All Chapters of 稀代の悪女皇后、死に戻って浮き名を流す。: Chapter 21 - Chapter 22

22 Chapters

第二十一話

不安を抱えたまま、当日を迎えた。 朝から、メイド数人がかりで準備をさせられている。お父様の命令だった。 ドレスもお父様が選んだ。リボンやレースも使われていないスッキリとしたデザインだが、光沢のあるシャンパンゴールドの生地が、それだけで美しい。胸元や腰のあたりにドレープがあり、華やかさも感じられた。 アーティファクトは指輪と腕輪なので、手袋の下につけられる。 ウーテから「ツェーザル殿には内緒にしてほしい」と言って渡されたネックレスがある。小さな透明の石がキラキラと輝くデザインで、ちょうど、今日のドレスに合っていた。 ウーテがこのネックレスの存在をツェーザルに秘密にした理由は、生活魔法とそう変わらない魔力で、弱めの攻撃魔法を連続で打ち続けるアーティファクトだからだ。 わたくしも、マクシミリアンを相手に、攻撃魔法を使う気はない。ただ、身につけるだけで、いくらか心を強く保てる気がしていた。 皇室から迎えの馬車が来た。 一度目の人生で、何度となく使った純白の馬車だ。これだけ準備をしても、不安しかなかった。 時間は残酷なもので、すぐに皇太子宮に到着した。 馬車から降りながら、白亜の大理石で建てられた宮殿を、わたくしは憂鬱な面持ちで見上げた。 建国当時の皇室の力を象徴する、巨大で美しい宮殿だ。 執事長が、迎えに出て来た。マクシミリアンは、また何かと理由をつけてわたくしを待たせたあげく帰るころに現れて、上辺だけの謝罪をするつもりなのだろう。 わたくしにとっても、顔を合わせる時間が短い方がありがたい。 そう思ったのに、通された応接室には、マクシミリアンの姿があった。 「アナスタシア嬢、どうしたのだ?」 わたくしは驚きのあまり挨拶が遅れてしまった。慌てて、皇太子に向けての最上のお辞儀をした。 「私が、この場にいないと思っていたのだろう?」 細めた瞼の隙間から、真っ赤な瞳が覗いている。 「そのようなことは……」と、否定した。 「そなたには訊ねたいことがたくさんある故、こうして待っていたのだ」 わたくしは促され、精巧な象嵌が施された肘掛け椅子に腰掛けた。 皇室を象徴する、白と金で統一された空間から、逃げ出したい衝動に駆られていた。 皇太子妃としてここに住んでいたころ、この応接室を幾度となく使った。白
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第二十二話

「殿下……わたくしにはとても、妃は務まりません」 実際は一度目の人生で、すべてを捧げてその役割を十分に果たした自負があった。その末路が冷たい塔での幽閉だった。だからこそ、皇太子妃になるわけにはいかない。どんなに尽くしても報われないと、分かっているからだ。 「そなたがたとえ、文字も読めない平民であったとしても私の妃になるしかない運命なのだ」 わたくしは、マクシミリアンの言葉の意味を測りかねていた。 「『何を愚かなことを』と思っていそうだな。しかし、それが変えられない運命というものなのだ。そなたが私の婚約者となる理由は、公爵家の令嬢であるからでも、美しいからでも、理知的であるからでもない。もちろん私の寵愛があるわけでもない」 マクシミリアンの深紅の瞳が、冷たい光を放っていた。わたくしは、かつての夫であるマクシミリアンから突きつけられた『愛情がない』という言葉に、言いようもない虚しさを感じていた。 「皇帝陛下がそなたに固執する理由は、神託が降りたからに他ならない」 わたくしは、あまりの驚きに息をするのも忘れていた。前世では、知らされていなかった事実だ。思えば、冷遇されるようになったのは、現皇帝が亡くなったあとだった。神託を守ろうとした皇帝がいなくなり、マクシミリアンが神託に逆らった結果が、前世での謀略だったのかもしれない。処刑されずに生かされていた理由も、神託の内容にあるのだとしたら……、わたくしは内容を知っておきたいと考えた。 「どのような、神託なのでしょうか?」 「そなたには教えられない。皇帝陛下と、皇位継承権を持つ者にしか、知らされないのだ」 前世でのわたくしをあれほど苦しめたマクシミリアンとの婚姻。その原因である神託を、わたくしは知ることができない。あまりの理不尽さに、唇を嚙み締めて感情を抑えようとした。 マクシミリアンの手が視界に入った。思わず身を引く。手は、かまわず伸びてきて、わたくしの唇に指先が当たった。刃
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