志郎が身支度を整えて、マンションを出たところで、向こうからカケルが走ってきた。「志郎さん!」「カケルくん、どうしたの?」「これを……」 カケルは、きっちりとパッケージングされた錠剤を一つ、差し出した。「なにこれ?」「最近出たばかりの新薬です。ヒートを抑える効果がすごく高いんですけど、体への負担も結構掛かるんで、普通に処方するのが難しいんですけど……」「え、そんなの、俺に渡していいの?」「ホントは、あんまり良くないです。……でも出先で志郎さんになにかあったら、僕すごくいやなんです」 薬包を渡しながら、カケルは志郎の手をぐっと握る。 志郎は、その手をそっと握り返して……、それからその指をほどいた。「心配かけて、悪いな。ありがとう」 指をほどかれたことで、カケルは一抹の寂しさを感じたが。 顔を上げると、志郎は微かに笑って、カケルへの感謝をにじませていた。「お車ですか?」「いや……、免許はタツヤと同棲してた時に失効して……、それっきりだ」「電車での移動、大丈夫ですか?」「完全防備で行くから、平気だよ」 志郎はポケットからマスクを取り出すと、ぴったりと押し当ててみせる。「気分悪くなったら、電車降りてくださいね」「分かってる」「……いってらっしゃい、志郎さん」「うん、いってきます。なんか、土産買ってくるよ」 志郎は薬を大事にしまうと、カケルに手を振って、駅に向かった。
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