Semua Bab 王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~: Bab 11 - Bab 20

21 Bab

第11話 誰がために

セリーナがベッドに入って、しばらく―― ランプの明かりが、ゆらゆらと壁に影を描いていた。 外では虫の声と、かすかな夜風が草を揺らしている。 「ガット。明日は予定通り?」 「ああ。川のほうは堰き止めてある。縄を引っ張れば外れる仕組みだ。馬の上からでもわかるようにしてある。」 ガットが身振り手振りを交えながら、地図を指でなぞる。 彼の指先は、まるで長年の経験を刻んだように迷いがなかった。 「うん。わかった。追っ手は来るだろうからね。」 「ああ。だから川を氾濫させて行く手を阻む。」 「橋も近くにないから分断できる。そしてその先は……僕たちの庭だからね。」 コビーが淡く笑う。 火の粉がはらりと舞い、二人の顔を赤く照らした。 その笑みに、静かな自信と、どこか寂しげな響きが混じっていた。 「コーデの森は入り組んでるから、慣れてないと絶対に迷う。」 「だな。王都の兵士は森には入ったことがないはずだ。」 短く交わされる言葉の奥に、張り詰めた緊張が漂う。 波の音だけが、時間を刻むように遠くで響いていた。 「そうだね。最悪を考えて煙幕は入口で出すよ。匂い袋もあと一つあるから。」 「ああ。頼む。」 「小屋のほうは?」 「そっちも昨日見てきたが、静かなもんだ。」 「見張りは明日付くだろうね。」 「でも見張れる場所は決まってるから、すべてこっちの手の内なんだよね。」 「まぁな。だからあの小屋を選んだ。」 「ガットのほうは?」 「ああ……ちょっといいか?」 ガットが外を指差した。 夜風が冷たく、星の光が微かに地面を照らす。 コビーはセリーナのいるほうを一瞬だけ確認し、静かにうな
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第12話 プリシア

ラディス山脈中腹の旧保線小屋に向かうコビー。(あと少しで……村のみんなを助けることができる……)朝焼けの中、海沿いを走り、山脈へと進路を変える。(……君の村を守れるんだ……)(プリシア――あの笑顔が、いまも僕の背中を押している。)――回想――「コビー! ねぇ! そこにいるんでしょー?」納屋の屋根の上で寝そべり、空を見ていたコビーが身を起こす。「ん?」下をのぞくと、笑顔のプリシアが立っていた。「ほーら、やっぱりいた。」コビーは苦笑して肩をすくめる。「よくわかったね? ここだって。」「天気がいいとだいたいここだからね。」「さすがだ。」「それより村長が呼んでたよ。」コビーは背伸びをして、軽く息をつく。「ん……んー。今行くよ。」「よっと!」屋根から飛び降り、村長の家に向かう途中で振り返る。「あ、プリシア。」「ん?」「代わりに納屋の片付け……お願いね。」「ちょ、ちょっと! んもう!」プリシアの声が青空に溶けた。――現実――ダカッ、ダカッ、ダカッ!コビーが馬を飛ばす。(兵士らしい影はない……このまま山道まで!)――回想――村の入口で。「プリシア、どこ行ってたんだい?」「お母さんのところ。」「今日は……二十日だったね。」「うん。」「二年か……」(薬さえあったら……シーラさんは助かった……)――現実――山道に入り、スピードを落とす。(この辺は張ってる様子はない……隠れるところもないからね。)――回想――「どうぞ、お姫様。」コビーは手作りの魚の煮込みをプリシアに差し出す。「くるしゅ
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第13話 希望のために

今は使われなくなった鉱山道を通り、小屋の真下で身を潜める。(約束の時間までもう少し…)朝の空気は冷たく、息が白い。 遠くで鳥の鳴き声が一瞬して、また静けさが戻る。やがて――ガタン、ガタン…。 山間を抜けて、車輪の音が微かに響いた。(動いた…時間通り。)馬車が小屋の横に止まり、御者が馬を引き上げる。 (よし…)コビーは鉱山道に戻り、横穴を抜けて小屋の床下へ。 そっと板を押し上げ、中の様子をうかがう。小屋に入り、人気がないことだけ確認する。 (気配はなし……) 外へ回り込み、荷台底部の梁に括りつけられた布袋を指で探る。封緘紐に封蝋――王印。(偽札じゃない……封は未開封、連番も揃ってる。王印も透かしも本物だ。よし。)口を割ると、乾いた紙の匂いがふっと立った。「ふぅー…」息を整え、ドアを開けて外へ。 麻袋を抱え、鉱山道を抜けて走り出す。(はぁ……はぁ……札束って見た目より重い……さすがに三千万ウィルは堪える……)岩壁に囲まれた道を抜け、馬に袋を積み北へ。山道の先――。 一見、誰もいないように見えた。 けれどコビーには、岩陰や木立の影に潜む兵士の気配がはっきりと分かっていた。(やっぱりね…ナビルの兵士は命令に逆らわない…隠れたまま動かないなんて、ほんと礼儀正しいよね…)わざと気づかないふりをして、馬を進める。 その背後、岩陰から低い声が漏れた。「……通過した。後方より追尾せよ。」砂利がこすれる音。 影が一斉に動いた。(ほら、来た…でも想定済みだよ。)左右の林道からも二騎ずつ。 (見逃さないってことだろうけど…)コビーは川の浅瀬へ馬を進めた。 冷たい水が蹄を打ち、飛沫が足を濡らす。(そろそろ主流のとこ…) (見えた…あれだ
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第14話 セリーナとプリシアと

運送屋の倉庫裏。 王都行き便の積み出し口、その片隅。 ひんやりした空気の中、二人の影が身を潜めていた。 マントの裾が風に揺れ、フードの奥で息を殺す。「コビーから合図がくる。」「それまで待ちだ。」「合図ですか?」「ああ。コビーがうまく逃げられたら、そこの川の水かさが増す。」川のせせらぎが、静かな夜にかすかに響いている。 セリーナは頷き、冷たい指先をぎゅっと握った。「上流を堰き止めてるからな。それをコビーが決壊させる。水かさが一気に増える。それが合図だ。」セリーナは小さく息をのむ。 (コビーが逃げられるかどうか……それがすべて……)「コビーが逃走成功したということにもなる。」その時、外から声がした。「おい……川の水かさ、急に増えたぞ!」「今日はやけに少ないと思ってたが……上流で何かあったのか?」(よし……コビーが通った)人々の視線が一斉に川へ逸れ、積み場は一瞬で静まり返った。「行くぞ。」セリーナはうなずく。 箱の蓋が静かに開き、ガットが先に飛び入る。 そしてセリーナを抱き上げ、優しく中に入れて蓋を被せた。「よし。成功だ。」「コビーさん、成功したんですね?」セリーナの声には、わずかに安堵がにじんでいた。「ああ。このまま二時間ぐらいで王都に着く。」「はい。」外から人の声が近づく。「これもか……でかいな……」「おい、落とすなよ!」ギイ――木箱が持ち上がる。 体がふわりと浮く感覚。次の瞬間、ゴトンと積台に落ちる衝撃。 ゴトゴトゴト……車輪が石畳を刻み出す。 ガットが唇に指を当てる。セリーナはこくりと小さくうなずいた。「王都直送の荷もあるんだ、丁寧にいけよ!」「はい!」箱の中で、セリーナはずっと
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第15話 人として…父親として…

王都・西区。 王都倉庫内。 積み荷の間を抜ける風が、油と木の匂いを運んでいた。 開け放たれた扉の隙間から、夕陽が射し込み、 積み上げられた木箱の影が床に長く伸びている。倉庫の空気は重く、静寂の中で緊張だけが響いていた。「!? なんだ!」「セ、セリーナ様!」「貴様!」怒号が上がり、兵士たちが一斉に構えを取る。 オレンジ色の光が差し込む中、 ガットがセリーナの首元にナイフの刃先を寝かせ、冷たさだけを首筋に触れさせていた。 刃に夕陽が反射する。「騒ぐな!」低い声が倉庫全体に響き渡る。 ガットの腕は震えていたが、その眼は真っ直ぐに燃えていた。「王女を傷つけたくない。 王に話がある!」「王を呼んでこい!」「お、お前、何をしているかわかってるのか!」「もう一度言う―― 王を連れてこい!」木箱の影で兵士たちがざわめく。 夕陽が差し込み、埃が金色に舞っていた。そこへ兵士長が駆けつける。「話を聞こう。その前に王女を離せ。」「お前じゃねぇ。王に話があるんだ!」(セリーナ……すまない!)ガットは腕に力を込め、セリーナを引き寄せた。 首元に刃が触れ、セリーナの喉が小さく震える。「ん……んん……」その苦しげな声に、兵士長が焦りを見せる。「わ、わかった! 今呼んでくる!」「はじめからそうすりゃいいんだよ!」「くっ……外道が!」外の光が一瞬陰る。 扉の外から足音――重い靴音が近づく。ナビル王が姿を現した。 豪奢ではなく、旅装のままの外套姿。 夕陽が横顔を照らし、瞳に橙の光を宿している。「貴様か。」「やっと来たな……あんたに話がある。」「私に直接物言いとは……なんだ? 三千万では足りぬか?」「そんなんじゃねぇ。」
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第16話 必要な人…そして…

次の日──牢獄。冷えた石壁の部屋の中、ガットは硬いベッドに腰を下ろし、通路の天井に吊るされたランプの光をぼんやりと見つめていた。ガチャン……。遠くの鉄扉が開く音が響く。 かすかな話し声が続き、そして、ひときわ高く(遠く)「はっ!」という兵士の声。(遠く)「……してください。」(遠く)「わかりました。」(……セリーナ?)コツ……コツ……コツ……。革靴の音が近づいてくる。 角を曲がったその先に現れたのは、王女セリーナだった。「ガットさん。」「セリーナ……。」ガットはゆっくりと立ち上がる。セリーナは鉄格子の向こうからまっすぐに彼を見つめた。「ナビル王とは……和解できたか?」「……はい……。」「そうか……それはよかった。」短い沈黙。セリーナの瞳には涙が溜まりかけていた。「そういう顔をするな……。」ガットは小さく笑った。 「そういう顔をさせないために、俺は体を張ったんだがな。」「はい……。」しばらくの沈黙のあと、セリーナがそっと口を開く。「今朝……。」「?」「コビーさんが、身代金を返しにきてくれました。」「……コビーが……?」「身代金は全額返すから、ガットを返してくれと……。」「泣きながら……何度も……何度も……。」(あいつ……。)(コビー……結局お前まで巻き込んじまったな……。)──今朝。王城の前。朝の光を受け、石畳の広場に兵士たちの怒号が響く。「貴様らが王女を!」「身代金は返しますから!」「何を今さら! お前らは終わりなんだ!」「罪は消えないんだよっ!」押さえつけられ、コビーは殴られ、蹴られた。それでも、地面に倒れながら叫び続けた。
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第17話 王女として…

前日の夜──。私室で泣いているセリーナ。「う…うぅ…」(私は…やっぱり何もできないんだ…)コン、コン……。セリーナは必死に涙を拭う。「はい。」「私だ。」その声はナビル王。「お父様……お入りください。」ガチャ……。そこにいたのは、いつもの王の目ではなく、優しい“父親”の目をしている王の姿だった。「お父様!ガットさんは!」「裁きは受けると言った。」「ダメです……お願いです……お願いですから…!」嗚咽混じりの声が部屋に響く。ナビル王は黙ってその場に立ち、やがて大きく息を吐いた。「セリーナ……お前にとって、ガットはどういう男だった?」「ガットさんは……私を……救ってくれた…… 私に笑顔をくれた人です。」「これは誘拐なんかじゃ……ありません……。」涙が頬を伝い、床に落ちた。ナビル王はしばし沈黙し、重く目を閉じたまま言葉を絞り出す。「すまなかった……セリーナ。」「え……?」「私は…お前が見えていなかった。ガットに教えられたよ。」「お父様……」「許してくれ……セリーナ。」涙で言葉が出なかった。そして──ガットの言葉を思い出す。(俺が王にガツンと言ってやる!)(俺は……お前を守りたい。)(ガットさん……)ナビル王の瞳が、ゆっくりと変わっていく。先ほどまでの“父”の優しさは消え、そこにあったのは──“王”としての冷静な目。「しかし、罪は罪だ。あやつもそれを覚悟していた。 罪は法的には裁かねばならない。」「国で決めたことだ。」
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第18話 共に生きましょう。

セリーナが法令状をしまい、もう一枚の紙を静かに広げる。それは、王族にのみ許された絶対の書。《王族特権状》「王族特権状──この状は、いかなる法令であっても王族の名において棄却、または改定を行うことを許すものです。」ガットは息をのむように、セリーナを見上げた。「……読み上げます。」「王族特権状により、同日。セリーナ=ナビルの名において改定。」「法令による罪状は、すべて破棄。」「ガット=ローウェル、コビー=ハンクス──両名を無罪とします。」牢内に静寂が満ちる。 ガットは、涙を堪えきれず目頭を押さえた。「なお、身代金三千万ウィルは回収。改めて、ラスの村復興のための譲渡金として三千万ウィルを贈呈します。また、穀物の種五十種、苗三十種を合わせて送付します。」(お父様が…昨夜、私に言ってくれた。)──昨夜。「あやつの罪は、法的には裁かねばならない。国で決めたことだ。」セリーナは顔を横に振る。 ナビル王の目が、再び父の優しさを宿す。「……ただ、改定はできる。王族である私と、お前ならな。」「改定……ですか?」「ああ。それが“王族の特権”だ。」ナビル王はゆっくりと頷いた。「ガット=ローウェル、コビー=ハンクスの件──セリーナ、お前に任せる。」──そして、今。牢獄。(だから私は……)「以上すべての物を、ラスの村に──」(王族としてしかできないことを……)「譲渡いたします。」(私らしく……)「……以上です。ガットさん。これが今、私にできる精一杯のことです。」「ああ……充分だよ……」ガットは涙が止まらなかった。「……釈放します。」(あなたが気づかせてくれた……わたしにできること。)
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特別話Ⅰ 笑顔のレストラン

それから三カ月後。一月の澄んだ空の下――ナビル王国・城下町東地区。そこに、一軒の新しいレストランが静かに扉を開いた。レストラン《セリーナ》昼下がり、柔らかな陽光がガラス越しに差し込む。木の温もりを残した店内には、花の香りと焼きたてパンの香ばしさが溶け合っていた。「こんにちは、コビーさん。」扉の鈴が軽やかに鳴る。白い外套に身を包んだセリーナが、少しはにかんだ笑みを浮かべて立っていた。「あ! 王女さん! よく来てくれたね。ありがとう。さ、こっちこっち。」コビーは嬉しそうに手を振り、店の奥の特別室へと案内する。壁には彼の故郷の海を描いた絵が飾られ、窓際には季節の花が揺れていた。セリーナは店内を見渡し、ふわっと微笑んだ。「へぇ……すごく、きれいですね。」「ふふっ。ありがとう。僕のこだわり入ってるからね。王女さんには感謝だよ。こんな素敵な場所を……僕なんかのために。」セリーナは頬を緩め、少し照れたように笑った。「コビーさんの料理はほんとに美味しいんです。だから私もみんなに食べてもらいたい。みんなに笑顔になってもらいたいと思ったので。」「ふふっ。プリシアと同じこと言うんだね。」「プリシアさんと?」「うん。『コビーの料理は美味しいから料理屋やりなよ』って。嬉しかった。そう言われて。王女さんが願いを叶えてくれた。だから僕はナビルの人達を料理で笑顔にしてみせるよ。」セリーナは優しく微笑みながら頷く。 「はい。」二人の笑顔に、一月の冷たい風が、カーテンをやさしく揺らした。「今日はね……特別フルコース出すから楽しみにしててね。」「はい。」その時、奥から低い声が響いた。「セリーナ。久しぶりだな。」驚いて振り向くと、扉の向こうに懐かしい大柄な男の姿。 その肩には、長旅の埃がうっすらと残
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特別話Ⅱ 花冠

城の裏の庭園に、色とりどりの花が咲き始めていた。白や薄紅の花びらが、春風にゆらりと揺れる。「もう春でございますね。」侍女クララが柔らかく微笑む。セリーナは風にそよぐ髪を押さえながら、空を見上げた。(誘拐される前は……一年がすごく長く感じた。)(でも今は……)「一年が早く感じます。」庭園の奥、草原に広がる白い小花。その光景に、セリーナは足を止めた。(シロツメクサ……)あの時、渡せなかった花冠。言葉にできなかった想いは、季節と共にしぼんでいった。でも――今なら、もう一度編める気がする。「クララ。籠を持ってきてくれますか?」「籠ですか?」「はい。花冠を……久しぶりに作りたくなりました。」「わかりました。」(もう一度……お父様に……)セリーナはスカートの裾を軽くつまみ、白い花々の間に膝をついた。春の陽光がその髪に降り注ぎ、淡く金色の光がきらめく。手のひらでそっと茎を折り、指先で編み込んでいく。(作るのは久しぶりだけど……)淡い香りと共に、ひとつ、またひとつ。シロツメクサの輪が形になっていく。(できた……思ったより時間、かかっちゃった。)花冠を胸に抱え、セリーナは小さく息をついた。――夕刻。ナビル王私室。扉の前で、セリーナは小さく深呼吸をした。コンコン。「セリーナです。」「入れ。」重厚な扉が静かに開く。セリーナは花冠を後ろに隠し、そっと進み出た。「どうした?」「これを……お父様に……」セリーナは両手で花冠を差し出した。白い花々の間から、春の香りがふわりと漂う。「私のために作ってくれたのか?」
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