渉は、足を怪我した麻美がそんなに遠くへは行けないだろうと考えていた。失踪してまだ一晩。大人数で探せば、すぐにでも見つかるはずだった。しかし、その予測は無残にも外れた。報告に上がった部下は、沈痛な面持ちで告げた。「渉様、病院の防犯カメラを確認したところ、麻美様は昨夜の午前1時過ぎに一人で出て行かれました。タクシーを拾われたようで、ナンバープレートからドライバーの身元も特定しました。ドライバーの話では、昨夜、麻美様を乗せて向かった先は……」部下はそこまで言うと口を閉ざした。怯えたように顔を上げ、渉の機嫌をうかがっている。渉は鋭い視線を投げかける。「何を渋っている。麻美をどこへ乗せて行った?」部下は項垂れたまま、力なく答えた。「麻美様が向かわれたのは……役所です」渉はデスクを叩いて立ち上がった。「何だと?役所だと!?」事態は、予想の斜め上をいっていた。なぜわざわざ、麻美が役所に行く必要があるのか?まさか、離婚するつもりなのか?その可能性を考えただけで、渉の表情は険しく凍りついた。躊躇うことなく、部下に命を下す。「車を出せ。今すぐ役所へ行く」車は全速力で走り、役所へとたどり着いた。皮肉にも、渉が血相を変えて乗り込もうとした時、役所の職員がちょうど離婚届の受理証明書を渉の元へ発送しようと外に出てきたところだった。玄関で鉢合わせした職員は、渉を見つけて目を輝かせ、慌てて呼び止めた。「杉本グループの社長、杉本様ですよね?テレビでお見かけしました」職員は手元の受理証明書を差し出した。「ちょうどよかったです。今、あなた宛に離婚届の受理証明書を郵送するところだったんですよ」職員はそのまま、受理証明書を渉に押し付けた。「何の話です?」渉は職員の胸ぐらをつかみ、怒り心頭で問い詰めた。「離婚などしていません!妻と俺はうまくいっているんだ、離婚なんてありえないでしょう!」役所ともなれば、離婚を求めて揉める人間は日常茶飯事だ。その場で泣き崩れる者、暴れ出す夫婦、果ては逆上して元妻を襲うような人間まで見てきた……現場の職員は百戦錬磨だった。突然の怒りにも動じることなく、冷静に受け流す。「杉本様、どうか落ち着いてください。離婚に関する事実は、窓口にて手続きを終えた結果ですので……」職員は目配せ
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