「ですが、瀬尾さんのヒートは少々状況が違う……と言いますか。彼、フェロモン依存の症状があるんです」「……ほう?」 タケルの表情が、身内の〝弟を叱る兄〟から、職業人のそれに変わる。 カケルはポケットからメモ帳を取り出すと、志郎の問診をしたページを開く。「二十代の頃、運命の番とカップルになっていたとのことで……」「運命? そんな都市伝説じみた話を……」「それが一概にそうも言えません。瀬尾さんの話を聞くと、フェロモンの同調が非常に高く、セックス時の快感が極めて高かったという話ですし、ヒート中の様子はもちろん、抑制剤がほとんど効果を示さなかったりしたので、あながち嘘
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4-2

 カケルは、午後の息抜きにベルウッドへと向かった。 奥の席に、志郎の姿がある。「こんにちは、志郎さん」「よう」 カケルは、あの日渡せなかったコーヒーギフト券を取り出すと、志郎に差し出す。「これ、先日助けていただいたお礼です」「ええ〜、これは駄目だよ、カケル先生〜」 困った顔で、志郎は受け取ってくれない。「なぜですか?」「だって、俺の借りのほうがデカくない?」「いえ……、アレは僕の医者としての倫理観が……」 言いかけて、カケルは首を横に振った。「すみません。ホントにこれ、受け取ってほしいんです」「だから……」「そうじゃなくて。ちょっと聞いてもらっていいですか?」 思い詰めた顔のカケルに、志郎はまず座るようにと促してくる。 カケルは〝相席〟で、志郎の前に腰を降ろした。「実は……、先日の件で数日休んだことを兄に謝罪した時に、志郎さんの事情を話してしまいました」「お医者さんって、守秘義務とかゆーのなかったっけ?」「もちろん、あります。でも、兄は僕に取って……上司にも当たりますし。僕が病院に所属している医者として、報告しなきゃいけない部分もありますから……」「そっか。病院の名前がカケル先生の苗字と一緒ってことは、親族経営ってことだもんな」「はい。父のやってる病院で、兄は外科が専門ですが、父の後継ですから……」「なるほど。そんなら、カケル先生の〝研究内容〟も、ある程度は把握してなきゃだな」「そんな、研究なんて……」 言いかけて、カケルは俯いた。 実際に、自分のやっていることはそう指摘されても仕方がない形になっている。「いーよ。実際、俺だって自分が出会うまで、運命なんて信じちゃいなかったし。カケル先生が治
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4-3

 志郎のカルテを取り寄せるのは、少々手間取った。 父とタケルが〝ライバル医院〟と言っていた程度に、向こうもこちらに対抗意識を持っていたのだろう。 とはいえ、嫌味の十や二十はあるだろうと予想もしていたので、そういう意味では予想の範疇ではあった。 むしろ、患者を取られることに抵抗はあっても、志郎の状態や症例にはさほどの興味もなかったようだ。「なんだっけ……適用なんとかかんとか法とか、カケル先生が以前に言ってた、あの治療法を断ってから、めっちゃ塩対応されたからなー」 志郎と向き合い、問診をしていると、そう返された。「塩対応……ですか?」「面倒だったんじゃないかな? 症状重いのに、あれは出来ない、これは嫌だって言われて」「でも、番を解消してフェロモン依存に悩む患者さんは、志郎さんほどではなくとも、パートナーだった方となんらかトラブルがあって、パートナー解消をされてるわけですから。医学的には、急激な断絶よりも、緩やかな別離が理想ですけど、人間関係はそうもいきませんからね」 カルテをめくり、カケルは少し考え込む。「今、処方されているお薬、そういう理由で出ているなら、少し変えてみましょうか。あの時も、あまり効いている感じしませんでしたし。……えーと、ジムでフェロモン誘発があって、ヒートの周期が変わっている可能性がありますから、少し警戒した方が良いでしょう。体調の変化があった場合は、早朝夜間に関係なく、連絡くださいね」「アレをまたご披露すんのか……、憂鬱だな」「すみません。でも、良くする糸口を掴むために、ご協力お願いします」「お願いしてるのはこっちだからな。頼りにしてるよ、カケル先生」 少々皮肉めいた口調ではあるが、志郎がカケルに信頼を持ってくれているのは伝わってくる。「じゃあ、また来週」「あ……と……」 立ち上がりかけた志郎は、ふと顔をしかめた。「ど
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4-4

 数日後、志郎はヒートの予兆を感じて、カケルにメールを入れた。 すると、その日の午後にカケルが部屋を訪れた。「どうしたの? 早いね」「いえ……、実はタイミングが良い……と言うと、少々語弊があるんですけど」 志郎はカケルを招き入れ、コーヒーを淹れてやる。「なにがあったの?」「先日の診察の時に、看護師さんからフェロモンの匂いがするって忠告してくれたでしょう?」「ああ、うん」「あのあと、あの看護師さんと部屋で二人きりになったんですけど、ちょっと……変な空気になって……」「なに? カケル先生にメガハラされたって、院内中に触れ回られたの?」「な……なんで知ってるんですかっ?」 カケルの反応に、志郎が笑う。「やっぱ、あの子、気があったんだ!」「でも、彼女ちゃんと抑制剤も飲んでて、ヒートじゃなかったんですよ? 志郎さん、どうしてわかったんです?」「オメガのフェロモンに似せた香水の匂いがしたからさ。カケル先生の鼻が利かないこと、知らなかったんじゃないの?」「だから兄さんが、あんなあからさまなのまでわからないのかって言ったのか……」「きみのお兄さん、スパルタだなぁ。鼻が利かないのに、あからさまもなにもワカランって、兄さんの方こそ分かってないじゃないのか?」「兄は優秀ですよ?」「ああ……、優秀すぎて、そうじゃないヤツのことがワカランタイプか。で? 俺のヒートの観察を理由に、しばらく病院に顔出すなって?」「どうして、兄が言ったまんまを知ってるんです?」「そんなもん、お察しだろ。イケメン先生に悪い噂が立ったら困るし、もみ消しというか、事後処理するのに、ポンコツのカケルくんがヘマをやらかす心配までするの、面倒じゃん」「ひどいです……」 しょんぼりしながら、カケルはコーヒーに口をつける
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5-1

 タケルから許可が降りて、カケルは数日ぶりに出勤した。 志郎のヒートは前回同様で、それをまとめたレポートを持って、兄の執務室をノックする。「このたびは、いろいろとご迷惑をかけまして、すみません」「こちらも配慮が足りなかった。おまえに番でも出来ない限り、今後は、内分泌科への採用者をベータかアルファに限定するように方針を決めたよ」「え……、性別で採用を決めたら、怒られるんじゃないですか?」「表立って公言するわけないだろう。だが、独身者のアルファのいる職場に、結婚願望の強いオメガを置くのは、リスクが高すぎる」「僕の所為で、すみません」「あの手のタイプは、おまえがいなくてもトラブルを起こしていただろうさ」 慰めなのか、事実を述べただけなのか、わからないが。 兄がカケルに配慮してくれたのは、ありがたいことだ。「ところで……ですね。兄さんは内分泌系の話はあまりご存じないかもしれませんが……。アルファとして、兄さんの見解を聞かせてもらいたくて」「なんだ?」「フェロモンって、どうしたら出ますかね?」「は?」 弟の唐突すぎる問いに、タケルはしばらく返事をしなかった。 が、見つめるカケルはひどく真剣である。「昆虫なら、一定の刺激で分泌しますが。人の場合は、どうなんでしょう? 適応再調整療法の場合は、相手アルファの腋下部の体液を採取して、精製後、濃度を決めて投与しますが……」「待て。なんの話だ?」「あ、フェロモン依存の治療方針です。運命の番相手の依存ですから、ヒート時の体力消耗がすごく激しくて。だから、アルファのフェロモンを嗅げば、少しは緩和するんじゃないかと思ったんですけど。でも僕、フェロモンの出し方なんてわかんなくて」「威圧も使ったことがないのか?」「すみません、ありません。……やっぱり僕、ポンコツですね……」
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5-2

 ヒート明けで冷蔵庫が空っぽだったため、志郎は気晴らしを兼ねて買い物に出かけた。 そして、オーソドックスな食料品の他に、嗜好品もかなり買い込んでマンションへと戻る。 ヒートの最中、ピーク時の狂乱は言葉通り〝本能の嵐〟に巻き込まれ、思考は止まる。 だが、なにが最悪かと言えば、思考が止まっていても、自分が何を欲して、何を叫び、何をしたか……を、全て覚えていることだ。 育ちの良さそうなカケルには、躊躇して言えなかったが。 タツヤは志郎から金を引き出せないと分かったところで、志郎をソープに売ろうとした。──まあ、美形のオメガじゃなかったおかげで、買い叩かれたけどな。 それはある意味〝幸い〟だったと、志郎は思っている。 志郎の容姿を見て、稼げないと踏んだ債権者は、タツヤの言い値を出し渋った。 そこでタツヤは、志郎にデリヘルも同時にこなせと要求してきたのだ。──俺とヤッて天国イケるのは自分だけだと、思い出すのに時間かかりすぎだろ。 そこまで自身を切り売りして、さしたる金にもならず……。 更に、一銭も自分の手元に金が回ってこない。 そもそも、タツヤ以外の誰かとセックスすることなど、志郎には考えられなかった。──ま、おかげで覚醒出来たんだけどな。 脳が焼けるほどの快感と引き換えに、己の人生と命を差し出す。 それが正当な対価かどうかを、冷静に考える〝転機〟だった。──もっとも、一番の功績は、タツヤがセックスだけで俺を縛り付けられると高を括ってくれたことだが……。 もし、番痕を刻まれていたら? 自分は決して、逃げることが出来なかっただろう。 タツヤのフェロモンに縋るだけの、ただ搾取される人生。 そこからの脱却は、ヒートの痛みがあったとしても、得るべきものだったと思う。──ああ、ヒート明けってのは、余計なコトを考えやすくて嫌だな……。
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5-3

 部屋に通された後も、カケルは相変わらず俯いたままだ。 志郎は買ってきたものをとりあえず冷蔵庫へ入れて、カケルのためにコーヒーを淹れてやる。「そんで、どうしたの?」「………………」 コーヒーを前に、やはり動かないカケルは、腿の上に置いた両手を握りしめている。「なんか、ヤなことでもあった?」「僕……、僕は……、僕の体質が……、困ってる人の役に立つならって思って……」 口を開いたものの、カケルの言っていることはかなりとりとめがない。 が、志郎は黙って、話を聞いている。「兄は……、僕が志郎さんの担当を続けることを、良くないと言うんです。でも、志郎さんのあんな姿、他の誰にも見せたく有りません」「俺だって、誰にも見せたくねぇよ」 すかさず入った、合いの手のようなツッコミに、カケルは顔を上げた。 志郎は、ややシニカルな笑みを浮かべ、コーヒーカップをくいっと〝乾杯〟のように掲げる。「そんで? 兄さんのご意見は、俺とカケルくんが知り合いだから、近すぎて駄目とかって話?」「兄は……、僕が志郎さんをパートナーにしたがってるから駄目だと言いました」「はっ?」 何の冗談かと驚く志郎だが、カケルは真っ直ぐこちらを見てる。「マジで?」「僕も、兄に指摘されるまで、自分の気持ちに気付きませんでした。でも、今ははっきり言えます。僕は、志郎さんが好きです。……でも、志郎さんがアルファが嫌いで、番なんて考えられないと思ってるなら……」「いや、待って待って待って! それ以前に!」 志郎はカップをテーブルに置くと、両手を振り回した。「きみと俺の年の差とか、立場とか、もっと冷静に考えて!」
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6-1

 カケルは、タケルの執務室の前をウロウロしていた。「おい、いい加減にしろ」 扉が開き、タケルが顔を出す。 カケルは、うつむき加減で部屋に入った。「それで、要件は?」「し……瀬尾さんのことです」「高坂先生に、担当を代わってもらえと言っただろう?」「昨日も言いましたが、お断りします」「カケル!」 強い口調でこちらを睨む兄を、カケルは腹に力を入れて睨み返した。「患者さんとの信頼ももちろんありますが、瀬尾さんにも、担当医が代わるなら、こちらにはもう来院しないと言われました」「そこを説得するのが、医師としての誠意だろう?」「ヒート中の姿なんて、本来は非常にプライベートなもので、医者であっても立ち会うなんて有りえません。瀬尾さんは……、色々偶然は重なりましたが、僕を信頼して、そのパーソナルスペースに立ち入る許可をくれているんです。それがいきなり担当医が代わると言われたら、当然の反応じゃないですか」 タケルは眉間にシワを寄せ、腕組みをする。「その話を先方としてきた……ということは、それ以外の話もしてきたんだろう?」「それ以外?」「向こうは、おまえをパートナーにしてもいいと言ってるのか?」「いいえ。その話は、一旦棚上げにするようにと言われました」「……向こうが常識人で助かったな」「志郎さんを見下さないでください」「見下してはいない。むしろ、おまえみたいな子供の相手をさせて、申し訳ないと思っているぐらいだ」「僕は子供じゃありませんよ」「今のおまえは、メンタルがティーンエイジャーだ。……わかった。ではその症例できちんとレポートを仕上げることと、情報の共有は絶対だぞ」「わかってます。……あと……」 カケルが言い淀んだ様子を見て、タケルは腕組みを解いた。「なんだ
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6-2

 志郎は、荒れ狂う本能の波に飲まれ、あがいていた。 主治医変更の件は保留となり、岩崎総合病院へ通院している。 カケルは献身的に治療に取り組み、抑制剤の組み合わせも色々と変えてくれているが、相変わらずヒートが来るとこの有り様だ。「あ……、あ……、タツヤぁ……!」 あの狂おしいほど熱狂的で、突き抜けるような快感の極みを求めて、体がタツヤのフェロモンを求めている。──ふざけんな……クソ野郎! 一瞬でも理性が上回れば、タツヤにされた数々の鬼畜な所業を思い出し、悪態の一つも出てくるが。 ヒートの波に飲まれれば、そんな思考も吹き飛ばされて、ひたすらタツヤの名を呼びながら、己の体を傷つけんばかりの自慰をし続けている。 だが、その時にふと、柔らかな匂いと気配を感じた。「志郎さん……」 ハッと我に返り、志郎は顔を上げる。 そこにカケルの顔があった。「カケル……くん?」「はい、僕です」「今日、何日?」「二十日です」 ぼんやりとした思考の中で、日数をかぞえ……。「え……? まだ二十日?」「はい。ヒートが始まって、三日目ですね」 びっくりして起き上がろうとして、そこで初めて自分がカケルにしがみついていたことに気づく。「あ……、ごめん……」「いえ。実は僕が、志郎さんを抱きしめていたんで……」「え……」 一瞬、カケルが志郎のフェロモンに飲まれたのかと強張ったが──。 カケルの服は、志郎が掴んでいた以外に乱れたところはない。「えっと……、どういう…&hellip
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7-1

 志郎がカケルの診察室に入ると、そこには──見るからにアルファと分かる、カケルに良く似た男性が、丁度、奥の仕切りに入っていくところだった。「今の……」「ええ、兄です。……あ、別に志郎さんのことを見に来たわけじゃないですよ」 カケルは、声を潜めて言った。「そうなの?」「近々、学会で海外出張に行くんですけど、その時に、父に会いに行くから、なんか伝えることがあるなら……って」「お父さん、海外なんだ?」「ええ。兄が優秀だから、あとは任せられるって引退して、今はカリフォルニアで悠々自適ですよ」 カケルはパソコンの画面にカルテを開いた。「前回、フェロモンを使うことで少し症状が和らぎましたが。その後、なにか体調の変化とはありますか?」「いや……。むしろ順調かな……」 しかし、答えた志郎の顔には浮かない表情があった。「順調とおっしゃる割に、顔色が良くないですね」「個人的なことだよ。少し体調が良くなったから、ちょっと墓参りにでも行こうかと思ってて……」「えっと……、それはどちらの……?」「うん。両親は本家の墓に入れてもらってるから、俺が管理をする必要はないんだけど。行くとなると、その本家に顔出さなきゃならないんだよね」「親族付き合いは、いろいろありますからね」「ウチの両親は交通事故でね。親父の兄貴が本家を継いでて……。俺が身を固めないことを、心配してくれててさ。……顔合わせるの、面倒くせぇんだよ」 ははは……と笑って、志郎は頭を掻いた。「じゃあ、僕がご一緒しましょうか?」「……なんのために?」「僕が……パートナーになりますって言えば&he
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