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All Chapters of No rush: Chapter 1 - Chapter 10

26 Chapters

【1】

「お? めっずらしー、真陽が本読んでるなんて。これ明日は雪降んじゃねえの?」梅雨明け宣言がされて間もない、晴天の昼下がり。学校の教室でカバー付きの本を読んでいた水無真陽《みずなしまひる》はクラスメイトの大声に眉を寄せた。読書をしている自分の姿が大層おかしいらしく、声を掛けてきた生徒は肩を震わせて笑っている。まあ実際“読書”とは懸け離れた人間だから、言いたい気持ちは分かるが。腹が立ったので無視を決め込んでいると、今度は読んでいた本を奪われてしまった。途端、真陽の全身から嫌な汗が吹き出す。「どれどれ、真陽は一体どんな本を読んでるのかなあ~~オフッ!!」その本の内容は決して知られてはいけない。ページを開かれる前に彼の鳩尾を(一応加減して)殴った。弱らせることに成功したものの、なんと彼は近くにいた他の生徒にその本を投げ渡してしまった。「おい、誰かこの本を持ってけ! 絶対エロ本だ!」それを聞いた、男子生徒全員が振り返る。皆我こそ先にとその本を奪い合った。切り替え速すぎだ。俺が元凶とはいえクラスメイト達が心配になる。「エロ本だと! よこせ!」「俺がもらう! 教師なんかに絶対渡さねえ!」そして教室はあっという間に戦場へ変わった。最悪な乱闘が幕を開けた。本の持ち主である俺は蚊帳の外だし……絶対、あの本の正体を明かされるわけにはいかない。最初に叫んだ彼の読み通り、あれはエロ本だ。だがエロ本はエロ本でも、彼らが望んでいるものとは少し種類が違うのだ。今もずっと宙を舞ってるけど、何とかして奪い返さないと。マジで明日から学校に行けなくなる。「あっしまった!」本が床に落ちた一瞬を見計らい、心を鬼にして本を廊下の外へ蹴り飛ばした。「あぁっエロ本があ!」「水無っお前何してんだ! エロ本蹴るとか地獄に落ちるぞ!!」ぎゃーぎゃー叫んでる彼らを無視し、全速力で廊下へ出る。あれは見られたらマジでやばい。短時間でボロボロになった哀れな本。手を伸ばして奪取しようとしたとき、偶然そこを通りかかった男子生徒がひょいと持ち上げてページを開いた。運悪く、開いたのはちょうど扉絵だったらしい。見た瞬間に青い顔で叫んだ。「な、何だこの本! 男と男がベッドで…………アッ────!!」……そこから先の記憶はない。頭が真っ白になって膝から崩れ落ちた。後日、クラスメイトの証言によ
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#1

なんたって朝からこんなことで頭を抱えなきゃいけないんだろう。それもこれも、理貴が寝てばっかいることが原因なのに。だから織部先輩にも勘づかれて、気まずい尋問を受けてしまった。理貴がもっとシャキシャキしてれば、こんなことで苦労しなくて済むんだ。だから今回のコレは理貴にも非があると思う。……って、もう完全に逆恨みに移行している。これじゃ何の解決にもならない。一回頭を冷やすか。近くの自販機まで歩いて、炭酸水を飲んだ。のどを通る瞬間は辛くて涙が出そうだったけど、おかげで少し冷静になれた。俺も大概自分勝手だ。何回目か分からないため息をもらすと、遠くからクラスメイトの梨本がやってきた。「おーい、水無。お前もちょっと入れよ、ピッチャーとバッターどっちがいい?」「俺はいいや。そんな気分じゃない」「はああん? ほんとに不良だな。ずっとサボってること先生に言っちゃうぞ?」「勝手にすれば」「わかった。先生ー、水無くんがここでずっとサボォッッ!!」間一髪、彼が言い切る前に襟を掴んで黙らせた。それから一時間後。俺は教室でゴリラ顔の担任に呼び出され、説教を受けていた。「水無、仮病をつかった上に梨本と喧嘩したんだって? まったくいつも問題ばかり起こして……毛根と親御さんを泣かせるなって他の先生も言ってるだろ」すでにクラスメイトは全員帰って、生徒の席に座ってるのは俺だけ。中学の頃の真面目な俺が見たら間違いなく失神する光景だ。「見逃してやるのは今回まで。次何か起こしたら問答無用で指導室に連れて行くから、そのつもりでな」先に手を出したのは自分だから、最後通牒だな……。小さく頷くと、担任は教室を出て行った。彼の言う通り、今の自分は粗暴極まりない。中学の忌まわしい事件以来、気が短くなった。一時的にストレスがたまってるだけならいいけど。( 本当に変わったな )地味で存在感は皆無だったけど、成績だけは上位をキープしていた中学時代が懐かしい。ああ、もう考えるのも疲れた……。自業自得だというのに、憂鬱なことばかり考えて嫌になってしまう。夕陽を見たら帰らなきゃいけない気がして、鞄を取って教室を後にした。けど、廊下にはひとりの生徒が壁に背を預ける形で、横向きに倒れていた。「うっわ! 何!?」驚きながらも近付いて見ると、なんと理貴だった。行き倒れにも見えるし、殺人
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#2

平静を装うとしても目が泳ぐ。口を開けば余計なことを言ってしまいそうで顔を背けた。けど急に抱き起こされ、近くの男子トイレの個室に引き込まれた。「り、理貴……っ」「真陽」鍵をかける高い音。慌てて逃げようとしたけど、壁に押し付けられてしまった。「何か隠してんね。わるい子」「っ!」反論する間もなく、唇を塞がれた。それに飽き足らず、熱く熟れた舌が潜り込んでくる。「ん……っ!」息が苦しい。彼の肩を押して抵抗するけど、それは逆効果だった。今度はシャツの下から手を突っ込まれ、どんどん深いところへ這っていく。「あっ……! 理貴、やだ」「織部と何話してた?」「先輩、が……俺達の関係に気付いたみたい、で」途切れ途切れに話すと、彼は口角を上げた。こちらの焦燥とは対照的に、余裕たっぷりの態度。とうとう、俺のベルトを外してズボンを下ろした。「ちょっと、やめろって! ちゃんと言ったじゃんか!」「あぁ、そうだね。だから今度はいい子いい子してあげる」彼の長い指が、最後の着衣を奪い取る。そして奥に隠れていた中心部分を引きずり出した。そこは彼に触られただけで、熱を持ち始める。「ひあっ」「可愛い声。でも抑えておきな。放課後だって人は来るから……さ」獲物を見つけた猛禽のような眼。睨まれると抵抗もできなくて、ただ彼の腕に抱かれる。こうなると、もう絶対彼に逆らえない。理貴はそっと屈んで、指を巧みに動かす。硬度を持った中心は白く粘着質の液体を零した。膝が震える。とても立ってられず、倒れ込むように彼にすがりついた。「顔真っ赤。真陽、気持ちいい?」蕩けた頭と潤んだ瞳で見上げる。理貴は薄ら笑いを浮かべて、手についた液体を丁寧に舐めていた。やめろと言いたいけど、そんな元気もない。快感の余韻が強過ぎて、しばらく放心していた。「寝ちゃだめだよ? 俺が起きてるんだから」「あっ!」夢でも見そうになったその瞬間、彼は俺の果てた性器の先端を爪で引っ掻いた。くそ……っ。本当に酷い。眠気に襲われてる時は片手で捻れるぐらい弱いくせに。目が覚めているときの理貴は意地悪で、狡猾で、執着がすごい。尋常じゃない独占欲を隠し持っている────俺を苛めることに快感を覚える、超ドS彼氏だ。理貴の存外鬼畜な一面は付き合ってから知ったことだ。もし付き合う前に知っていたら、告白はもうちょい先
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#3

「あー、今日もよく寝た!」学校を出て、二人で駅へ続く道を歩く。理貴は腕を伸ばしながらルンルンで話しかけてきた。二重人格かと思うほど、昼間とは雰囲気が違う。「真陽もちゃんと昼寝してる? 寝ないといつまでたっても身長伸びないぞ」「もう俺の成長期は終わったよ。それに身長は夜寝なきゃ意味ないだろ」これが本当に困ったところで、今の理貴は完全に昼夜逆転生活に陥っている。たっぷり昼寝をしてるせいで夜更かしして、翌日は昼まで寝てる。以下無限ループ。何とかこの負の連鎖を断ち切らなきゃいけないと、謎の使命感に囚われてる。恋人としてというより、幼なじみとしての意地……よく分からないプライドが燃えていた。「あっ、欲しいイヤホンケースがあったんだ。真陽、店行ってカラオケ行って、どっかで飯食ったら俺ん家に行こう」理貴はにこやかに俺の頬をつつく。まったくどうしようもないチャラ男だ。「もちろん付き合うけど、さ。今日は早く寝なよ」「どうして?」「どうしてって。早寝早起きは基本だろ」「はー……そりゃそうだけど、金髪君に言われると変な感じだな」ぐ……。俺が昔のように地味で大人しかったら、彼の接し方も違ったんだろうか。いやいや、そうはならない。理貴は人によって対応を変える人間じゃない。( 俺が真面目だったら、それはそれでもっとはっちゃけてきそうだ )良くも悪くも、成長するにつれて変わる部分が絶対ある。人間なんだから当たり前だ。子どもの頃の片想いを引きずって告白した俺がバカなのかもしれない。ずっと昔のまま、なんて保証はないのに。“今”の理貴を見てないのに、軽々しく彼に近付いた。段々、自分が何をしたいのか分からなくなった。高校で彼を追いかけてきたのは、安心したかったからだろうか? 中学で起きた事件を忘れて、優しい人に慰めてもらいたかったのか。辛いことなんて何もなかった、子どもの頃に戻って。……だから俺は、恋人ごっこがしたいだけなのかも。もしそうなら、最低だ。自分の理想の為に理貴を巻き込んで、利用していることになる。でも理貴が好きなのは本当だ。彼と笑って過ごす為にはどうしたらいいか、寝ても覚めても考えてる。彼を幸せにしたい。すっかり俺の前を歩く理貴を見て、空っぽだった心にすきま風が吹き抜けた。そういえば、理貴を好きになった理由も上手く言えないな。根は優しいか
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#4

「今は手伝いしたら小遣いもらえるけど、バイト君よりずっと安い。俺は最低時給で使える最高の使用人だ」「あはは……自営業は大変だな」彼の実家は、顧客さんの多い割烹店だ。元々は俺の家の近くで経営していたけど、数年前立地の良いこの場所に移転した。昔は俺も家族で食事をしに行ったけど、今は随分敷居が高くなったように感じる。理貴が引っ越してから、親もこっちには全然来なくなった。ちょっと寂しいけど、理貴の親は俺が遊びにくると昔と変わらず喜んでくれるから、そこは素直に嬉しかった。「ほら、真陽。……早く」明かりをつけないせいで、こっちに手を伸ばす理貴の姿が少し不気味に感じた。その手を取ったら人知れず底なし沼に沈む気がする。だけど、吸い寄せられるように足は前へ出る。これはもう、彼の魔力だ。考えることをやめて、彼の胸の中に飛びついた。二人同時にベッドへ倒れて、そこから先はいつも通りだ。痛いぐらいに抱き締め合う。爪が食い込もうと、窒息しかけようと、早くひとつになることを願ってる。俺達は物心ついた時から一緒にいて、互いのことを知り尽くしてる。……と思ってる。離れるなんて考えられない。夜に……いや二人きりになると、俺も相当な甘えん坊に変貌してるんだろう。性別の縛りなんてどうでもいい。こそこそ隠れても、周りを騙しても、俺は“彼”と繋がりたい。叶うことなら、息が止まるその時まで────。「真陽、もしかして自分の家でシてた? ちょっとしか弄ってないのにユルユル」「あっ!」二人で沈む時間は始まっている。服を強引に剥ぎ取られて、乱暴に腰だけ高く上げさせられた。ローションまみれの窪みを彼の指で掻き回され、甲高い声を上げてしまう「声、抑えてろよ。帰って来てんの気付かれたらまずいからな」「な、ならもっと優しく……あぁっ」こちらの訴えはそっちのけで、後ろに硬いモノがあてられた。嫌な予感がしたと同時に、内部を貫かれたような衝撃が走る。嫌な異物感と、嫌な水音。間違いなく理貴の性器が挿入されていた。「真陽。あんまり暴れるとベッド軋むから、我慢な?」後ろから抱き込まれ、何度も激しく奥を突かれる。そのままならすごい声を出したかもしれないけど、口を手で塞がれたため大声で喘ぐことは免れた。ただ、やっぱり身体は揺れてしまう。激しく抜き差しされる度に音を立てて陥落していく。ベッドの
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#5

見た目はともかく、中身だけなら確実に理貴の方が変わった。いつも優しい顔して笑ってるけど腹の中は全然分かんないし、分かってしまうことが怖いときもある。たった一つしか歳が変わらないのに。たった数年離れただけなのに。……やっぱり、自分以外の誰かを理解するのは難しいことなんだろうな。恋人なんて、結局赤の他人だから。「……ん」柔らかい何かに包まれている。自分のものじゃない匂いに気付いて瞼を開けると、理貴の寝顔が鼻先にあった。部屋は暗かったのに、カーテンからは陽光が差している。朝までぐっすり寝てたみたいだ。つうか俺達ハダカじゃん……。羽目を外してそのまま寝落ちしたらしい。全裸で抱き合ってるが、こんなところん理貴の親に見られたら終わり。わずか十七年の人生が幕を閉じる。すぐさま離れたいけど、けっこう強い力で抱き締められてる。なかなか抜け出せず、しばらくもがいた。でも段々疲れてきて、ため息をつきながら彼の胸に顔を沈める。そこは暖かくて、ずっと触れてるとまた眠ってしまいそうだった。『────真陽はすぐ眠くなるんだな』ずっと昔……まだ外で走り回っていた幼い頃、理貴に言われたことを思い出した。俺はちょっと遊んだだけですぐ疲れて、道端に座り込むタイプだった。さらに良くないのは所構わず寝ようとしてしまうこと。幼稚園では昼寝の時間があったから、そこでも爆睡したいたはずだけど。俺の睡眠に限界はなかった。『寝るなら家で寝よ? 一緒についててあげるから』彼はそう言って、いつも優しく微笑んだ。俺がどんなにぐずっても、動かなくても、決して声を荒らげたりしない。世界一頼もしいと思っていた。あの頃の理貴は本当にしっかりしていた。ところが、十年経った今は真逆だ。通学中も授業中も夢の世界に入って、女子からは眠り姫と呼ばれている。俺がどんなに声を掛けても目を覚まさない。俺は理貴に声を掛けられたらすぐに起きる自信があるのに。この差は何なんだろうな。「理貴。……朝だよ」思わず声に出してしまった。……いっそ起きないで、このまま寝続けてくれたら。それはそれで良いかもしれない。そんで俺も眠って。隣でずっと一緒にいられたなら、きっと世界で一番幸せだ。危険な思考に傾きかけたとき、頬をつつかれた。「おはよ、真陽」「うわっ」もちろんそうはならず、理貴はぱっちりと目を覚ました。しかし
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【2】

週明けの前夜、飯を食い終わった後ベッドに転がってBL漫画を読んでいた。最近人気の作家の本で、濡れ場は少ないけどストーリーに定評がある。演出や設定、展開や世界観は読む度に違う。けどどれも共通しているのは、主人公がピンチの時に必ず助けてくれるヒーローがいること。商業はハピエン至上主義。それがつまらない。先が読めてしまうからだ。主人公が窮地に立たされた時、誰かに襲われた時、察してしまう。「あぁ~ハイハイ、ここでスパダリが現れるんですね」と。おまけに最近はタイトルを読めばオチがわかる。やっぱフィクションはどこまでいってもフィクションなんだって思ってしまう。現実はそうじゃない。だから現代人は、ハッピーエンドの虚構を求めるのか。「理貴……」こんなしょうもないことでグルグル悩んでんのは俺だけだろう。正直に言って、自分でも何が不満なのか分からない。ただ理貴がいつも上の空で、心ここにあらず、という状態が嫌なのだ。とうしたって昔の理貴と重ね、比較しえしまう。あの頃の快活だった彼はどこへ行ってしまったのか。軽く抜け殻だし、どこか俺に対して遠慮して……距離を感じる。気まずさ、のようなものに近い。信頼してるけど、完全に寄りかかれず、足踏みしている感じ。四冊目の漫画を重ねて両手を放り出した。その間も謎のため息が止まらない。スパダリを求めてるわけじゃない。せめて、もっと人並みに反応してほしい。理貴は何を言ってもワンテンポ遅れて返ってくる。ナマケモノを引っ張ってる気分だ。それも贅沢な悩みだろうか? 世の中には心ない言葉を平気で言ったり、手を出す奴もいるから。……とか色々考えていたら、一睡もしないで朝を迎えた。ただでさえ憂鬱な月曜日、重たい足取りで学校へ向かう。目の下のクマがすごいせいか、いつにも増して周囲の目には怯えの色が混じっていた。普通に歩いていても皆端に寄って道をあける。そこまでしなくても別に何もしませんが……。「……理貴。もうチャイム鳴るぞ、起きろ」さあ、また一日が始まる。学校の校門をくぐって、教室へ向かう。ことができればいいんだけど、結局中庭に立ち寄って“彼”を起こしてしまう。「ううん……」一昨日とはまるで違う、眠そうにベンチに寝ている理貴。夜のドSっぷりからどうしてこうなるのか、本当に謎だ。めんどくさいけど彼の手を引いて、強引に校内へ連れて
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#1

「……!」よく聞く言葉なのに反応が遅れる。ごめん、か。そういえば久しぶりに言われた……。彼のこんな辛そうな顔も、久しぶりに見た。「もう、何で謝んだよ。俺が勝手に落ちただけだろ」事実だから、苦笑して返す。寝不足なのに気を抜いた自分の落ち度だから、そこはハッキリ言い切った。それでも理貴は元気がなかった。ボケっとしてるか飄々としてるか、いつもはそのどっちかだから……何か新鮮だ。辺に責任感……というか、罪悪感を抱いてるよう。落ち込まないでほしくて、彼の手の甲にそっと手を重ねる。 「さすがに、誰かに見られたらイヤだったけどさ。運んでくれてありがと。すげー助かったよ」とにもかくにも、お礼だけはちゃんと伝えておきたい。彼はきょとんとしてたけど、やがて眩しいぐらいの笑顔で俺の額を小突いた。「……ごめんな。後で迎えに来るから、休んで待ってろよ」「う、うん」不思議だ。今の理貴は夜の理貴みたい。……って、それも日本語おかしいな。「あー絹川君、水無君の教室に寄って、このことを担任の先生に伝えてもらってもいい? ホームルームに遅れたことは私から説明するから」「はーい」先生の声掛けに頷き、理貴は今度こそ部屋を出て行った。その途端に部屋の色味が暗くなった気がした。不思議だ。彼がいないだけで、こんなにも見える色が変わる。痛みがひくまで休んでるよう言われたけど、本当は彼を追いかけて教室へ行きたかった。置いて行かれるのは昔から苦手だ。理貴と離れたときのことを思い出してしまう。ベッドに倒れ込み、カーテンを引っ張って囲いをつくった。いっそのこと、この空間に留まっていたい。良いことは何も起きないけど、悪いことも起きない。瞼を伏せて深く息を吸った。昔……大昔だけど、たまに近所の子どもにいじめられることがあった。せいぜい遠くで野次を飛ばされる程度だけど、弱かった自分にとっては外へ出たくなくなるぐらいいやなことだった。土曜日も日曜日も自分の家の窓から下を見下ろしていた。すると決まって、あの声が隣から飛んでくる。『いたいた。真陽、外遊びに行こっ!』手を伸ばしたらギリギリ届きそうな距離の、隣家。その二階の窓から理貴がひょこっと顔を出す。彼は何故か、俺が外を眺めるタイミングが分かってるようだった。時間なんて毎日バラバラなのに、本当に不思議だ。『あ、そうだ……その前に
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#2

無意識のうちに呟いてしまった。慌てて口を押さえたけど遅い。隣に佇む理貴の顔色が変わっていた。ただ今度は張り詰めたものではなく、……悲しそうな表情で。空気を変えなきゃ。「水。……水が飲みたいな。のど渇いちゃった」わざとらしいけど、最大限の笑顔をつくる。怖々反応を待つと、彼は腑に落ちた様子でちょっと待ってろ、と部屋を出て行った。とりあえず助かったと胸を撫で下ろすも、何を不安に感じていたのか。自分でもいまいち分からない。でも自分が川で溺れたことは、理貴にとっても嫌な記憶だ。わざわざ思い出さなくていい。あれは消し去っていい出来事なんだ。静かにため息をつく。部屋の扉が開いて、戻ってきた理貴がペットボトルの水をくれた。「ごめん、ありがとう」笑って受け取る。けど彼は何も言わず、小さく頷いた。何だか気まずくて、ペットボトルに口をつけたもののすぐに離す。「理貴? どうかした?」「……またやっちまった、って思って。俺が近くにいる時ほど何か起きて、お前が怪我するんだよな」うっ……。返答に困って目が泳いだ。やっぱり、間違いなく“あのこと”を言ってるじゃんか。俺が理貴と川に遊びに行って溺れた、あの時のことを。「そんなの、俺が一番長く一緒にいるのがお前だから仕方ないだろ。あと全部俺の不注意が原因だ。むしろ理貴がいない方が精神的にきついし、その……寂しいよ」拳を握り締め、焼けそうな喉で叫んだ。のたうち回りたいほど恥ずかしい台詞を吐いた気がする。顔から火が出そう。理貴は目の前に屈み、俺の前髪を掻き分ける。それから額に、割れ物に触れるような優しいキスをした。「やばい。今の台詞、毎日聴きたいかも」「それは無理。お前がまたバカなこと言った時だけ……何度でも言うよ」理貴はカーテンで周りを仕切ると俺の上に覆い被さってきた。ボタンは外さずに、シャツの下をまさぐってくる。手は冷たかったけど、それが逆にぞくぞくした。誰か来たらまずいのに、もっとこの手に翻弄されたい。好き勝手して、めちゃくちゃにしてほしいと思っている。「あっ!」上に伸びていた手がおりてズボンの中に潜り込む。そのまま少し膨らんだ中心部分を、下着の上から撫でられた。「かわいい」形に沿って指でなぞられる。撫でるような擦るような力加減。けど最終的には揉まれて、直接的な刺激として脳の奥まで響いた。理
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#3

十年前の自分が見たらどう思うだろう。あの理貴を組み伏せて、誰にも見せたことのない部分を見せつけてるなんて……。でも仕方ない。彼の気を引けるのなんてエッチぐらいだ。それ以外は大した力を持たない。俺も彼も右から左へ抜けていく。付き合い始めた頃は浮かれたりもしたけど、趣味や記念日なんてどうでもよくて、リストの一番下に埋もれていく。だからたまに怖くなる。不安になる。俺らってエッチしたいだけ、だったのか。そうじゃないはずなのに。彼を見ると全て手放して晒け出したくなるのは何故だろう。分からないからもっと中に指を潜らせた。けど理貴は何も言わない。良いとも悪いも言わない。ただ黙ってこちらの様子を見ている。何か言ってほしいのに……。見られてると思うだけで前が固くなる。先っぽがぬれて硬くなる。独りで息が荒くなってる俺を見て、理貴はようやく一言呟いた。「真陽は本当に甘えん坊だな」 「あまっ……は!?」予想外の言葉に、脳みそが沸騰しそうになった。一驚して背筋が凍っているのに、顔は羞恥心で熱い。瞬間的な寒暖差。手が震えてしまったのは、自分の感情を処理できないから。「なにか不満があるんだろ? それならはっきり言っていいぞ」「ち、違う」兎にも角にも否定しなきゃいけないと思った。少し震えてしまったけど、怒ってるわけじゃない。なんなら困惑の方がずっと勝る。混乱してるだけだ。あらぬ“勘違い”をされて焦ってるだけ。「お前はいつもやりたい放題のくせに。俺がちょっと誘っただけで突っかかってくんのは酷いだろ」自分は彼の誘いを断ったことなんてない。いつも彼の望み通りにしてきた。ならたまの我儘ぐらい聞いてくれたっていいじゃないか。……となんていうのは建前で、一番気に食わないのは彼の言い方だ。もっと他にマシな言い方があっただろ、という不満。「甘えたいとか思ってない。ガキじゃあるまいし!」「その荒ぶり方がもうお子様なんだけど」「うるさい!」理貴の頬を手で押し、脱ぎ捨ていたズボンと下着をとった。もう一秒だってここにいたくない。さっさと恰好を直して、ベッドから足を下ろした。立ち上がろうとしたものの、後ろから腕を掴まれ、倒れてしまう。気付いたらまた、天井を見上げていた。直後に降り掛かる黒い影にハッとする。「昔はそんな騒ぐ奴でもなかったのにな。お前」「な……っ」理貴は真
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