もともと、相手を見て自分の態度を決める胡桃なので、利明の鋭い視線を受けた途端、さっと智也と正人の背中に隠れた。この病室でまた言い争いが始まるのではないかと気が気でなかった正人は、ため息をつきながら利明をなだめる。「神谷さん、もうお帰りください。本当に柚葉さんの力になりたいなら、来週の裁判でどうすれば賠償額を少しでも減らせるか、そのことを考えてあげたほうがいいと思いますよ」「裁判?賠償金?」「ええ。借りたものは、いつか必ず返さなきゃいけないですからね。誰だって、皆同じです。智也だって例外ではありません」利明は思わず、女に使った金を取り返そうと裁判を起こすなんて、それでも男か、と言いかけた。しかし、智也だって例外ではない、という一言に違和感を覚えた。そして、そこでようやく気づいたのだ。どういう裁判かも理解した。誰が訴えたのかも……ようやく利明を帰すことができた正人は、胡桃に言った。「智也に水を持ってきてやれ。薬を飲む時間だ」胡桃は素直に従った。両親と智也に見放されたら、本当に自分一人で生きていかなければならない。疲れ果てていた智也は、椅子に腰を下ろすと、正人を見つめた。「しばらく迷惑をかけるよ。病院を離れられそうにない」正人は頷くと、真剣な表情で尋ねた。「本当に車も家も全部売るつもりか?俺にだって少しなら……」「大丈夫だ」智也は丁重にその申し出を断る。「車も家も売れば、母さんの手術代と、その後の治療費くらいにはなる」「それじゃ、智也はどこに住むんだ?」「南山ヒルズに借りている家がある」正人は複雑な気持ちになった。賃貸と持ち家では意味が違ってくる。その時、水を持って戻ってきた胡桃が慌てて口を開いた。「お兄ちゃん、家を売るの?どの家?お兄ちゃんの?お父さんとお母さんの?それとも私の分?」あれは自分の将来のために用意された、大切な財産なのに!智也は胡桃を見据える。「全部だ」つまり、胡桃のものも売りに出すということ。胡桃の目が一瞬で赤くなった。「本当に全部売っちゃうの?凛さんは柚葉さんに20億円以上の返済を求めて裁判を起こしているんでしょ?だったらそのお金、凛さんから少し分けてもらえないの?あれは本来、お兄ちゃんのお金なんだから、離婚したからって、夫婦のお金だったことまでなくなるわけじゃないでしょ?
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