All Chapters of アスイェ•Asyeh: Chapter 31 - Chapter 40

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第三十話:午後の光

午後の光は、薄い布のようにすべてを覆っていた。花の形すら、セラフィナの目にはうまく映らなかった。少女はゆっくりと歩いていた。彼女は、なぜ散歩しているのかもわからなかった。ただ、ゆっくりと歩いていた。夜の蟲にいくらか食われたにもかかわらず、アスイェの薔薇はまだ多く、最近までつぼみだった花も一気に咲いていた。その香りは強く、セラフィナはくらくらと眩暈を覚えた。彼女はいつのまにか庭の中で立ち止まり、耳のそばで風の音が鳴り続けていた。まるで水の下にいるように、視界もぼやけていた。セラフィナは頭を振り、足取りもふらふらとしていた。セラフィナはうつむき、自分のドレスが目に入った。――彼女は自分がいつのまにか座っていると気づいた。日の光が強くなった。少女の気分はどんどん悪くなっていった。目を開けるのが怖く、吐き気はあるのに、胃の中は空だった。やがて立っているすら難しくなった。誰かがセラフィナの背中を軽く支え、日の光を手で遮った。アスイェだ。セラフィナはかろうじて立ち、アスイェの声が後ろから聞こえた。彼女は不安で手を少し伸ばしたが、何も掴めなかった。「耳が鳴ったか?」セラフィナはもう目を開けられず、軽く頷いた。「熱中症か……」セラフィナは頭の中の何かを追い払いたいように混乱し、しばらくアスイェの呼びかけに答えなかった。アスイェはセラフィナを抱き上げ、部屋の中へ運んだ。「……セラは、散歩しているだけ……」セラフィナはアスイェの腕の中で、弱々しくそう言った。「知っている」アスイェの声は低く静かだったが、ぼやけた意識の中でも、その声だけははっきりと届いた。その声を聞くだけで、体が少し軽くなる気がした。「……セラは、ゆっくりと大きくなったらいいのに……」「これが、成長だ」このあと、セラフィナはしばらく眠りに落ちた。目を覚ましたとき、最初に見えたのは見慣れた天井だった。熱は下がったが、まだだるさが残っていた。アスイェはいつも、ちょうどいいタイミングで現
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第三十一話:風が話している

風が止み、また吹き始めていた。 セラフィナは窓辺にずっと座っていた。 これは夢の中にいる感覚でもなければ、ただぼんやりしている感覚でもなかった。 それは――魂だけが体から抜け出し、ようやく戻ってきたような感覚だった。 彼女は自分の手を見た。指は冷たく、目の前の色も変わって見えた。 風の音がやっと止まり、そのあとに聞こえたのは――誰かの話し声だった。 少女が試しにしばらく息を止めると、すべてが静かになった。 しばらくして、セラフィナは立ち上がり、部屋へ戻ろうと一歩を踏み出した。 しかし、足元はふらつき、目の前が暗くなった。 もう一度目を開けた時にはセラフィナはアスイェの書斎にいた。 少女は書斎のカーペットの上に座っていた。 アスイェは片手でセラフィナの耳を塞ぎ、もう片方の手で彼女の目を軽く覆っていた。 彼の掌は冷たかったが、その手はセラフィナを暗闇から救い上げていた。 「セラ……セラフィナ……」 アスイェが彼女を呼ぶと、少女のぼんやりしていた意識は、ようやく戻ってきた。 「セラは……ずっとアスイェの机の前に立っていた?」 「うん。ゆっくり歩いて、入ってきた」 セラフィナは顔を下げ、自分の足を見た。 「アスイェの呼び声が聞こえなかった」 「……そうか」 「風の音がうるさくて……誰かの声が聞こえたの……」 「もしまた聞こえたら、目を閉じて、耳を塞いでいい。落ち着いたら帰ってこい」 「……セラ、自分で帰ってこられるかな……」 アスイェはすぐに答えていない。 「帰り道がわからなくなったら、こっちから探しに行く」 セラフィナが屋敷の中をぶらぶらするのは初めてではなかった。 彼女はよく、自分が何をしていたのか忘れてしまう。 例えば、水を流したまま―― 顔を洗うのを忘れたり、鳥の鳴き声を聞いているうちに、あっという間に時間が過ぎていた。 「言ったはずだ。これはお前の成長だ」 「いつ良くなるの?」 「そのうち治る」 セラフィナにはまた声が聞こえた―― でも、アスイェの声じゃない。 アスイェは近くにいるのに、声は遠くから聞こえるようだった。 セラフィナの意識はすぐに戻ってきた。 「セラには……まだ何か聞こえた……」 「そうか……気持ち悪いか
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三十二話:霧の心

セラフィナは最近、風の音が嫌いだった。風の音が一番はっきり聞こえたのはアスイェがいない午後だった。セラフィナはただ、庭の影に座っているだけだった。一枚の葉が彼女の前に落ち、まるで誰かが手を振っているように揺れた。彼女は無視しようとしたが、見えない手に胸を押さえつけられるような息苦しさを感じた。セラフィナの呼吸がどんどん浅くなった。耳が鳴った。目眩がした。セラフィナは耳を塞ごうとしたが、手が動かないことに気づいた。アスイェの名を呼ぼうとしたが、声が出なかった。耳鳴りの音はどんどん大きくなり、やがてはっきりと聞こえるようになった。ドン、ドン……セラフィナはその音を知っていた。それは心臓の音だった。少女は人の子だったが、その心臓はとっくに止まっていた。彼女の命はアスイェに救われた。セラフィナはあがこうとしたが、それすらできなかった。その瞬間だった。――彼女には人影が見えた。その人は顔が霧の中にあり、よく見えなかったが、それでも目だけは見えた。閉じていた目が開き、その目は赤く、まるで薔薇のようだった。セラフィナを見ていた。言葉はなかったが、その目は彼女を誘っていた。その目はアスイェのものではないと、セラフィナは知っていた。それでも、その目はあまりにも美しく、抗えず――そのまま堕ちる瞬間……彼女は抱きしめられた。「ア、アスイェ?」「うん」セラフィナの目から涙がこぼれた。アスイェの腕には人の温もりはなかったが、セラフィナにとっては悪夢から引き離してくれるものだった。涙が止まらなかった。セラフィナは泣きながら言った。「セラのところに来るって……アスイェは、言ったのに……」アスイェはただ、しっかりと少女を抱きしめ、背中を撫でた。「もうセラを見つけたから、しっかり寝るといい……」彼はセラフィナの泣き腫らした目を見つめ、涙を拭き取った。泣き疲れたセラフィナはそのままアスイェの腕の中に眠りに落ちた。
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第三十三話:いつもの朝と特別な味

セラフィナはよく甘える。特にアスイェをハグするのが好きだった。それは二人の間にある儀式のようだった。一日のうち、いつも少女が近くにいる瞬間があって、アスイェの手がちょうどセラフィナの頭を撫でた時や、彼のそばに来た時に、セラフィナは必ずそこに座り、そっと彼に近づいて、抱きついた。以前は寝る前にそのままアスイェの首に抱きつき、自分の体をぶら下げていた。さらに前は、目を覚ますとすぐにアスイェに抱きついた。今日はその「さらに前」の時と同じだった。セラフィナはアスイェを見るなり、すぐに甘えた。アスイェはそのまま彼女の背に手を回し、抱き寄せた。「アスイェ、おはよう……」「うん」アスイェは彼女をうけとめ、寝起きの挨拶もせず、「もっと寝ればいい」と言った。「いいや、今日はアスイェ、お出かけするの?」「キッチンに行くだけだ」「キッチン?」「そろそろお前に人類の食べ物を与えるべきだ」「ほんと、やった!」セラフィナは、人間の食べ物が自分たちのものと違うと知っていて、ずっと試してみたかったが、今までアスイェは与えてくれなかった。「うん。寝たくないなら、ついてこい」屋敷は相変わらず静かだった。そして、セラフィナは初めて、アスイェではない他の男の姿を見た。その男は執事の姿をしていて、アスイェに深く頭を下げていた。「その人は……」「サーバントだ。気にしなくていい」***朝食は温かいものだった。温かい肉と、甘く味付けされた野菜。中身のわからないスープ。——アスイェの前にも、その「わからないスープ」が置かれていた。「見るだけじゃなく、食べていい」セラフィナはスープを一口飲んだ。甘い、ちょっとしょっぱい。食べたことがない不思議な食感だった。でも——「……美味しい」「そうか……」「味、わかるか?」「わかる、けど、味がかわる……」「味覚は錯乱している。そのうち治る」「アスイェは?食べるの、好き?」
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第三十四話:触覚と心音

少女の体調はまだ優れなかった。 カーテンがしっかり閉じられていなかった。 セラフィナはそのわけを考えた。 なぜなら、アスイェはいつもカーテンをしっかり閉めていた。 セラフィナは日の光がわりと好きで、少なくとも怖くなかったが、今回は違った。 日の光がカーテンを通って、彼女の手の甲に当たり、焼けつくような感覚を残した。 最初,その感覚はそれほど強くなかった。 セラフィナは無視した。 少女はゆっくりと手を日の光から離し、自分の後ろに隠した。 これでその小さな痛みは少しだけ和らいだ。 セラフィナはいつものように庭へ散歩に出た。 何かに耐えるように唇を固く締め、足取りはいつもより少し早かった。 部屋の扉を開け、彼女はアスイェの姿を見てホッとした。 アスイェは本のページをめくった。少し間を置いて、セラフィナは聞いた。 「セラ、アスイェの隣に行っていい?」 本を読んでいたアスイェは少女を見て、「おいで」と言った。 セラフィナはアスイェの側へ行ったが、座るとき、手をしっかりと膝の上に置いた。 「どうした?」 「風がセラの顔をひっかくみたいだった……」 セラフィナの声は冷静だった。 「そうか……顔が痛いのか?」 アスイェはセラフィナを見て、顔にかかっていた髪を、そっと耳の後ろにかけた。 「うん、針に刺されたみたいだった……」 彼は少女をやさしくあやした。 「これが、覚醒?」 アスイェはセラフィ
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第三十五話:炎の子

夜の風が吹き、アスイェの薔薇が揺れていた。今夜の月は明るく、セラフィナは自分のマントをしっかり着ていた。顔を上げると、アスイェは廊下の奥に立っていた。彼はセラフィナを促すことなく、ゆっくりと彼女に近づき、見つめた。「靴紐はしっかり結んだか?」「うん!」「武器は?」「はーい」アスイェは頷き、 セラフィナを連れて階段を降りた。通りは少し濡れていて、灯りも暗く、セラフィナはアスイェを見た。彼女はいつも、この長い階段を降りていくアスイェの背中を見つめていた。自分の足でこの階段を降りるのは、これが初めてだった。アスイェに連れられて、アスイェの書斎を通り、庭を抜け、屋敷の扉に辿り着いた。「いつも、夜は外に出してくれないのに」「お前は怖がっていたからな……今夜は散歩だけだ」「散歩?セラを連れて?」「お前は成長したからだ」セラフィナは小さく「うん」と答えた。二人は森に入った。森は静かで、虫の鳴き声すらなかった。ただ、二人の足音が響いた。何回か蟲の殻を踏んだと思ったが、その違和感も小さく、すぐに忘れてしまった。二人は足を止めた。セラフィナはなんとなく、ここが彼のよく立ち止まる場所だと感じた。「……お前もここに来たことがある」「セラ、覚えてないよ」「あの夜は、お前が外に逃げ出して、風に当たって、そのまま熱を出した。俺が見つけた時、お前はよく泣いていた」「セラはなんで外に逃げ出したの?」「お前は外の色を見たいと言った」「そうなの?」「今見ただろう?あまり面白いものではない」森で微かな音がした。風の音だった。木の影が揺れているだけのはずだったが、セラフィナは焦げた匂いを感じた。風が森の奥から運んできた焦げた匂いには、薔薇の香りも混じっていた。アスイェは足を止めた。少女はそのそばで、息を殺した。「匂いが……」「わかるのか」「蟲がいる?」「そうだ。匂いでわかるなら、お前が炙り出せるはずだ」
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第三十六話:少女と炎

朝の庭は静かで、平和だった。露《つゆ》はまた花びらの上に残っていた。日の光はまたやさしく、芝生《しばふ》を照らしていた。いつもなら、セラフィナは芝生の上に寝転んでいるのだが、まるで何かの儀式の前の準備のようだった。アスイェは手に本を持っていた。「準備はいいか?目標は一直線だ」「でも、ここはアスイェの庭でしょう?」「お前の庭でもある」「燃やしちゃだめだよ!」「昨日の夜、一度燃えただろう。気にしていない」「あ、あれは!」「燃やしたくないなら、石だけに火をつければいい」アスイェは石を一直線に並べていて、それが今回のセラフィナの目標だった。セラフィナは手を挙げて、しばらくそのままだった。「……今回こそ一直線に燃やしてみせる」そう言って、彼女の指先から小さな炎が灯った。「できた!」興奮した瞬間、その炎はセラフィナの指先から逃げ出すように広がり、芝生の上に焼け跡の線を残した。それは「直線」と言いがたいものだった。――それは蛇のように、セラフィナの側からアスイェの前まで燃え広がった。その「蛇」はもちろん、アスイェの靴に触れる前に消えた。アスイェはその痕を見て、しばらく何も言えなかったが、セラフィナは彼に聞いた。「風が吹かなかった?」「お前の頭の中では吹いていたんだろう」「どういう意味?」「かわいいバカって意味だ」「セラ、真剣にやった!」「なら、自分のドレスまで燃やさないはずだ」「燃やしてないもん!」アスイェはゆっくりと少女の側にしゃがみ、彼女の肩を軽く叩いた。「よく見ろ」アスイェが手を軽く上げると、炎は本当に、金色の直線を描いた。その炎は静かで、柔らかそうに見えるが、熱さも、危うさも纏っていた。――アスイェが望めば、すべてを美しく燃やせるのだろう。「アスイェ、火を安定させる魔法も使ったでしょう?」「……使っていない。お前もやってみろ」「こう?」「肩の力を抜け。手を震わせるな。火を灯すんだ。爆発させるんじゃない」
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第三十七話:少女の狩り

森の風は止まらなかった。彼は静かに森の端に立っていた。手は腰につけていた剣に添えられていたが、その剣は鞘に収まっていたままいた。一瞬で、セラフィナの気配は消えた。森は眠りについたように静かだった。彼はセラフィナを追っていない。しばらくして、森はざわついた。そのざわつきは蟲のせいではなく、少女の狩りが始まったからだ。アスイェは高いところを見ていた。セラフィナは足音を殺していないから、アスイェはすぐに少女を見つけた。少女はまっすぐ蟲の群れの中へ突っ込んだ。短剣を鞘から抜き、一瞬で蟲の群れに道を切り裂いた。アスイェはたくさんの吸血鬼の狩り姿を見た。狂った野獣のように狩を楽しんでいた者があれば、優雅に殺していた者もいた。彼はセラフィナに剣の使い方と狩りの仕方を教えていたが、だが、「正しいやり方」が何かまでは、あえて教えていなかった。それでも、少女の狩り姿は自分によく似ていると、アスイェは思った。――静かで、余計な音を立てない。速く、殺意をしっかり隠し、蟲が鳴く前に声を失わせていた。しばらくして、焼けた後の匂いがした。アスイェは微かに笑った。「覚えるのが早いな」吸血鬼はだいたい炎を恐れ嫌っているが、アスイェは好きだった。夜の中に咲いた炎の花は蟲を殻ごと焼き尽くし、その炎は、彼が教えた通りに獲物を狩っていた。アスイェは目を離さなかった。その止まることを知らない炎は、微かな薔薇の香りを纏っていた。上から見ていたアスイェにとって、それは絶景だった。まだ制御できていない力の美しさを、アスイェはしばらく見ていなかった。セラフィナは自分の炎にむせて、咳が止まらなくなっていた。それはあまり良くないものだが、叱るべきではない。アスイェは少女の炎の扱い方を気に入っていたが、正しく導かなければ、あとで苦しむのはセラフィナだろう。それでも、今言うべきことではない。セラフィナは自分で気付き、自分でコントロールできるようになるしかない。彼は狩りを教えた時のように導くこともできるが、彼は待つことを選んだ。
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第三十八話:少女への料理

料理をするのはアスイェの数少ない趣味の一つだった。セラフィナは今、アスイェが料理する姿を見ていた。キッチンは灯りをつけていない。あるのは、暖炉のまだ消えていない火の光だけだった。吸血鬼は寒さを恐れない。セラフィナはまだ成長中だが、人類と比べて寒さを耐えられるほうだった。セラフィナは以前、なぜ暖炉の火がずっと消えないのかと聞いたことがあった。「そのうち消える」とアスイェは言った。暖炉の前でアスイェと並んで立ったことを覚えていた。時々アスイェに抱き上げられたこともあった。その頃から、暖炉の火はいつも燃えていた。アスイェはマントを脱ぎ、袖をまくり上げ、すでに起こされていた火の前に立った。狩りはもう終わって落ち着いた少女は、目を輝かせながら蒼い炎を見つめた。「……ちゃんと座ってろ。お前は食べ物を待っているんだ。狩りに出るわけじゃない。」「だって、蒼い炎が綺麗だもん!」少女は少し身を乗り出し、両手で椅子の端をぎゅっと掴んでいた。楽しそうに見た。アスイェの包丁捌きはきれいで無駄がなかった。肉をきれいに切り、鍋に入れて、音と共に肉の香りが鼻をくすぐる。その香りは吸血鬼の本能を煽られるものではなかったが、セラフィナは確かに空腹の感覚の感覚を覚えた。「……何を焼いてるの?」「セラが好きな肉だ。ちゃんと座ってないと野菜しかあげない」セラフィナは唇を一回舐めて、やっとしっかりと座った。「……わかった。待ってる」それからしばらく、焼ける肉の香りと火の音だけが響いていた。時々、油が弾けて火が大きくなるたびに、セラフィナは頑張って本能を抑えていた。アスイェは背をセラフィナに向けたまま、セラフィナが我慢しているのを知っているかのように言った。「足りなければ、後で血もあげる」「ううん、大丈夫」「そうか」彼女はそのまま座っていて、ただでさえ機嫌のいい少女は、肉の焼ける音を聞きながらずっとにやけていた。「アスイェ、真剣に肉を焼いているね」「うん。毎回ではない」「セラのため、、でしょう?」「…
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第三十九話:共感

セラフィナは、自分はもう成長したのだと思っていた。そのせいか、以前ほどアスイェの部屋を訪れなくなっていた。夜,彼と一緒に散歩に行くことがあっても、奇妙なことが起きた時や、血が騒いで助けを求める時でさえ、セラフィナはアスイェと距離を取った。セラフィナは他の吸血鬼と会ったことがないし、アスイェの居場所を奪うつもりもなかった。だが、なんとなくわかる。アスイェが自分をこの屋敷に置いていること自体、普通ならありえない。吸血鬼はなんとなくわかることが多い。例えば今日、一度もアスイェに会っていないことに違和感を覚えた。そして、少女の調子もよくなかった。最初はただの立ちくらみだと思った。はっきりと感じたのはそのすぐあとだった。少女は歩くことすら難しい状態に陥った。壁に手をつき、せめてこの状況をアスイェに伝えようと思い、重い足を引きずるように進んだ。屋敷の中に、一つだけ鍵がかかっていない部屋があった。アスイェが彼女を一人にする時のために用意した部屋で、普段なら、セラフィナが立ち寄るべきではない場所だったが、今日、セラフィナは初めてそこを訪れた。彼女はノックせず、少しだけ部屋の扉を開けた。カーテンは閉めきられておらず、部屋の中にはワインの香りが漂っていた。この時だった。この目眩も疲れも自分のものではなく、アスイェのものだと、ふと気づいた。アスイェは疲れて、髪が頬ににかかり、その顔は普段よりも白く見えた。アスイェがこんなにも静かな姿を見せたことは、セラフィナは扉の外に立ち止まり、入っていいかと躊躇っていた。セラフィナは近づくたび、確信したことがあった。これは、逆らえない血の繋がりだった。別に血の繋がりに逆らうつもりはないが、アスイェが寝込んだ姿を見ると、どこか痛々しく感じた。その時だった。椅子の上に横になっていたアスイェは目を開け、躊躇している少女を見つめた。「……来たか……どうした?」「ごめんなさい……アスイェが疲れているって感じたから……」「感じた……共感したのか?」「「そうだと思う。さっきセラ、目眩したから……
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