電話の向こうで、イーサンの声は興奮していた。その言葉ひとつひとつが、翼と日和の顔を平手で打ちつけるようだった。年俸、300万ポンド。私が翼の事務所で7年間働いて稼いだお金を、全部合わせても届かない金額だ。隣で、翼が信じられないとでも言うように、目を見開いた。「イーサンだって?あの世界的に有名な弁護士の?ありえない!どうして、そんな大物と知り合いなんだ?」日和は顔を真っ青にして、爪が食い込むほど強く拳を握りしめ、嫌味たっぷりに言った。「最近の詐欺は手が込んでいるものですよ!高橋先生、そんなロマンス詐欺にだまされちゃだめです!あんなすごい事務所が、自分から連絡してくるわけないじゃないですか?」イーサンとの電話を切り、顔面蒼白になっている二人を見て、私は鼻で笑った。「詐欺かどうかは、お二人に心配されることじゃないから」そう言って、私はスーツケースを引き、梓を訪ねようとした。翼は急に慌てだした。私の前に飛び出してきて、脅すように言った。「凛菜!行かせない!もし行こうものなら、離婚だ!よく考えろ。俺は離婚問題じゃトップクラスの弁護士だぞ。本気で争うことになったら、君は一円だって手にできない」またその脅し文句だ。これまで、喧嘩のたびに翼が離婚をちらつかせると、私はいつも折れてきた。私にも悪いところがあったのかも、なんて考えて。でも今、その脅しが滑稽に聞こえるだけだった。私はすぐにカバンから判決書を取り出し、翼の目の前に叩きつけた。「もしかしてお忘れかしら?私たち、とっくに離婚してるのよ。裁判所の判決は、もうとっくに有効になってる。今のあなたは、私とは赤の他人よ」その言葉に、翼はきょとんとした顔になった。でも、彼は判決書に目もくれず、近くのゴミ箱に投げ捨ててしまった。「凛菜、俺の気を引きたいからって、頭がおかしくなったのか!判決書を偽造するなんて!」かつては自分に夢中だった女が、本気で関係を断ち切ろうとしているなんて、翼は信じたくなかったのだ。私が何か言い返そうとした時だった。梓が、封筒を持ちながら、息を切らしてこっちに走ってくるのが見えた。「凛菜!届いたわよ!凛菜宛の速達!」その言葉を聞いた翼は、途端に目を輝かせた。梓の手から荷物をひったくると、鼻で笑って言った。
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