「私は魂の純度を求めている。だからこそ、私が相手に求めるものは、肉体ではなくイデアの領域なんだ。俗世にまみれた君は、その相手ではない」大学教授の上杉悠真(うえすぎ ゆうま)が、初めて九条凛(くじょう りん)の告白を断った時のその声は、冷淡そのものだった。凛の表情が一瞬にして強張る。しかし、すぐに笑顔を作り直して言った。「じゃあ、豪華な金縁の『恋愛哲学書』でもプレゼントしようか?」「いらない。そんな低俗なもの」そう言うと、悠真は背を向けて去っていった。「これ以上、こんなくだらない事に時間を費やさない方がいい」だが、簡単に諦める凛ではなかった。高卒という肩書を持ちながらも、18歳で会社を興した凛。そんな彼女は、欲しいものは全て手に入れてきた。寝る間も惜しんで哲学書を読み漁り、悠真の講義に通い詰めた。しかし、講義中に質問をした際、分かったふりをするな、と切り捨てられてしまった。それでも、覚悟を決めた凛は、悠真の隙をついて、勢いよく背伸びをし、彼に口づけをしたのだった。その瞬間、悠真は電気ショックでも受けたかのように、力いっぱい凛を突き放した。凛は冷たい壁に叩きつけられ、ぶつかった肘がひりつくように痛む。ハンカチを取り出し、力任せに口元を拭いながら、悠真は凛を睨みつけた。「凛。こんなこと二度とするな。吐き気がする」「吐き気がする」その一言は、凛の心を凍らせるのには十分だった。しかし、標的を定めれば、泥の中からでも這い上がり、一直線に突き進む、それが凛なのだ。そんな中、ある事故が起きた。その時、自分の危険も顧みず、炎の上がる車の中から悠真を救い出した凛の行動が、彼の心を動かし、念願の結婚を果たしたのだった。だが、新婚初夜から彼女は一人きりだった。3年間、キスはおろか、同じベッドに入ることもなく、手さえ握ったことがなかった。しかし、凛は自分に言い聞かせるしかなかった。悠真が望んでいるのは、全ての肉欲を排除した、精神的な愛なのだから、と。どちらにせよ、悠真が他の女に手を出すこともない。肌の触れ合いがないということ以外は、とても魅力的で、優しい夫だった。自分が残業で深夜遅くまで起きていると、悠真は家政婦に夜食を作らせ、書斎へ届けるように言ってくれたし、季節の変わり目に体調を崩しやすかった凛のために、前もって主治
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