凛はただ、驚いただけだった。こんな大手企業の社長が、自分に雑炊を作ってくれるとは思ってもみなかったから。それに、智也との食卓には、雑炊が並ぶことすらなかった。智也が嫌いだったというわけではないのだが、ただ智也の食習慣に雑炊というものがなかったのだ。とはいえ、海斗も智也もA市で生まれ育った人間。食の好みにそこまで大差はないはずだ。「凛さん、お水どうぞ」と、美穂子が凛にグラスを渡す。半分ほど飲み干した凛は、口元を拭ってから海斗に聞いた。「どうしてこれを作ろうと思ったの?」「君に食べさせるためだ」あまりにも真っ直ぐな答え。凛は一瞬言葉に詰まり、そしてなぜだか、この場から逃げ出したいという衝動に駆られた。洞察力の鋭い海斗は、彼女の足先がわずかに出口の方向を向いたことに気づく。驚かせたか……海斗は少し間を置いて、もう一度口を開いた。「君が手のひらサイズのパンを作ってくれただろ?だから、その礼として準備したんだ。俺が言ったこと、忘れたのか?」少し考えたが、凛は何のことだか本当にわからなかった。「あなたが私に言ったことは多すぎて、何のことだか覚えてない」そばにいた美穂子が小さく呟く。「海斗様に対して言うことが多すぎるなんて言う人は初めて見ました。やっぱり相性ってあるんでしょうか」その声は小さく、二人の後ろに立っていたため、海斗と凛には聞こえていなかった。海斗が言う。「思い出せ」「うん」この話は、海斗が以前言ったどの言葉に繋がっているのか考えている間に、凛の先ほどまであった、この場から逃げ出したいという気持ちは、いつの間にか薄れていた。海斗が再び腰を下ろし、雑炊の器に視線を向ける。「もっと食べるか?」凛もレンゲを持ち直して、「食べる」と答えた。食べ進めていると、いつの間にか頭の中はこの雑炊のことでいっぱいになっていった。海斗が作った雑炊……それが、意外なほど美味しいのだ。具材の大きさが均等なところを見ると、もしかしたら、切るところから海斗が全部自分でやったのかもしれない。それに、海斗は雑炊を作るだけではなく、夜の屋台で芋を買ったり、激辛の焼き鳥を食べたりする……「海斗」凛はふと海斗に尋ねた。「前の焼き鳥、本当にお腹壊さなかった?」海斗は驚いた表情で凛を見つめる。この雑炊で、1週間
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