川島家のパーティーには、私はこれまで何度も来たことがあった。でも今日が初めてだった。私はもう、「川島幸治(かわしま こうじ)の婚約者」という立場でこの門をくぐったわけじゃなかった。「あれ、藤屋蛍(ふじや ほたる)?どうして……」「あの人が手をつないでるの、誰?大倉家のあの人?」「幸治さんのそばにいるのはまた誰だ?どういう状況だよ……」幸治が立ち上がった。あまりに勢いがよく、椅子の脚が床を引っかいて耳障りな音を立てた。彼の目は赤くなっていて、大倉司(おおくら つかさ)を指さした。「てめえ、こいつが俺の婚約者だって分かってんのか?」司は一度うつむいて私を見た。自分が口を出すべきかどうか、うかがうように。私はほんのわずかに首を横に振った。幸治の母は笑みを浮かべ、場を取りなすように言った。「蛍ちゃん、きっと何か誤解があるのよ。幸治はまだ若くて遊びたい盛りなだけで、心の中ではちゃんとあなたのことを――」私は幸治の母を見て、同じように笑った。「おばさま、この一年、彼は好き勝手して、相手を七人も替えました。でも私は、一言も言わなかったんです。今日は川島家のパーティーなのに、彼は八人目を連れてきました。ここで私がまだ黙っていたら、次は九人目のために席まで譲れってことですか?」幸治の父の顔色はこわばり、幸治をきつくにらみつけた。幸治が何か言おうとしたけれど、私は手を上げてそれを遮った。「幸治、あなたの言うとおりね。一途でいるなんて、たしかに損だわ。だからこの婚約、こちらから破棄する」私はその婚約書をテーブルの真ん中へ押し出し、振り返って父を見た。父の顔からは怒りも喜びも読み取れなかった。私と三秒ほど視線を合わせ、それから立ち上がった。「川島、子どもたちのことに、俺たち大人が口を挟むつもりはない。だがこの婚約は、蛍ちゃんが解消したいというなら、俺は賛成する」幸治の父の顔はさらに沈み込み、幸治に向かって怒鳴った。「お前は出ていけ!」幸治は追い立てられるように書斎へ追いやられ、扉越しにも物を叩きつける音が聞こえてきた。幸治の母は最後まで何も言わず、そのまま書斎へついて入っていった。白川瑠衣(しらかわ るい)は一人その場に立ち尽くしていた。周囲から向けられる視線に居たたまれなくなったのか、うつ
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