子どもながらに、俺はしっかりしてる方だと思っていた。言葉を話すのも早かったらしいし、絵本が読めるのも早かった。周りに泣いてる子がいると、どうしたのか積極的に訊きに行っていた。何でなのか訊かれると分からない。考えるより先に体が動くタチだったのかもしれない。常にぐるぐる考えて、今できることはないか探し回っていたんだろう。そんな俺だから、“彼”にひかれたのは必然とも言える。────欠けたグラスのような子だった。わざわざ覗かなくても中身が見える。優しさを注げば、満タンになる前に溢れて零れる。さらに、欠けてしまった、鋭利な部分で触れる者を傷つける。不安定で不完全な男の子。そんな子が俺の家の隣に引っ越してきた。「おかえり、理貴。この子は今日隣に越してきた水無さん家の真陽くんよ。理貴の方がひとつ歳上のお兄ちゃんだから、仲良くね」家の前のだだっ広い道に、母と一緒に見慣れない人影があった。父と買い物から帰った直後だ。大人の男女がいた。最初はドキッとしたけど、隣の家に誰か引っ越して来るという話は聞いていたから、すぐに理解した。それより、自分の少し下の背丈の少年に釘付けだった。大きな瞳にはわずかばかりの警戒、それに怯えの色が混じっていた。まだ何も言ってないうちにこんな不安そうにしてるなんて、可哀想だな。 彼と対照的に、呑気に考えた。「ほら理貴、自己紹介しな」「うん」そういえば、彼の名前も印象的だ。水無。水が無い? 大変な名前だ。でもこの町は水で溢れてるから来て良かったじゃないか。……そんな、子ども特有の謎思考。「真陽くん。俺は理貴っていうんだ。よろしくね!」笑って手を出すと、その子はビクッとして後ろに下がった。怖がりなことはもちろん察していた。でも初対面でそういう反応をされたのは、生まれて初めて。それなりにショックだった。俺は誰とでも仲良くなれることが自慢だった。「理貴くんといると安心」って、歳下だけじゃなく同い年の友人からも言われていた。それを覆したのが彼だ。あからさまに怖がって、俺の手を取ろうとしなかった。「すみません、本当に人見知りで……真陽、理貴くんにちゃんとご挨拶しなさい」けど母親の女性に怒られると、俺の方を見て何か呟いた。もっとも、その声も小さすぎて何を言ったのか分からなかったけど。黒髪の小さな男の子。水無真陽《みずな
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