志郎は、持っている服の中でも一番仕立ての良いスーツを着て、岩崎総合病院の前に立っていた。 休診日にここに来たのは、カケルの「志郎さん、兄さんに会ってください」に〝そそのかされて〟の結果だ。──それでも、親族勢揃いの顔合わせとかじゃないだけ、まだマシか……。 とはいえ、それはむしろ、最初にタケルが値踏みをしてきているとも取れる。 だから一番まともに見える服装でやってきたのだ。「志郎さん! こっちです」 正面玄関ではなく、救急外来の扉から、カケルが手を振った。「これ、お兄さんに渡してくれる? 甘いものが好きなら良いんだけど」「手土産なんて、気を使わなくてもいいのに……。あ、カステラだ! お義姉さんが喜びます」 渡された紙袋の中を見て、カケルは嬉しそうに言った。「カケルくん……、俺、変じゃない?」「すごくかっこいいです。アルマーニですか?」「いや……、個人店舗のフルオーダー。俺の一張羅?」「惚れ直します」「よせよ……」 廊下を歩き、タケルの執務室へと案内される。 扉を開けると、そこにタケルが待っていた。「は……はじめまして、瀬尾志郎と申します」「こんにちは、岩崎尊です」 握手を求められ、志郎は応じたのだが──。 タケルは、その手を握ったまま、深々と頭を下げた。「この度は、愚弟が様々なご迷惑をおかけしまして……」「え……、あの……」 狼狽える志郎は、思わず振り返ったが。 カケルも驚いた顔で首を左右に振っている。「カケルは、不束者でございますが、私にとっては可愛い弟です。今後も至らずにご迷惑をおかけすると思いますが、どうか……
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