これまで優弥の電話に美琴が出なかったことなど、一度もなかった。たとえ深夜の三時でも四時でも、優弥からの着信と分かれば、彼女は必ずすぐに応答した。だからこそ――今日だけ応答がないという事実が、かえって現実味を持たなかった。美琴はいったい、どこで何をしている?優弥は半ば意地のように、もう一度電話をかけた。だが結果は同じだった。呼び出し音だけが空しく続き、やがて通話は切れた。優弥は顔をしかめ、苛立ちを隠そうともせず言った。「どういうことだ……美琴は俺のボディーガードだぞ。あれだけ給料を払ってるのに、連絡ひとつ取れないってどういうつもりだ?こんな仕事の仕方するなら、もうボディーガードなんて辞めてもらう」孫の愚痴を聞いた康二は、ただ静かに長いため息を吐いた。そのため息に生命力でも奪われたように、彼は一気に老け込んだように見えた。「お前が辞めさせるまでもない。どうやら……あの子はもう出ていったようだ」――出ていった?その言葉は細い針のように優弥の胸を刺した。自分でも気づかないうちに、体がわずかに震えていた。だがすぐに、いつもの傲然とした態度を取り戻す。「あり得ない。美琴は俺のボディーガードだ。生涯をかけて俺を守るのは彼女の役目。そんな彼女が、俺の許しがない限り、どこにも行くはずがない」そう言いながら、何かを思い出したように口元を緩める。「おじいさまも覚えてるだろ。前に競合の会社が二十億出して彼女を引き抜こうとしたことがあった。あのときも、美琴は即座に断った。それに、俺が毎年払ってる給料だって十分高い。この界隈で俺が出した以上の条件なんてまずない。彼女が俺のそばを離れるわけがないんだ」「給料?」康二は驚いたように優弥を見ると、ゆっくり首を振った。「彼女がお前についてきたのはお金のためだと、本気で思ってるのか?」少し間を置いて、康二は続けた。「あの日、美琴が私のところへ来たのは、護衛任務を解除して欲しいと依頼するためだ。そして私は――すでに護衛任務解除届に署名した」その言葉を聞き、優弥の顔から余裕が消えた。代わりに浮かんだのは、隠しきれない焦りだった。次の瞬間、彼は康二の入院着を掴んで、上ずる声で問いただす。「おじいさま、今なんて言った?署名したっていつの話だ?」康二は失望した顔で優弥を見ながら
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