退院した杏は、大人しく大学へ戻ることはなく、わずかな望みをかけて悠真のマンションへ何度も足を運んでいた。しかし、そのたびに梓が差し向けた者に追い返され、人前で恥をかかされることもあった。どうすることもできなくなり、杏は結局大学へ戻らざるを得なかった。しかし、杏と悠真の関係は既に大学中に広まっていたうえに、彼女がかつて水商売で体を売っていたという噂まで漏れ出し、学内の笑い者となっていた。どこへ行っても、冷ややかな視線と後ろ指を刺される。「ほら、あの人。不倫して、相手の家庭壊したらしいよ」「上杉先生、あんな女に惚れてたなんて……ね?」「上杉先生との間に子供ができたのに、上杉家からは堕すように言われたんだって。まあ、自業自得だよね」まもなくして、杏は大学から風紀を乱したとして退学処分を受けた。悠真の状況も決して良くはなかった。杏との不適切な関係や彼女の悪行は、学校の評判に大きな影響を与えていた。だから、悠真も批判を逃れられず、学校は最終的に悠真を解雇した。かつて輝いていた哲学の教授は、一夜にして誰からも嫌われる存在へと転落した。悠真は梓の望み通り、上杉グループの傘下に入り、実務をするようになった。梓は悠真への失望を隠せなかったが、自分の息子である以上、深くは責めなかった。ただ、杏のような格下の女と縁が切れたことに安堵していた。「悠真、いい加減ちゃんとしなさいよ。あなたに釣り合うお嬢さんを何人か見つけてきたから、一度会いなさい。早く結婚を決めれば、周りも安心するから」「母さん、今はまだ結婚なんて考えられないよ」冷静に拒否した悠真だったが、心の中には凛の顔が浮かんでいた。このところ、いつも凛のことを考えてしまう。以前は、自分にふさわしくない女だと思っていた。だが今になって、ようやく気づいた。凛がいなくなり、日常の出来事を楽しそうに話してくれる声もなく、疲れて帰ったときに夜食やホット牛乳を差し出してくれる人もいない。何より、いつだって自分を一番に想ってくれていたその気持ちが、もうなくなってしまったのだ。そう思った瞬間、彼の生活はあまりにも空っぽで、ひどく味気ないものになっていた。凛への想いを認めたくはなかったが、この切ない気持ちは蔓のように心を締め付け、どんどん膨らんでいく。悠真は気
Read more