All Chapters of 光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~: Chapter 71 - Chapter 80

122 Chapters

戦いに持ち込むもの

「ありがとう。では、仕切り直しと行こう!おおおっ!」「また来るっ、今度は!」 ジャンヌは冷静にシーザーの動きを見極め、迎え撃つことにした。先程の三連撃は、予想外のタイミングだった事もあってジャンヌは服を斬られてしまったが、きちんと冷静に対処するならば、そう後れを取る攻撃ではない。「てぃっ!せいっ!はあっ!」「また三連撃……けどっ!」 三連撃の最中に反撃する隙は無いが、それらの動作が終わった後ならば話は別だ。生物は無限に動き続けることなど出来はしない。特に渾身の力を込めた攻撃ならば、尚更その直後には動きが止まるか、隙が出来るものである。だが、シーザーはその隙を、左手の盾を巧みに使う事で完璧に隠していた。ここでも、ジャンヌの反撃をシーザーは盾で防ぎきったのだ。これには、傍で見ていたソロも瞠目していた。「……大したもんだな」「え?ジャンヌさんがですか?」「いや、シーザーが今の反撃を防いだことさ。ジャンヌの攻撃はああ見えて、かなり重い。にもかかわらず、シーザーはさっきも今も、しっかりと盾で防いでいただろう?自分の攻撃直後で、防御にまで力が入りきらないはずなのに、あれを受けてもビクともしてないというのは、相当な鍛錬を積んで体幹がしっかりしている証拠だよ。だから、大したもんだって言ったのさ。普段の様子から見てもう少し頼りないと思っていたが、そんな事もなさそうだな」「あ、あはは……」 (王子様なのに、評価が低いなぁ……) ジーナにしてみれば、シーザーは自分の国の王子である。本人曰く、次期国王だと豪語しているのだが、ジャンヌ達からは頼りなく思われていたというのは、何とも切ない話だ。そうは言っても、ジーナ自身、シーザーの事をそこまで高く買っていた訳でもないので文句は言えない。  そもそも、ジャンヌは昨晩のようにハバキリの力をほとんど解放していない。いわば、片手落ちの状態だ。もしも、ジャンヌがシーザーを殺すつもりで本気を出していたならば、あの盾ごと腕や胴を斬り捨てられていたに違いない。それを考えれば、評価が難しいのも事実だった。「鬱陶しいわね、その盾……!」「ふっ!
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ジーナの心境

 ジャンヌとシーザーの勝負を終えたその夜。未明から|し《・》|と《・》|し《・》|と《・》と降り出した雨は、翌朝には本降りとなっていた。アーデの予想通りなら、この雨は数日間続き、森はかなり足場が悪くなることだろう。無理に出発しなくて正解である。 それからの数日間、ジャンヌ達はめいめいに時を過ごしていた。ソロは魔法の創作と研究に没頭し、ジャンヌとジーナは揃って雨の中でも街を散策しては、食事を楽しんだり本を買って読んだりしている。ちなみにシーザーは、自分で取ったスイートルームで一人全身の痛みに悶絶していた。  ジャンヌが危惧していた通り、ソロの身代わり魔法には欠陥があって、一定以上のダメージは人形へ移し替えることが出来なかったらしい。ジャンヌが放ったドロップキックはその限界を超えており、シーザーは激痛に苛まれることになってしまったのだ。もしもあの時、ジャンヌがハバキリの力をフルに使っていたら、シーザーは確実に死んでいただろう。それがソロのプライドを刺激した為に、彼は魔法の研究に勤しんでいるのである。 そんな日が続いたある日の事、すっかり雨も上がって旅を再開するにはいい頃合いになってきた。ただ、この先は森林地帯を抜ける必要がある為、雨上がりの今すぐに出発するのは危険である。明日あたりには出発しようかと話をしていた時のことだった。「なんやかんやで、この街には長居したわねー。そんなに大きな街じゃなかったけど、ゆっくりできてよかったわ」 ジャンヌとジーナが二人で昼食に行った帰り道、青空を見上げつつジャンヌはそう呟いた。隣を歩いていたジーナも慣れない旅の中で、久々に腰を落ち着けることが出来たらしく、笑顔でそれに同意していた。「本当ですね。ご飯も美味しかったし、景色もよくて楽しかったです。また来たいなぁ」「レガリアに着いたら、その後また来ればいいわ。だいぶ先になっちゃうけどね」「ふふ、そうですね」 ジーナはそう言って、コロコロと笑ってみせた。やはり、ここへ来るまでに心も体も疲れが溜まっていたのだろう。数日前に比べるとすっかり顔色も良くなって、よく笑うようになっていた。先の事を考えられる余裕が出来たのも一安心である。ジーナの加護がどんなものな
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危険な偵察

「ふーん、そんな事があったのか。それで、どうなったんだ?」 その夜、ソロと合流して夕食の際、ジャンヌ達はデックの話をすることにした。デックの話によると、彼の店は元々、旅人達の旅装を仕立てる|仕立て屋《テーラー》だったらしい。この近くには、厳しい山岳地帯にのみ生息するハイラントという生物がいて、そのハイラントの毛皮はヴィキュニアと呼ばれ、王家に献上されることもあったほどとても上質な毛皮なのだそうだ。デックの店では、そのヴィキュニアを使った携帯毛布や、マントなどが主力商品だったという。ジャンヌが見た上等な生地の普段着は、その余った素材を再利用して作ったものだったようだ。 しかし、最近、領内の別の街からやってきた商人がいた、それがポンザだ。 ポンザは領主ルドマンに繋がる遠縁の男らしく、彼は領主の印が記された書類を持っていた。そこには、近在に生息するハイラントと、その毛皮から作られるヴィキュニアの全ての商品を独占して管理し、販売する旨の許可が記されていたのだ。この書類がある以上、ポンザを除いた誰もがヴィキュニア製品を取り扱って商売をすることが出来ない。もちろん、ハイラントを捕まえることもだ。  これにより、デックの店では全ての商品を販売する事が出来なくなってしまった。あまりに突然の宣告に、デックはポンザに何度も抗議したが、ポンザは売り上げの70%を支払わない限り許可を出さないと突っぱねたようだ。しかし、当然ながら70%ものロイヤルティを支払っては生活など立ち行かない。そんな事があって、店をたたもうとした所へジャンヌ達が通りがかり、昼間のやり取りへと繋がったのだった。「――ってわけ、それでどうにか出来ないかと思ったのよ」   「なるほどな。しかし、相手にその書面がある以上、正当性はあちらにあるからどうする事も出来ない、という訳か」「そうなんだけど……私、どうも納得いかないのよね」   「どういうことだ?」「だって、そうでしょう?それまで皆のものとして分け合ってきたものを、ある日突然個人が独占して管理するなんておかしいじゃない。何か裏があるに決まってるわよ!」「……まぁ、確かにな」 ソロ
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加護の発露

「あ、アーデ……!ちょっとソロ、どういうこと!?アーデが怪我を!」 フラフラと飛びながら戻って来たアーデの身体には、ナイフによる傷跡が複数残っていた。純白の毛皮は所々が血で赤く汚れていて、非常に痛々しい。これまで、一度たりともアーデがダメージを負った姿など見たことがないジャンヌは、あまりのショックでソロに噛みついている。ソロもまた、唇の端を噛み締めながらジャンヌに応えた。「落ち着け、ジャンヌ。大丈夫だ。魔力を供給しているから、もう傷口は塞がっている。俺の傍にいて少し休めば……」「わ、解ったわよ……けど、一体何があったの?」 ジャンヌがそう尋ねると、ソロは弱ったアーデを優しく抱きかかえて答えた。「あのポンザという男の屋敷に、様子を見に行かせたんだ。何か、秘密があるんじゃないかと思ってな。そうして、窓から屋敷の中を確認していたら突然……」「そんな……ごめん。私達の為に」「別にそれはいい、気にするな。だが、あの男には間違いなく何かあるぞ。アーデの闇を抜けて攻撃出来るなんて、たかが商人が雇うレベルの護衛じゃない。それに奴が崇めていた、あのオブジェ……あれは一体」「オブジェ?」 アーデが見たものを見ていないジャンヌには、ソロが何を言っているのか解らないようだ。ソロ自身、あれが何だったのかは断言が出来ないため、ひとまずその説明を避けて話を続けることにした。事実として、ポンザに強力な護衛がついているのは間違いなく、敵はそれほどの護衛を必要とする状況にあるのは間違いない。その理由が何なのか、ソロには一つ思い当たる答えがあった。「アーデを通して聞こえた奴の言葉からすると、奴は自らの加護を使って何か良からぬことをしているようだ。デックさんの名も呟いていたし、件の書面に関係があるのかもしれない」「ちょ、ちょっと待ってよ……それって」「ああ、この推測が正しいなら、奴が過剰とも言える護衛を雇っている理由も納得がいく。しかしこれは、ハッキリ言って……」 ソロとジャンヌが言葉を濁したのは、それが重大犯罪に繋がる可能性があるからだ。特にここ、バスカヴィル王国においては、加護を悪用して違法
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因縁の足音

 精霊樹のブレスレットから生まれた種子は、とにかく途轍もない代物であった。 種そのものから滔々と魔力が溢れ出し、一目見ただけでそれが尋常のものではないと察したジャンヌ達は、すぐにデックの店を出て近くの森へと飛び込んだ。そして、適当な場所にその種を植えたところ、種はあっという間に芽を出し、立ちどころに周辺の草木を巻き込んでノーツの群生へと生え変わったのだ。これにはジャンヌもデックも、ジーナまでもが驚き、開いた口が塞がらなかった。 しかも、そのノーツの群生は、一定の範囲に生え変わった後は広がるのを自動的に止めた。その代わりというべきか、いくらノーツの草花を摘んでも、即座に再生して元の群生に戻ってしまう。はっきり言って、異常としか言えない有り様だ。 これが精霊の力によるものなのかとジャンヌは腹の中で唸ってしまったが、この状態が続くのならデックの危機的状況は一気に改善されることだろう。ノーツがいくら収穫しても尽きないのならば、デックの祖父が作っていたノーツ生地の服を作る事も容易いはずだ。ちなみに、ノーツはまさに麻と綿双方のいいとこどりをしたような植物で、綿のように花からも糸が作れるし、麻のように茎からも糸が作れるようだ。  その元によってそれぞれ出来る糸に個性があって、それら二つを掛け合わせて布を作れば、ヴィキュニア以上に優れた布を作る事が出来るという。これで後は、デックのテーラーとしての腕さえあれば、商売は成り立つことだろう。「ありがとう、ありがとう!何と礼を言ったらいいのか……!お嬢ちゃん、あんた、素晴らしい加護を持ってるな。植物を育てる加護なのか!?」「い、いや、私の力じゃ……」 デックに両手を握られ、感謝の言葉を繰り返されたジーナはとても照れ臭そうだが、その顔には大輪の花のような笑みが浮かんでいる。父の姿を重ねたデックの力になれたことで、彼女の心にあった後悔が少し薄れたのだろう。その笑顔こそ、ジャンヌが何よりも欲しかったものだ。  とはいえ、加護ではなく精霊樹の力によるものだと説明した所でデックが理解できるかは謎だし、仮に精霊樹の力だと明かすとなると、幽霊らしきジンロ爺さんと出会った時の話までする事になる。ジャンヌにしてみればあの村での出来事は色
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銀の襲撃者

「それじゃ、私達はこれで。デックさん、頑張ってね。行きましょ、ジーナ」 一頻りの歓待を受けたジャンヌは、段々と困り顔になり始めたジーナを促して店の外へ出た。それだけ追い詰められていたということなのだろう、デックの感謝感激っぷりはとどまる事を知らず、あのまま放っておくと陽が落ちて夜が明けても帰らせてくれないかもしれない。流石にそれでは困るので、夜になる前に宿へ帰らなければならないと考えたのだ。「二人共、旅を終えたらまたいつでも家へ来てくれ。その時は商売も軌道に乗せて、もっともっと礼をするからな!待ってるぞ!」「あ、あはは。ありがとうございます、デックさんもお身体に気を付けて下さいね」 ジーナが丁寧に頭を下げてジャンヌの後に続き店の外へ出ると、辺りは既に暗くなり始めていた。散々、色々なものをご馳走になったので、戻っても夕飯は食べられないかもしれないが、ソロと合流して話の顛末を聞かせる必要はあるだろう。どう考えても、このままポンザが引き下がるとは思えないからだ。「街を出る前に、ポンザのことをソロと相談しないと……ん?」 デックの店を出てすぐに、ジャンヌは違和感を覚えていた。周囲が暗いのは陽が落ちたせいかと思っていたが、あまりにも人の気配が無さすぎるし、静かすぎる。デックの店の前は元々人の往来がそこそこある通りだったはずで、夜でもここまで静かなのは異常だ。まるで、二人のいる場所だけ切り取られたかのようだった。「ジャンヌさん、これ……」「嫌な予感がするわね。ジーナ、気を付けて。私から離れちゃダメよ」 ジャンヌ達と行動を共にするうちに何度も危険を乗り越えてきたジーナも、今の状況が異常だと気付いたらしい。ジャンヌの指示を受けて、即座に彼女へ寄り添い、緊張した面持ちで前を向く。その直後、ジャンヌの正面から何かが飛来した。「っと!……これ、ナイフ?」 飛んできたのは鋭く研ぎ澄まされた数本のナイフだった。ジャンヌはそれらをハバキリで斬り払い、地面へ落ちたナイフに首をかしげている。昨夜、ポンザの屋敷を偵察していたアーデに手傷を負わせたという相手も、ナイフを使っていたのではなかったか?だとすると、これはポンザが
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駆け抜ける嵐

「ゲホッ……グッ、ゲハ……ぁ、ぅぅ」 血反吐の混じった呼吸が落ち着いて行く度に、ジャンヌの視線がハッキリと、強く鋭くなっていく。本来であれば即死しているであろうダメージを負っているはずのジャンヌが生きていて、しかも、これほどの殺気と威迫を見せている事に、レイモンドは気圧され冷や汗を垂らしていた。 (どういうことだ?!何らかの加護の影響か?しかし、俺がジャンゴ様やアメーリア様から聞いていたのは、コイツが魔法も使えず、加護すら持っていない無能だという話だったはずだ……コイツが加護を持っていたなど聞いたこともないぞ!?) レイモンドが狼狽えるのも無理はない。そもそも、ジャンヌの両親であるジャンゴとアメーリアも、ジャンヌが持つ能力については何も知らなかったのだ。加護とは、人が生まれつきに持つ才能である場合と、後天的に才能として目覚める場合の二種類がある。ジャンヌの加護である大逆転は、その後者だった。 ジャンヌは、生れ落ちたその時から大逆転を持っていた訳ではない。彼女が大逆転を目覚めさせたのは、飼育小屋に入れられるより少し前、三歳になるかならないか頃の事である。ジャンヌが産まれてからというもの、両親は互いに罵り合わぬ日など無い程に喧嘩が絶えない生活をしており、当然ながらジャンヌもろくに目をかけられた事など無かった。そんな時、ジャンヌはある流行り病に罹ってしまった。 それは所謂、|は《・》|し《・》|か《・》のようなもので、この|星《せかい》に生きるものならば誰もが当たり前に経験するありふれた病気だ。本来であれば、魔法によって適切な処置をすれば何ら問題なく耐えきることが出来るのだが、既に両親から忌み子として扱われていたジャンヌは、そうした処置を受ける事が出来なかった。  誰もが罹るありふれた病といえど、対処を誤ればそれは致命傷となりうる病気である。その為、ジャンヌは一人、ベッドの中で苦痛に悶えながら己の力のみでその病に対抗しなければならなかった。そんな中で、命の危機に瀕したジャンヌは、大逆転という加護を目覚めさせたのだ。 エンデュミオン皇国の貴族達は、子供が産まれると加護の有無を調べるのが一般的だが、後天的に加護を得たかどうかまでを調べるかはその家によって様々だ。ジャ
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ハバキリの真実

 戦いを終え、宿に戻ってきたジャンヌの表情は暗く沈んでいた。正直に言って、レイモンドは相当な強敵であった。突発的な出会いからの戦闘だったゆえに、互いに準備不足であった点は否めないとしても、ここで勝ちきれなかったことは後々に大きく響きそうな気がしてならない。 ジャンヌは見切ったように言ってみせたが、彼の使う|二つの影《ドゥアエ・ウムブラ》は、上手く扱えばまだまだ十分脅威になり得るものだし、何よりも厄介なことにジャンヌの超再生回復力を敵に知られてしまったのだ。流石にそこから大逆転の詳細までは推測できないだろうが、次に戦う時には、もうそれが原因で彼らが虚を衝かれる事はないだろう。その上、銀の騎士という因縁を断ち切れなかったことは、ジャンヌの精神的にもマイナスであった。 (結局、私はまだあの家から逃れられないってこと……?ううん、そんな事ないはず。私はもう、れっきとした一人の人間よ……!) ジャンヌは自分を奮い立たせるように心の中で呟いた。だが、彼女がパルテレミー家への、或いは幼い頃に得られなかった両親からの愛情を諦めきれていないのは、未だパルテレミーの名を名乗っている事からも明らかだ。皇国を出てしまえば、パルテレミーの名を使っても問題はないと思い込んでいたが、それは彼女の心の飢えがそうさせたのだと言ってよい。なんだかんだと言っても、ジャンヌはまだ二十歳で、心の傷を癒しきるには時間が足りていないのである。   「そうか……そんな事があったのか。すまなかったな、ジーナ。君が無事だっただけでも朗報だよ」 宿の部屋で、一人ベッドに横たわってしまったジャンヌを置いて、ジーナはソロに事の次第を話していた。ジーナにとっては、レイモンドが名乗った銀の騎士がどれほどの意味合いと重さを持つのか、まだはっきりとは解っていない。だが、憔悴したジャンヌの様子を見ていれば、それが彼女の心に深い影を落とす程の問題なのだという事は解るつもりだ。いくら精霊の力を借りられても、ジャンヌの辛さを癒すことは出来ないのだと思い知らされるようで、ジーナは胸を痛めている。「ジャンヌさん、すごく辛そうで……私、どうしたらいいんでしょう?何かジャンヌさんの力になれること、ないのかなって」「気にするな。
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真の使い手

「私達の身体を、取り込む……?奪う、って、まさか」 ハバキリの言葉を聞いたジーナとソロは呆然とし、ジャンヌは少しかすれた声でハバキリに問うた。どうやら、創星者という存在は、人道的とは言えない思想を持っているらしい。ハバキリはその問いに、たっぷりの間隔を開けて答えた。 ――………………そうよ。エクソダスは、一定水準に達した力を持つ生命が生まれた時、それが自分に従うかどうかを危惧していた。なまじ相手が力を持つ存在なだけに、言う事を聞かなければかえって危ないし、意味がないものね。だからこそ、私とムラクモを用意したの。自由に動く身体を持たぬ被造物としての私達は、創星者に逆らう事は出来ないだろうと言われてね。「そんな、そんなことって……」 ――実際、私とムラクモは長い長い時間の中で、多くの人間達を使い手として選び、時に彼らを育て導きながら戦ってきたわ。全ては、創星者の望んだ生命を完成させる為に。 これまで、ジャンヌは武器が生きて意志を持っていることの意味が理解出来なかったが、ここまでの話を聞いて、その理由をようやく知る事が出来た。確かにハバキリの言う通り、自由意志を持つ生命を従わせるのは難しい事だ。例えそのエクソダスという神にも似た力を持つ男がいたとして、ジャンヌは大人しく彼に従うだろうか?答えはノーだ。何故力ある生命を欲しがっているのか、それは事情を聞けば解らないことだが、どうにもエクソダスは信頼できる存在とは言えないフシがある。    いくらこの|星《せかい》が彼の作ったものだとしても、ジャンヌははいそうですかと彼を受け入れる事は出来ないだろう。大体、説得しようという考えもなく、身体を奪ってしまえとはあんまりな言い種だ。その一点だけ見ても、エクソダスには何かやましいことでもあるような、信じていい相手だとは言えない気がした。  するとその時、ソロが僅かに息を飲みながらハバキリに問いかけた。   「……一つ聞かせてくれ。君達はこれまでに何人の人間を、そのエクソダスに捧げてきたんだ?」    ――ゼロよ。「は?」 ――だから、ゼロよ。一人もいないわ、私もムラクモも、エクソダスが定めた力の持ち主
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思い出の庭

 ざわざわと響く喧騒と人混みの多さが、街の大きさを物語っている。ここはトルキアという、バスカヴィル王国の中でも比較的大きな都市の一つだ。 トルキアはフォラファ山脈の西側にあり、これまで旅をしてきたルドマン領とは別の領主が治める土地である。この街はリゾート地として栄えていて、以前訪れたジュラに負けずとも劣らない人気の旅行先である。「うわぁ、凄くたくさんの人がいますね!……でも、なんだか不思議な匂いがします」「ふふん、トルキアは昔から香辛料が多く採れる土地柄だからな。スパイスを多く使った料理が盛んなのだよ!そして、このニオイは……|カーリャ《カレー》だな!」「カーリャって、たまに違う街でも見かける茶色いスープみたいなやつよね?こんなに凄い匂いしてたっけ」「スパイスの使い方が違うんだろう……うっ、俺は少し苦手な匂いだ」 興味津々なジーナと自慢げに語るシーザーの二人とは対照的に、ジャンヌとソロは怪訝な顔をしている。というより、ソロは明らかにげんなりした様子だ。どうも、エンデュミオン皇国出身の二人にはカーリャが合わないようである。 ソワレを出発して早くも二ヵ月以上が経ち、一行は無事トルキアまでやってきた。レガリアへ到着するのはまだまだ先だが、途中でシーザーが歩きたくないからと言い、長距離移動の馬車を無理矢理に用意してくれたおかげで、かなり速い旅路である。このペースでいけば、あと半年もすればレガリアに到着出来るだろう。とはいえ、このまますんなりいくとは思えないのだが。 ちなみに、ポンザはジャンヌがレイモンド達を退けた翌日、路地裏で大怪我をして倒れている所を通行人に発見された。どうやら、レイモンドに裏切られて斬られたようだが、奇跡的に命を取り留めて入院中のようだ。彼は自らの加護を使って叔父であるルドマンの印を複製して悪用しており、治療が終わり次第裁判にかけられて罪を問われることとなる。加護を悪用した犯罪は通常よりも罪が重くなる為、彼の将来は暗いだろう。 適当に興味のある食べ物を食べ歩きしつつ繁華街を抜けると、住宅地に出た。泊まる予定の宿は街の中心部から少し離れた場所にあり、その分安く泊まれるのだが、物を買って宿で食べるという行為には
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