卒業式の日。 式が終わり、最後の終礼を終えて僕は荷物を持って校舎を出ていく。外は暖かい春の日差しで、心地よかった。(卒業した――) あっという間の三年間だった。とくに今年になってからの出来事が濃すぎて、高校三年間の思い出を振り返る気になれない。 楽しいこともあったのに、それがなんだか遠い日のことのように感じる。 桜の木の下で、家族が記念写真を撮っているのが目に入り。胸の奥がツキンと痛んだ。カメラのシャッター音が響き、笑い声が聞こえてくる。正門の前には列ができており、順番に家族写真を撮っている姿が見えた。(羨ましい) 僕にはしたくてもできない。 弟のときは、絶対にこんな寂しい思いをさせたくない。絶対に学校の行事には僕が参加しようと心に誓った。(こんな想いをするのは僕だけでいい) 校庭を歩いていると、視線を感じた。 遠くから篤志が物言いたげに見ている。眉を寄せて、こちらを見つめていた。僕はあえて知らないふりをして、別の方向へと足を向けた。「柊」 低い声で僕の名前を呼ばれた。(この声は……鬼頭さん?) 聞き覚えのある声に、驚いて振り返ると、スリーピースのスーツを着た鬼頭さんが立っていた。(――え? どうしてここに?) 黒いスーツに、大人しめの柄のネクタイ。オールバックの黒髪が整えられ、鋭い黒い瞳が僕を捉えていた。「なんで……いるんですか?」 声が震えてしまう。驚きで目を見開き、鬼頭さんを見つめる。「保護者として参列した」 鬼頭さんが僕の前に立つと少し前屈みになって静かに告げた。口角を僅かに上げ、満足そうな表情を浮かべている。「保護者?」 聞き返すと、鬼頭さんが意地悪な笑みを浮かべた。目を細め、楽しそうに僕を見つめてくる。「恋人みたいなもんだろ」 耳元で囁かれ、顔が熱くなる。周りに人がいるのに、平然とそんなことを言う鬼頭さんに戸惑った。「恋人と保護者は違うし、僕たちは恋人同士じゃない。そもそも交際してない」 僕は言い返した。そもそも僕たちの関係は恋人同士でもないし、保護者でもない。取り立て屋と借金で逃げた男の息子なだけだった。しいてあげるなら、主従関係というべきだろうか。支配する者と支配される者。鬼頭さんが最初に言った言葉が、僕たちの関係を正確に表していた。(それでも――嬉しい) 胸の奥がほんのり温かくなり、鼓動
最後更新 : 2026-03-18 閱讀更多