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#4

Penulis: 七賀ごふん
last update Tanggal publikasi: 2026-03-12 08:03:23

子どもながらに、俺はしっかりしてる方だと思っていた。

言葉を話すのも早かったらしいし、絵本が読めるのも早かった。周りに泣いてる子がいると、どうしたのか積極的に訊きに行っていた。

何でなのか訊かれると分からない。考えるより先に体が動くタチだったのかもしれない。常にぐるぐる考えて、今できることはないか探し回っていたんだろう。

そんな俺だから、“彼”にひかれたのは必然とも言える。

────欠けたグラスのような子だった。

わざわざ覗かなくても中身が見える。

優しさを注げば、満タンになる前に溢れて零れる。

さらに、欠けてしまった、鋭利な部分で触れる者を傷つける。

不安定で不完全な男の子。そんな子が俺の家の隣に引っ越してきた。

「おかえり、理貴。この子は今日隣に越してきた水無さん家の真陽くんよ。理貴の方がひとつ歳上のお兄ちゃんだから、仲良くね」

家の前のだだっ広い道に、母と一緒に見慣れない人影があった。

父と買い物から帰った直後だ。大人の男女がいた。

最初はドキッとしたけど、隣の家に誰か引っ越して来るという話は聞いていたから、すぐに理解した。

それより、自分の少し下の背丈の少年に釘付けだった。

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  • No rush   #4

    ────苦く懐かしい記憶がある。まだ小学生の頃の話。両親から誕生日プレゼントにもらったのは、当時流行っていた最新のゲーム機。発売してすぐに買ってもらった為、周りで持っているのは自分だけだった。だからだろう、クラスでリーダー格の男子にいびられる羽目になった。休日に近所の公園でゲームをしているところを運悪く見られてしまい、奪われたのだ。けど小学二年生のお小遣いで買える代物じゃないから、彼らも内心では扱いに困っていたようだ。ゲーム機を持った一人がどこかへ去り、しばらくして戻ってくると「寺の墓地に置いてきた」と言った。返せと言おうにも、本当に持ってないのでは仕方ない。彼らは笑いながら去って行った。その背中に蹴りを入れられるような性格じゃなかった当時の自分は、泣きそうになるのを堪えて地面を見つめた。どうしよう……。目の前が滲んでいたけど、やがて元の視界に戻っていった。陽が傾き、足元の影がだんだん伸びていく。夜が来てしまう前に、ゲーム機を探しに行かないと。「肝試し?」「うん。最近ウチの敷地でやる子どもが増えてるんだけど、山の中は危ないから困ってんだ」立っているだけで全身から汗が吹き出す、酷暑の夏。広大な庭の雑草取りはしんどかったけど、今年は特別感に溢れている。真陽は理貴に誘われ、彼の叔父と叔母の家に遊びに来ていた。彼らの家は海から程近いものの、裏には大きな山々がそびえ立っている。山と海に挟まれた長閑な田舎町。 ( 暑すぎて虫も鳴いてないな )真陽は貸してもらったタオルで汗を拭った。地元から電車で二時間ほど乗り継ぎ、昼過ぎに着いたばかり。辺りを軽く散策したあと家の手伝いをし、無心で雑草を抜いていた。それから叔父の軽トラに乗り、夕食の買い出しに付き合って帰ってきたところである。そこからの雑草取りは中々ハードだった。とは言え泊まらしてもらう予定なので、手伝えることは何でもやるつもりだ。仰け反り、青々とした空を見上げる。都会の喧騒から離れるのは大事なことだとしみじみ思った。灰色の建物ばかり見上げるより、何も無くとも緑に包まれた景色の方が良い。というか、眼に優しい。そう言うと縁側で寛いでいる理貴から「真陽の頭は金ピカで目が痛いけど」と言われた。でも確かに。黒とは言わずとも、そろそろ茶髪ぐらにいには戻しても良いかも。髪先をそっとつまみ上げて、差し出

  • No rush   #3

    息を潜めた薄闇の部屋に、月明かりだけが窓から射し込んでいる。見飽きた自分の部屋なのに、今夜は違う。彼がいるだけで特別な空間に変わる。( 浮かれてんな、俺 )一糸まとわぬ姿でベッドに転がる自分達が、酷く滑稽に思える。それでも抱き合って、飽くことなく手を繋いでいる。これからもずっとこの緩い関係でいたい。大人になっても会社員になっても、皺だらけの爺さんになっても、今日みたいにのんびり彼と過ごしたい。おしゃれなカップルみたいに特別なデートなんてしなくても、気付けば隣にいる。それが一番理想なんだ。多分、俺はまだ何も知らない。本当に嬉しいことも、本当に辛いことも。それでも、その時が来るまでは彼を笑わせよう。だって彼は俺の初めての「友達」で、愛しい「恋人」だから。臆病だった自分に、人と関わる喜びを教えてくれたひと。それを言葉で伝えるのはちょっと恥ずかしいから、別の形で返したい。「なぁ、理貴の好きなタイプってどんな? 実は織部先輩みたいに胸大きくて、良いにおいする子だったりしない?」「また急だな。何でそうなるんだよ」「織部先輩と一緒に歩いてる理貴は……他の誰かと歩いてるよりかっこよく見えるから」少しだけ身を捩り、理貴の方へ向いた。膝頭が当たる。はだけたシーツは虚しく垂れてぶらぶらと揺れていた。不安になりながら、彼の表情を窺う。すると理貴は何でもなさそうに息をついた。「それはあれだろ。織部が色気ありすぎぎるんだろ」「まあ、もちろんそれもあるけど……理貴は女子の前だと結構紳士ぶるし、心配なんだ」「はは。それ言ったらお前だってそうだよ。今日クラスの女の子と並んで喋ってだだろ。あれ遠目で見てたら、本当に男って感じだった。いつもより頼り甲斐ありそうに見えたし」どういう意味だ……。見つめ合って、自身の眉間を押さえる。「俺は紳士ぶったことないけど。女子は背ぇ低いし、男らしく見えるのは当たり前だろ」「真陽がむくれてんのも、つまりそういうことだよ。女子といたらある程度しっかり見えるんだって」彼は可笑しそうに、肩を揺らしている。ひとしきり笑った後、目を細めて俺の唇に触れた。「でも俺が知ってる真陽は、華奢で純粋で、推しに弱い女の子だったな」確実に貶してる。いつもの如くキレる一歩手前で、理貴は自分の顔を手で覆った。「なーんて、そんなわけないんだよな。時間っ

  • No rush   #2

    ソファに座って瞼を伏せている理貴に後ろから近付いた。見惚れるほど艶めいて、ふさふさの黒髪。将来頭が薄くなる不安と無縁そうで羨ましくなる。俺はというと散々脱色したことで毛根をいじめ抜き、はげる可能性が極めて高い。将来を考えると今から動き出した方が良いかな。もう少ししたら親父の育毛剤でもこっそり借りてしまおうか。「何? 真陽」艶やかな髪先に指が触れる。……一歩手前で固まった。彼はまだ瞼を閉じているのに、こちらのしようとしてることが分かっているようだ。さすがに隙がない。仕方ないからその手を引っ込め、ソファの背もたれに寄りかかる。「あは。ほんと、理貴の髪ってキレーだなーって思って」「お前だってどこでもキラキラしてるじゃん」「それ金髪だからだろ」呆れて返すと、彼は振り返って手招きした。とりあえず従い、ソファの前に回る。すると強引に引っ張られ、彼の胸に抱き込まれてしまった。あぁ、理貴のにおいだ。それが分かるだけでほっとする。こんなにも安心できる場所は、世界中でここだけだ。優しく頭を撫でられて、髪を梳かれる。その手つきや温もりは、いとも容易く緊張を解してしまう。気持ちよくて、気付けば自ら彼の掌に頭を押しつけていた。「ほら。やっぱりお前も髪綺麗じゃん」「そうかなぁ」「あぁ。猫みたい、柔らかい」柔らかいイコール綺麗ということにはならないと思うが、反論する気も起きない。彼を感じてるだけで満足だった。もっと撫でてほしい……。今度はこちらが瞼を伏せた。髪に触れていた理貴の指は頬、首、腰へと下りていく。ズボンに引っかかった時はさすがに瞼を開けた。「おーい、ここですんの?」「したくない?」「そうじゃないけど。シャワー浴びたいなって」ちょっとだけ恥ずかしくて、目を逸らす。軽くシャツを捲ると、理貴は可笑しそうに笑った。「どうせまたグシャグシャになるって」◇────だから、俺がよく買う漫画はほとんどエッチから始まるんだよ。へぇ、お盛んだな。マンネリ化を避ける為に、絶対途中で元恋人とかチャラい当て馬が出てきて受けを襲うんだ。あぁ、受けとか攻めとかBLならではの用語だよな。大きな山を超えたら最後は大抵ハッピーエンド。どう思う?(どうでも)いいんじゃない?白いシーツに埋もれ、抱き合いながら議論した。冷静に考えれば自分達もBLに入るのだろうが、

  • No rush   #1

    十八時五十分。テレビの番組が切り替わり頃、台所からは良い匂いが漂ってきた。「おぉ、美味そう!」相変わらず感心する手際の良さ。もう料理は皿に盛られていて、後は汁物やご飯をよそれば食べられる状態だった。理貴はコンロの火を止め、水道で入念に手を洗っている。「できたぞ。腹減ったから早く食おう」「やった! てかごめん、全然手伝えなくて。風呂掃除とかしてたら意外と時間かかっちゃってさ」「平気だよ。強制じゃなきゃ飯作んのは嫌いじゃないから」箸とグラスを二人分用意して、木製の大きな食卓に並べる。高校になってから、家で二人きりで食べるのは初めてかもしれない。「いただきます」「どうぞ」最初に食べたのは高野豆腐の卵とじで、食べた瞬間に美味いつゆが溢れた。「うま……。さすが料理屋の息子」「ははっ、煽てても何も出ないよ?」「いいよ。好きな奴が作った飯が食えるって、それだけで幸せじゃん」豆腐を頬張りながら言うと、理貴はわずかに顔を赤らめた。「そういうのは反則」「えぇ、何が?」「何でもない」理貴は黙々と食べ始めた。どうしたのか分からないけど、やっぱり今が幸せだと強く思った。理貴の箸の持ち方は綺麗だ。自分はどっちかと言うと下手で、あまり人に見られたくない。理貴は元々普通に持てたのか、それとも親に言われて直したのか……どっちだろう。メインの鶏の照り焼きはおかわりしたいぐらい美味かった。母も料理は上手いと思うけど、これを食べたら驚くかもしれない。理貴が料理上手なことは、学校では誰も知らない。彼を追いかけて、隙あらば盗撮してる女子達すら知らないことを、自分は知っている。だからだろうか。誰よりも彼を誇らしく思っている。そういえば、理貴はこの先どうするんだろう。「理貴って……高校卒業したら、やっぱりお店手伝うの?」「あぁ、そーだな。他にやりたいこともないし、まぁまぁプレッシャーかけられてるから。それで多分、卒業したら……場所はまだ分かんないけど、一回他の店で修行しようと思ってる。親の店継ぐから独立するわけじゃないけど、視野は広げた方が良いだろ? この世界で生きてくなら尚さら、外を知らないのは危ないと思うからさ」真剣な面持ちで言い切った理貴に、目を奪われた。控えめに言って惚れ直したんだろう。俺はやっぱり好きなんだ。ひとつのことに情熱とこだわりを持って、生き生

  • No rush   【4】

    「今日、家に誰もいないんだろ?」「ん? あ、そうそう」「じゃあお前ん家で食おう。飯は俺が作るから」え。こっちが何か返す前に、理貴はまた歩き出した。どうやら彼の中では決定事項らしい。立ち止まり、珍しく前を行く彼の後ろ姿を見つめた。びっくりだ。理貴が俺の家で夕飯を作ってくれる……とか。恋人の手料理を家でゆっくり食べられる。それはカラオケよりもずっと嬉しい予定だった。帰りは家の近くのスーパーに寄って、理貴と今夜使う食材を選んだ。ひとりだったら憂鬱なぐらいなのに、彼と一緒だと買い物かごを持つのも楽しい。大して興味のない野菜や魚も、彼が真剣に見てるからちょっと緊張した。値段を見て高っと思ったり、特売品につられたり。些細なことを共有できるのが楽しい。大人になっていつか二人で暮らしたら、こんな毎日が待ってるんだろうか。生活に関わることは全部相談して、二人で話し合ってから買いに行く。「家族」だから……。「真陽、何か食いたいものある?」「ううん。作ってくれるなら何でも食べる」「はは、それは助かる。嫌いなもんあったっけ?」「特に……レバー以外なら何でも食う」とても真面目に答えたんだけど、理貴は可笑しそうに笑っていた。レバーは大人でも食べられない人いるし、そんな珍しくないはずだ。買い物かごはずっと俺が持っていたけど、たくさん食材を入れて重くなってくると理貴が持ってくれた。どんなに大丈夫と言っても譲らなくて、最終的に根負けした。お前腕細いだろ、と言われた時はちょっと悔しいような恥ずかしいような気持ちになって頭が痛かった。レジを済ませてスーパーから出た時には、だいぶ陽が傾いていた。茜色の空を見上げ、二人で川沿いの道を歩く。制服のまま大きなビニール袋を下げている自分達が面白くて、そしてドキドキした。通り過ぎる人にこれから何があるんだ、みたいな目で見られてるような気がした。自意識過剰なだけだと思うけど、一度気付いたら平静に戻れない。イベントにもならないはずなのに、俺にとってはこれも充分非日常だ。「真陽、重いだろ」「全然。あ、ちょっと、俺が持つって!」重くないと言ってるのに理貴は俺のビニール袋を奪い取った。これにより彼が荷物を三つ持って、俺は手ぶらの状態となる。俺ひとり楽してるみたいで不本意だ。「せめて一つ……いや、全部くれよ。俺が持つ」「いいって。

  • No rush   #5

    突如胸の中に生まれた、小さな罅。自分でも理由が分からず、その違和感の正体を考えていた。焦燥に近いなにかに押され、息苦しい。チャイムが鳴る寸前だったから、三人で足早に昇降口へ向かった。俺は二年の教室、理貴と織部先輩は三年の教室へ。廊下で別れて、何となく二人を振り返る。背の高い理貴と、スタイルの良い織部先輩の後ろ姿。彼らが並んで歩いているととても自然というか……お似合いのカップル、なんて言葉が脳裏に浮かんだ。当然だ。男子と女子。その組み合わせが世間じゃ“普通”。普通ということは、ある意味では“絶対”と同じ。どれほど多くの人が想像するかで、揺るぎない力を持つ。自分と理貴は、その枠からはみ出した組み合わせなんだ。可愛くてスタイルがよくて、気立てもいい織部先輩は誰と並んでも遜色ない。むしろ男の方が見劣りしてしまう。違和感ないのは、学校でもイケメンと称される理貴ぐらいだ。……そう思えば尚さら、彼らが一緒にいるのが当然に見える。踵を踏んだ上履きを浮かせる。勝手に色々考える頭、雑念を振り切るように自分の教室を目指した。「水無ー、俺彼女が欲しいよ〜! 死ぬ前に一度でいいから彼女が欲しい! 誕生日にサプライズとかされてみたい!」「自分ですれば。セルフサプライズ」クラスに入ると、女に飢えた友人、梨本が泣きついてきた。「冷たっ……お前どうせ女とっかえひっかえしてんだろ! 俺はわかってるよ。誰にもバラされたくなかったらお願い、俺に女紹介してぇ!!」「脅すのか頼むのかどっちかにしろよ……」朝から本当にうるさい奴だ。しかも俺が女遊びしてると思い込んでる。なんと腹立たしい。「じゃあさ、お前どんなのがタイプ?」「俺? もちろん細くて、胸はそれなりにあって。中身は上品で優しくて、デートの時に弁当作ってくれるタイプ! で、別れ際には手を繋いできてまだ帰りたくない……とか言ってくれるタイプ!」そんな女子は稀だ。注文が大すぎて引っぱたいてやろうかと思った。しかし梨本は本気で、その目に冗談の色は混じってない。好きなシーンを言いすぎて、タイプは迷走してるけど。「あぁでも、ギャップがあんのもいいかな。いつもは強気で上から目線なんだけど、たまに見せる弱いところとか、女の子らしい繊細さが垣間見えたら……あ……死ぬ……っ」梨本は机に伏せた。妄想で昇天できるなんて、本当に

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