《光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~》全部章節:第 61 章 - 第 70 章

77 章節

飼育小屋の令嬢

 飼育小屋で、たった一人での生活を始めたジャンヌが最初にやったのは、動物達の世話だった。ここにいるのは、高齢で卵を産めなくなった鶏と、同じく年を召して乳の出なくなった牛。そして、もはや立っているのがやっとな馬達などだ。元々居た飼育員達は、新しい飼育小屋と、そこで飼っている動物達の世話で忙しく、とても残された動物達の面倒は看ていられないようだった。 朝起きると、まずは井戸で水を汲み、動物達に新鮮な水をやる。次に、ボロが溜まった寝藁を集めて、ジャンヌの身体よりも少し大きな手押しの一輪車にそれを載せ、新しい飼育小屋の傍にある廃棄場へと運ぶのだ。そこで綺麗に一輪車を水で洗い、今度は新しい寝藁と動物達の餌を積んで戻るのである。 全てが見様見真似だったが、ジャンヌは動物達を放っておく訳にはいかなかった。自分がこれから生活していく場所なので、彼らの世話をしてやらなければ臭いや汚れに悩まされるのはジャンヌの方だったし、何より相手は先が短い動物達であっても、少しでも何かと関わりたかったからだ。 ジャンヌがそれを始めたすぐの頃は、他の飼育員達もジャンヌに気付くと気を揉んでいたようだが、彼らもこの屋敷に住み込みで働く者達である。当然のように雇い主の事情を察し、誰もジャンヌには近寄らず、関わろうとする者はいなかった。    食事は、一日に一度、夜に厨房へ取りに行くのが日課である。お抱えのコック達は、やってきたジャンヌを見ても怒鳴ったりはしなかったが、動物達の世話によって汚れた格好で厨房に入る事を特に嫌った。その為か、いつしかジャンヌの分の食事は、トレーに載せられた状態で勝手口の脇の地面に、直に置かれているようになった。ジャンヌは日が暮れた頃にそれを受け取ると、飼育小屋へ持ち帰って、独りで食べるのだ。それまでも、黙ったまま張り詰めた空気の中で行われる両親との食事の時間は、決して楽しいものではなかったが、まだ温かい食事がとれただけマシだった。ジャンヌは一人、冷えて硬くなったパンと、具がほとんど入っていない冷めたスープを飲み、静かに泣いた。 そんな生活を初めて5年が経った頃、ジャンヌは人知れず窮地に立たされていた。「困ったわ……キツイなと思ってたけど、袖が通らなくなってきちゃった。これじゃ、着ても動いたら破けちゃうかも。それでなくてもボロボロだし……どうしよう」 ジャンヌは手持ち
last update最後更新 : 2026-04-26
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決別の時

 それは、ジャンヌの15歳になってすぐのこと。初めて飼育小屋で暮らせと母より命じられてから、実に10年の月日が流れようとしていた。 この頃のジャンヌは、毎日を無気力に過ごすことが多かった。ヘンリーが屋敷に立ち入らなくなって以来、庭仕事を手伝う事も出来なくなり、面倒を看ていた年老いた動物達ももういない。かといって、屋敷から出る事も許されないので、外で働く事もできない。五歳までの頃に買って貰った本や教科書は何度も読み切ってしまい、ただ生きているだけという状態だ。「……私、どうして生きているんだろう」 燦々と照らす太陽に手をかざすと、瘦せ細った腕が薄赤い光を通す。この頃のジャンヌがここまで無気力だったのは、栄養状態の悪さから来る思考力の低下もあったのかもしれない。もっとも身体が育とうとする思春期の心と身体に対して、ジャンヌには絶望的に栄養が不足していた。ヘンリーの一件があってから、両親のジャンヌに対する扱いは更に悪化しており、ただでさえ不足している食事の量が減らされるばかりか、時には一日に一度の食事さえ与えられないこともあったようだ。この状態のジャンヌが命を繋げてこれたのは、加護である大逆転が低い状態で発動し、魔力で強制的に生命活動を維持していたからである。「ジャンヌお嬢様、アメーリア様がお呼びです」「え?あ……わかり、ました。いま行きます」    ジャンヌを呼びに来たのは、スーラというメイド長の女性だ。スーラは代々パルテレミー家に仕えたメイドの一族であり、ジャンヌをお嬢様と呼ぶただ一人の人物である。それは別にジャンヌを認めているからという訳ではなく、メイドとしての立場からそうしているだけだ。むしろ、彼女はパルテレミー家のメイドという職業に誇りを持っており、両親よりもジャンヌの存在を疎ましく思い、憎んでさえいるのだった。 (お母様が私を呼ぶなんて……一体いつぶりだろう?屋敷の中に入るのも久し振りだわ。っ、床が……冷たい) 白陶石で出来た床は美しく頑丈だが、気温よりも冷えるのが特徴だ。ジャンヌは素足である為、その冷たさが特に身に染みた。服のサイズが合わなくなる以前から、靴が合わなくなったジャンヌはずっと裸足で生活をしてきた。流石のヘンリー
last update最後更新 : 2026-04-27
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組織の影

「――とまぁ、そう言う事があった訳よ。それで何とか辿り着いた王都で|スライ《浮浪者》をしてたら、ソロに拾われたの。それでソロと一緒にMIRAとして生きて行こうって思うようになったってこと」   「……」「そんな……ジャンヌさん……」「そうだったのか。嫌な事を思い出させてしまったね、申し訳ない。改めて謝罪しよう、すまなかった」 ジャンヌが一息に己の過去を話しきると、それを聞いていたソロ達は三者三様の反応をみせた。元々ジャンヌの過去を知っていたソロは口を閉ざし、ジーナは涙を浮かべていて、空気の読めない感じだったシーザーでさえ、深く頭を下げている。  ジャンヌは大きく溜め息を吐いて、立ち上がった。「はぁ~…………こういう空気になるのが嫌だから昔の事は話したくなかったのよね。別に私は自分の境遇を話して同情されたいとか、理解して欲しいとか思ってないから謝られるような事もないわ。それに、世の中には私以上にもっと大変な思いをして、それでも歯を食いしばって生きてる人がたくさんいるって知ってるもの。それに比べたら私なんて、幸せな方よ。もうあの家とは関わることもないし、気にしないわ」「しかし!」「だから、もういいって言ってるでしょ。シーザーって言ったっけ?私達はチェックアウトの時間があるんだから、この辺でおしまいにしてくれない?」「あ、ああ……」「おい、ジャンヌ、どこへ行くんだ?」「……ちょっと外の空気吸ってくる。すぐ戻るわ」 ジャンヌはそれだけ言うと、振り返りもせずにスタスタと部屋を出て行ってしまった。気にしていないと言いつつも、明らかに普段の彼女とは違う様子だ。きっとジャンヌにとって、家族とのことはまだ折り合いをつけようとしている真っ最中なのだ。ああして気にしていないという風を装わなければ、心の安定を保てないのだろう。これ以上、彼女にストレスをかける気にはなれないので、ソロ達は黙ってジャンヌを放っておくことにした。「私、初めて知りました。ジャンヌさんが貴族の令嬢だったなんて……思い返してみれば、食事の時とか、凄く綺麗だったなって思いますけど」「五歳までの間に
last update最後更新 : 2026-04-28
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変革を望むもの

 険しいフォラファ山脈の中央には、立ち入る事が難しい何もない小さな平野が存在する。そこはかつて火山の噴火口だった場所が、長い年月の果てに風化を繰り返し、均されて出来た空間だ。そこを上空から見ようとしない限り、誰も気付かないであろうそこは、言わば、隔絶された天険の秘境と言ってもいいだろう。 その何もないはずの平野の中央に、それはあった。 床から柱、天井に至るまで全てが白陶石で作られたその建物は、まるで神殿のような静かで厳かな佇まいを保ちながら、全体的に白く輝く城のようでもあった。城のようと表現はしたが、実際に存在する様々な王城と比べると、その大きさはやや小ぶりだ。姿形は城のようだが、規模としては砦か要塞のようなものなのかもしれない。そして、薄暗いその中の廊下を、3人の男女がコツコツと足音を響かせながら歩いている。 その中の一人、中央を颯爽と歩く騎士風の装いをした若い男は、やや短めにカットされた黒髪をなびかせ、整った顔に自信の満ち溢れた笑みを浮かべながら円卓の椅子に着いた。両脇に従えていた男と女もそれぞれが彼の隣の椅子に座ったが、体格のいい男の方は険しい表情をしており、逆に小柄な女の方は不気味なほどニヤついているのが印象的だ。    既に他の席には顔が見えない程にローブを深々と被った人物達が座っていて、彼らの到着を待っていたようである。そんな彼らに一通り視線を流すと、黒髪の男はニッコリと笑って声を上げた。「やぁ、待たせてすまなかったね。色々とイレギュラーがあったものだから、対処に手間取ってしまったよ。で、今日の議題は何だい?」「……報告の通り、|赤鬼《レッド・オーガ》が破れました。やったのは、バーソロミュー・サマーヘイズという元エンデュミオン皇国の魔法師団長だった男のようです。今はMIRAとして活動しているようですが」「ああ、そのことか。うん、彼の事なら心配いらないよ。イレギュラーの対処ついでに拾ってきたからね。今は傷を癒している所さ。すぐにまた、戦えるようになるだろう」「さっすが、エルドレッド様、仕事がはや~い!でも、あんな使えないヤツ、始末しちゃった方が良かったんじゃないですかぁ~?」「バカを言うな、ヴィヴィアン。
last update最後更新 : 2026-04-29
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それぞれの関係

 シーザーを仲間に加えたジャンヌ達はティグを出発し、現在、街道を通りながら次の宿場町であるソワレへと向かっていた。ソワレまでは徒歩で大体一日あれば着く計算だが、ジャンヌの過去の話などをしていたせいで、ティグを出たのが結局昼近くになってしまったので、今夜はどこかでキャンプをする必要がありそうだ。  基本的に街道沿いには危険な魔獣なども出ないはずなので、本来、キャンプをする事になっても問題はない。ボワ湖での怪魚との戦闘は、レア中のレアケースだったのだ。「んー、清々しいなっ!普段は馬車で移動するのが当たり前だからか、こうして歩いて国内を歩くのは新鮮だ。見たまえ!あの雄大なフォラファ山脈の山々を!何とも素晴らしい景色じゃあないか。次期国王として、鼻が高いよ。ハッハッハッ!」「鬱陶しいわね、もう。ねぇ、シーザー。あんた本当にこのままついてくるつもり?仮にも王子なんでしょ?こんなとこで油売ってたらマズいんじゃないの、色々と」「そう邪険にしないでくれたまえ、ジャンヌ君!王族が自分の国の土地をこの目で見て回ることが悪いはずないだろう?僕はね、いずれ王となるからには、民の暮らしも土地の問題も、出来れば全て自分で見て経験しておきたいと思っているんだよ。父上も御爺様も、そういう観点が抜けている人だったからね!反面教師という奴かな!」「……言ってることは立派だけどさ。暑っ苦しいのよね、あんたって。あと、うるさいからもうちょっと離れて喋ってくれる?」「ハハッ、辛辣っ!」 すっかり意気投合した(ツモリ)のシーザーに、呆れた様子でジャンヌが反応している。この二人、どうにも相性があまりよろしくないようなのだが、シーザーはついてくるのをやめないようだ。ちなみに、|赤鬼《レッド・オーガ》こと、ゴーシュとの一件からこのパーティには前衛が不足していると感じていたソロは、シーザーの参加はむしろ歓迎である。少し気まずいことさえ我慢すれば、戦力的なバランスは遥かによくなるのだ。 そんな二人を落ち着かなそうに見ているのはジーナだ。ジーナにしてみれば、自分の国の王子様が傍にいるというのは不自然極まりない事態である。彼女はただの町娘として育っただけに、偉い人物との交流経験は少ないのだった。
last update最後更新 : 2026-04-30
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ハバキリの涙

「ずいぶん大層な異名持ってるじゃない。……あんた、|Neck《賞金首》ね?」   「いかにも。我が首を狙う者は、もういないと思っているがな」    ジャンヌの指摘を受け、ナタンは静かに頷いた。わざわざ隠す必要もないと言いたげだが、ソロはその名を聞き、すぐに思い当たるものがあった。 (ナタン、だと?……あの装いは確か、東の島国、|篤国《あつくに》のもの……そうか!)「気を付けろ、ジャンヌ!そいつは連続殺人鬼だ!」「れ、連続殺人鬼!?」「そうだ。そいつはその昔、篤国で無辜の人々を次々と殺害し、この大陸に渡ってきたとして篤国の王から直々に懸賞金が懸けられている。だが、こんな強力な加護を持っていたとは……!」 ソロがそう叫ぶと、ナタンはニヤリとよく解ったと言わんばかりに小さく笑った。だが、その眼光はかなり鋭く、ゾッとするほど昏い光を宿しているようだ。「ほほう、我が行いを知る者など、とうの昔に全て斬り捨てたと思っておったがな。しかし、知らぬ方が幸せであったと思う事であろうよ。……我の過去を知る者は全て殺す。可哀想だが、たった今、一人残らず殺さねばならなくなったわ!」「ハッ!ごちゃごちゃごちゃごちゃうるっさいわね!あんたなんかに誰も殺させるもんですか!皆には指一本触れさせやしないわ、かかってきなさい!」 そう言って、ジャンヌはハバキリを抜き放った。ハバキリの刀身がキラリと輝き、ジャンヌの魔力をたっぷりと湛えている。身動きの取れないソロ達には、とても頼もしく見える姿であり、普通の敵ならば、その迫力に気圧されていただろう。「ほう、確かに似ておる。その威迫、単なる紛い物に出せるものとは思えぬな。……どれ」 ナタンはジャンヌの持つハバキリをしっかりと見据え、笑みを消した。その直後、ダダンッ!という激しい踏み込みの音を立てて、ジャンヌに肉迫する。「っ!?っぶな!」 敢えて無造作に、自然体で構えていたジャンヌは、その一撃にも敏感に反応することができた。ナタンが繰り出してきたのは鋭い突きで、的確に彼女の喉元を狙っていたのだ。ジャンヌは寸での所で、その一撃をハ
last update最後更新 : 2026-05-01
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剣心一如

「ふん、仕切り直しという訳か。よかろう、腕試しをせよとの命令であったが、使えぬなら殺せとも仰せつかっておる。死にたくなければ、精々本気で抗ってみせるがよい!」 ナタンがそう言い放つやいなや、ジャンヌとナタンは互いに構えを取って睨み合った。そんな二人の凄まじい気迫のぶつかり合いに、動きを封じられて見守るソロ達にも緊張が走る。「さ、先程のナタンとやらの動きに、ジャンヌ嬢はついていけるのか?とてつもない速さだったが」「確かにヤツの動きは速いが、問題はあの急激な動きの変化だろう……ジャンヌはどうやってあれに対抗するつもりなのか」「あっ!」 ジーナが驚きの声を上げたのは、先に動いたのがジャンヌの方だったからだ。このまま睨み合いが続けば、ソロの危惧した唐突なナタンの動きに対応するのが難しくなる。ゆえに、ジャンヌは先手を打って、攻撃を仕掛けたようだ。「ふんっ!ぬうううう!」「くううううっ!」 激しい衝突音からの鍔迫り合いが火花を散らす。ジャンヌが放った上段からの振り下ろしを、ナタンは完璧なタイミングで受け止めた。また、そこからジャンヌが全力で押し込んでいるにも関わらず、ナタンの刀は鋼鉄の壁のように硬くビクともしない。やはり、ナタンも相当なパワーの持ち主であるようだ。 (ジャンヌのパワーに負けていない……だと?!何て奴だ!)「でぇいっ!」「ちっ!」 次に膠着状態を崩したのはナタンの方だ。ジャンヌの力に押し込まれていたはずが、ナタンは鍔迫り合いが続く中で、互いの力のバランスが崩れる瞬間を狙っていたらしい。その一瞬を正確に見抜き、かち上げるようにしてハバキリを押し上げ、跳ね除けた。押し返されたジャンヌは舌打ちをしつつも一歩下がってすぐに構え直し、そこから互いに打ち込みの応酬が始まった。「おおおおおっ!」「やあああああっ!」 目にも留まらぬ速さで両者の刀がぶつかり合い、剣戟の音と衝撃が周囲に拡散していく。互いに一歩も譲らぬ攻防は激しさを増していき、もはや刀の動きを目で追う事すら難しくなってきた。そんな時だった。  ザシュッ!という音とも
last update最後更新 : 2026-05-02
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二つの結末

「……負けた?ナタンが?」 エルドレッドがそう聞き返すと、フードを被った人物の一人が頷き、その場は時間が止まったような静寂に包まれた。だが、静かだったのはほんの一瞬だけで、エルドレッドの隣に座っていたグレッグが苛立つように声を上げ、静寂はいとも簡単に打ち破られた。「バカな!奴の加護は使い方次第では無敵の能力なのだぞ。負ける事などあり得るはずが……まさか、加護を使わなかったのか!?」   「落ち着いてくれ、グレッグ。ナタンの|誓約《ユーラティオー》は確かに強力だったが、欠点もあった。そこをつかれた可能性もある。ダーラ、詳細を」   「……」 ダーラと呼ばれたフードの人物は一言も発さず、黙って何かを取り出して円卓の上に置いた。それは、ナタンが円卓から出ていく際に、左手に持っていた小さな結晶と同じものだ。それは彼女の持つ加護によって作られた結晶であり、どんなに離れていても情報の共有と保存が出来るという代物である。    余談だが、エルドレッドの言うナタンの加護・|誓約《ユーラティオー》の欠点とは、相手が取引に応じなければその効果が発揮されないという点にある。 |誓約《ユーラティオー》の正体は、非常に深い催眠のようなものだ。それは相手と言葉を交わし、その了承を得ることで相手の心を縛る力となる。ジャンヌ達の周囲の風景が変わったように見えたのは、催眠状態に入った事による幻覚である。  その能力ゆえに、まず第一に相手がナタンの言葉に耳を傾けなければならない。ナタンがどこか気安い様子で、戦いの最中にあっても休息を入れてジャンヌを挑発していたのはそれが理由だ。普通であれば、戦闘中に敵の話を聞こうとする人間は少ないだろう。ナタンは饒舌に語りながらわざと隙を見せることで、自分のペースに引き込んでいたのだ。 また、|誓約《ユーラティオー》はその性質上、予め能力を知っている者には容易に対処されてしまうという弱点もあった。何しろ、一切の口を利かず、黙っているだけでナタンの加護は封殺できるのだ。相手をカタに嵌めてしまえば無敵の能力となり得るとはいえ、その弱点はあまりにも大きい。彼が故郷の篤国で大量の殺人を犯したのも、自らの加護の秘密を守る為だ
last update最後更新 : 2026-05-03
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シーザーの願い

 ソワレに着き、一息ついたジャンヌ達は、ソロの提案で数日この街に留まることとなった。というのも、アーデを通して、この後訪れる豪雨の予兆を捉えたからである。 本来、森に住む魔獣であるフォレストオウルには、ある程度の天候を読む能力が備わっているらしい。いかに魔獣と言えど自然の猛威に逆らうことは不可能で、嵐や洪水、積雪や落雷といった極端な自然災害に対しては勘が働くもののようだ。人間でさえ空の様子を観察して雨を予想したりできるのだから、人より優れた感覚を持つ魔獣にもそれが出来るのは当然のことなのかもしれない。産まれた時からソロと一緒に暮らしているアーデもまた、他のフォレストオウルと同じく、天候を読む事が出来た。そのイメージをソロと共有する事で、この先数日間、激しい雨が降る事を予測したようだ。 幸い、宿は格安で泊まれるので、数日滞在してもそこまでの痛手にはならないはずだ。昨日倒したナタンの賞金が降りるのは彼の遺体が篤国に届いてからになるから、しばらく先になりそうだが、彼の首に懸けられた賞金は100万ドルゴほどもあったので、まとまった金額の目途が立っているのも大きい。  この街でも稼げる仕事が見つかればそれに越したことはないのだが、そこまでは望み過ぎだろう。 更に言えばこの先、ソワレを出るとしばらくは森林地帯が続き、宿を取れそうな街までは数日以上かかる見込みだ。森の中で豪雨に見舞われれば、そのリスクはとても大きい。多少の雨ならば木々が雨避けになってくれるが、森の中はどうしても水はけが悪く、足場も悪くなりがちなのでキャンプを張るのも一苦労だ。その為、出来るだけ雨を避けようというのがソロの提案であった。「うわ、凄い空の色……あの赤さだと、今夜くらいから一雨来そうね」    窓の外に見える空を見上げて、ジャンヌがポツリと呟いた。決してアーデの予想を信じていなかった訳ではないが、改めて空の色合いを見てしまうと口に出したくなる。それほどに、空の色は濃い赤色をしていた。「ホントですね……そう言えば、お父さんも、こうして空の色を見て明日の天気を予想してました。昔は鉱山で働いていたから、大雨の時は鉱山が休みになるんだって」「ああ、万が一、坑道に大量の水が流れ込んだら大変だもんね。うぇ、この間の湖に落ちたの思い出しちゃった……」 そう言って、ジャンヌは見たこともない渋い
last update最後更新 : 2026-05-04
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シーザーvsジャンヌ

 宿の中庭に連れて来られたソロは、かなり不機嫌そうな表情をしている。そんな彼を連れてきたジーナは心苦しそうだが、中庭の中心でシーザーと対峙するジャンヌはとても嬉しそうだ。20万ドルゴの臨時収入が、相当嬉しいらしい。「まったく、久々にゆっくりと魔法の創作でもしようと思っていたところだったのに……」「ご、ごめんなさい、ソロさん。ジャンヌさんが連れて来るようにって」「何ブツブツ言ってんの、ソロ!いいじゃない、少しくらい。シーザーと試合するだけで20万ドルゴよ?こんなラッキー、中々ないわよ」 ニコニコと笑いながら言うジャンヌを見て、ソロは溜息を吐いた。20万ドルゴは、|Neck《賞金首》に懸けられた賞金としてみれば大きな金額ではないが、一般的な庶民の平均月収クラスの額ではある。ジャンヌの言う通り、それがシーザーと試合……命のやり取りですらない戦いをするだけでもらえるなら、十分破格だ。相手がNeckなら命の危険もあるが、そうではないのだ。「はぁ……確かに、シーザーの実力を知っておくのは悪いことじゃないがな。仕方ない、二人共こっちへ来い」 ソロはジャンヌとシーザーを呼ぶと、二人に向けて小さく呪文を唱え、印を切った。そしておもむろに、懐から小さな人形を取り出して宿から借りてきたであろう小さなテーブルの上にそれを置く。布と綿で作られたその人形は、ずいぶんと不格好で辛うじて人の形をしているように見える。ジャンヌもシーザーも、ジーナさえも怪訝な顔である。「なにそれ?」「これは身代わりの人形だ。今二人にかけた魔法は、この人形と二人を繋いでくれる。二人が範囲内にいれば、ダメージを負ってもこの人形が肩代わりしてくれるのさ」「へぇー!そんないいものがあるなら、なんでもっと早く教えてくれなかったのよ」「それほどカバーできる範囲が広くないのと、一度範囲を決めたら解除するまで動かせないんだ。だから、実戦で使うのは難しいんだよ。……あと、人形を作るのも中々難しいしな」 最後に小さな声で囁いたのがソロの本音だろう。彼は魔法に関しては右に出る者はないと言われているが、手先はそこまで器用ではない。というより、この人形を見る限り、
last update最後更新 : 2026-05-05
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