All Chapters of 光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~: Chapter 51 - Chapter 60

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伯爵の誘い

 夜半に起きたボワ湖での騒動は、少し離れたティグからも確認出来ていたらしい。翌日、ジャンヌ達がティグに辿り着き、街の衛士達にその話をすると、呆れたような感心したような、何とも微妙な表情が返ってきた。 あの巨大魚は通称、|ディアボリケ・ボワ《ボワ湖の悪魔》と呼ばれ、古くから恐れられていた怪魚だったらしい。何でも、月に数回、ああして湖面に浮かび上がってきては津波を引き起こし、木々や近くにいる生物を湖に引き込んで食べてしまう雑食の魚だったそうだ。ジャンヌの推察通り、昔は湖の近くに街があったのを引き上げざるを得なかったのは、ディアボリケ・ボワのせいであった。  ただ、あれほどの巨体を月に数回程度の食事で賄えるのか?とジャンヌが疑問を口にすると、ソロは、ボワ湖の底ではカジュミーラ山だけでなく他の水源とも繋がっているのだろうと答えた。つまり、ディアボリケ・ボワはフォラファ山脈全体の水源を根城とする怪魚だったということだ。恐らく、ボワ湖以外にも餌場があって、そちらでも捕食を繰り返していたのだろう。フォラファ山脈は険しい山々なので、人に見つからない餌場があっても何らおかしくはない。    ディアボリケ・ボワがいなくなり、今後の生態系にどんな影響が出るかは未知数だが、ティグの人達の反応は概ね好印象なようだ。何でも、あのディアボリケ・ボワがいつ現れるか不明だった為に今までは湖を漁場として扱うことが出来なかった上、ジュラとの往来も制限を懸けざるをえなかったという。別ルートからの移動は問題なかったが、ティグからジュラまで行くには街道を使うしかない。しかし、もし夜にディアボリケ・ボワと出くわせば大変な被害が出るだろう。それを警戒して、豊富な魚資源があっても漁場としても使えず、また公共の馬車などが少なかったのだ。  様子を見ながらという事にはなるが、今よりも往来がしやすくなり、さらにたくさんの魚が獲れればジュラやティグはますます観光客で賑わうことだろう。二つの街がよりよく発展する未来に繋がればいいなと、ジャンヌは思った。   ティグは、ボワ湖から2キロほど離れた場所に作られた都市である。ジュラ同様、各地から観光客を誘致して栄える街なのは、この辺を治める領主であるルド
last updateLast Updated : 2026-04-16
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強襲!レッド・オーガ

 ゴーシュの顔パスでホテル内に入ると、中は思わず溜め息が漏れる程の高級感漂う空間だった。この国では最新設備であろう魔力灯を惜しみなく使い、随所に散りばめられた、いくつもの宝石達がその輝きを引き立てている。その上、待合のテーブルやチェックインカウンターは言うに及ばず、筆記台のような家具であっても一流の木材や石材が使われている。流石としか言いようのない完璧な内装だ。「うわ……見てよ、ソロ、ジーナ。あの入口の扉、|ギィス《ガラス》じゃないわ、薄く加工した一枚の紫水晶よ。凄すぎない?それが何枚も……あれ一つ作るのに、一体いくらかかってるんだろ」「王家御用達の一流ホテルだからな。それに、最近では他国の貴族達もこの街のカジノに足を運んでくるらしい。内装だって半端じゃ済ませられないんだろう」「…………なんか、急に恥ずかしくなってきたわ。着替えさせてくれないかしら?領主様に会うのに、ドレスコードとかあるでしょ。ねぇ、ジーナ、私変じゃない?」「大丈夫ですよ、ジャンヌさんはいつも綺麗で格好いいです!」   「そもそも、君はドレスなんかもってないだろ。いいから、堂々としてろ。俺達は賞金稼ぎだ、いつどこでだって|こ《・》|ん《・》|な《・》|も《・》|の《・》|さ《・》」 恥ずかしさで顔を赤くしているジャンヌに、ソロはそう耳打ちして笑顔を向けた。普通の女性なら彼の表情にドギマギする所だが、ジャンヌは不満そうに睨むだけだ。そうこうしている内に、ジャンヌ達は豪華な部屋に辿り着いた。 部屋の中に入ると、そこはここまでに通って来たホテルの内装とはまた一風変わった一室だった。ロビーや廊下は高級感と上品さを合わせた空間だったのに対し、金と銀を多用して作られた部屋の中は主張が強く、悪趣味としか言いようのないものだ。  ジャンヌ達は何とも言えない表情をしながら、部屋の奥へと進む。そこには、恰幅がよく、やや過剰とも言える貴金属を身に着けたいかにも貴族といった風貌の男性がいて、ジャンヌ達の訪問を心待ちにしていたようだ。   「おお!ようこそおいで下さいました、バーソロミュー・サマーヘイズ様。それに、相棒のジャンヌ・パルテレミー様ですな。ええと、そちらのお嬢さん
last updateLast Updated : 2026-04-17
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攫われたジーナ

「ああ!ああ……何という事だ。街が、どうして……!?」 ソロの隣で、腰を抜かして四つん這いになったままのルドマンが呆然と呟いている。ここから見渡す限り、街の数か所が何らかの爆破によって火事が発生しているらしい。逃げ惑う人々の声と怒号が響き、まるで地獄のような光景が広がっていた。ソロは息を飲んでその光景を見下ろしていた。 (バカな。これも|赤鬼《レッド・オーガ》の仕業なのか?だが、何故だ。カジノが狙いなら、こんな事をすれば警戒を強められるだけのはず。何故こんな事をする必要があるんだ。カジノを狙うだけじゃなく、奴にはまだ他に狙いがあるのか?) ソロはそんな疑問を浮かべながら、同時に街の被害を観察して、火勢の強い場所を優先してその上空にいくつもの水魔法を展開した。まずは火事を鎮火させ、市民を救うのが先決である。一刻も早い対処をしなければ被害者が増える一方だ。そんなソロの消火活動は的確で、見える範囲にある火事がどんどんと消えていく。その様子に、ルドマン伯爵は感嘆の声を上げながら喜びに震えているようだ。「な、なんてことを……!|赤鬼《レッド・オーガ》……許せないっ!」 その背後で、ジャンヌは被害を目の当たりにして怒りに打ち震えていた。仕事を引き受けるかどうかはソロの判断だが、この状況を見て黙っていられるほど、ジャンヌはお人好しではない。既に彼女の中で、|赤鬼《レッド・オーガ》を捨て置く事は出来ないと心に決めているようだ。ソロが仕事を引き受けないと言おうものなら、独りででも|赤鬼《レッド・オーガ》を討伐に行ってしまいそうな勢いである。「すごい……どんどん火が消えてく!」 そんなジャンヌの隣で、ジーナはソロの手際に圧倒され、ただただ目を輝かせていた。これほどの被害を前にしての反応にしてはよろしくないことだろうが、それほどにソロの魔法による放水は見事で、芸術的に思えるほどの魔法捌きだった。そして、これほどの爆発が一度に起こったにしてはあまりにも速く街を焼く炎は消え、被害は最小限に押し止められたのだった。   「いやぁ、流石ですなぁ、感服致しました!まさに天才の名に相応しい活躍で。あなたならば、必ずや|赤鬼《レッド・オーガ》を打ち倒
last updateLast Updated : 2026-04-18
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暁の出撃

 ジャンヌが部屋に戻った時、既にジーナの姿はなかった。ジャンヌは眠らされたアーデを見て、何があったのかをすぐに察し、部屋を飛び出して隣り合ったソロの部屋の扉を強く叩く。「ソロ!ソロッ!お願い、出てきて!早く!」「なんだ、ジャンヌ、話ならもう少し待ってくれと……」「違うの!ジーナが、ジーナがどこにもいないのよ!」「なに?どういう事だ?アーデは…………眠らされている?!」 その時になって、ソロはようやく異常な事態が起こっている事に気付いたようだ。いかにアーデとソロが繋がっていると言っても、ただ眠らされただけではソロが気付くのは難しい。殴られたり蹴られたりだとか、或いはジーナやジャンヌが呼び掛ければ別だが、それでもアーデ自身の意識がなければ気付くのは不可能だ。敵はアーデがソロの使い魔であることを正確に見抜き、傷つけるのではなく眠らせる事を選択した。それはかなり狡猾で、極めてうまい一手だった。 ソロはジャンヌ達の部屋へ行き、眠らされたアーデと部屋の様子を確認してジャンヌに問うた。「どういう事なんだ?ジャンヌ。君はジーナと一緒にいたんじゃなかったのか?」「私もむしゃくしゃしてて、少し散歩に出てたのよ。そうしたら、街の衛士に襲われて……嫌な予感がして戻ってきたら、もうこの状態だったの!もう、何がなんだかサッパリ解らないわ。敵は|赤鬼《レッド・オーガ》じゃなかったの?!どうして衛士が襲ってくるのよ!」「君を襲ってきた?衛士が?………………まさか、いや、しかし」 ジャンヌの話を聞いたソロは、小さく何かを呟いて押し黙ってしまった。さっきから、よほど何か考える事があるらしい。しかし、ジーナがいなくなってしまった今となっては悠長に考えている暇はないのだ。ジャンヌが再び声を荒げて不満を口にしようとしたその時、二人の前にある人物が現れた。「バーソロミュー様、ジャンヌ様、こんな所で何かございましたか?」「あ、ゴーシュさん。えっと、実は……っ」 事情を説明しようとしたジャンヌを、ソロは黙って制止しアイコンタクトをした。自分が話すから黙っていろと言いたいらしい。こういう時、普段ならアーデ
last updateLast Updated : 2026-04-19
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策謀と鬼の影

 ジャンヌはスタスタと軽い足取りでダイロス砦へと突き進んでいく。ソロの見立て通り、砦の中からは薄っすらと煙が上がっていて、誰かが中で火を焚いているのは間違いない。人間がそこにいる以上、調理や暖を取るのに火は不可欠だ。人数が多いのなら尚更である。そして、わざわざこんな放棄された砦に住むのは、|Neck《賞金首》のような脛に傷を持つ人間くらいのものだろう。ならば、押し入っても問題はないとジャンヌは考えていた。「ん?おい、誰か来るぞ」「あれは……女だ。手に持っているのは、刀か?こんな所に、なんで」 見張りの男二人がジャンヌに気付いたが、彼らはまだ安穏とした様子で不思議そうにジャンヌを見つめているばかりだった。これが屈強な男であったなら、警戒して他の人間に報せるはずだが、武器を持っていてもジャンヌはぱっと見にはただの女性である。まだ日も昇って間もない時間に仲間を起こして警戒するほどの相手には思えなかったようだ。 そうして、すんなりと門の前まで辿り着いたジャンヌは、おもむろにハバキリを振るって、大きな鋼鉄の扉を切り裂いた。いくら錆が浮いた古い扉でも、鋼鉄は鋼鉄である。そう簡単に斬れるなどあり得ないと高を括っていた見張り達は何が起きたのかも解らずに、ただ大きく口を開けて驚きの表情を浮かべるばかりであった。  呆気なくバラバラに斬られた扉の残骸が轟音を立てて崩れていく。その時になってようやく、男達は異常な事が起きたと知り、大声を上げた。   「なっ、何をしやがる!?」「あら、起きてたの?見張りの癖に何も言わないでいるから、てっきりサボってうたた寝してるのかと思ったわ。それで確認なんだけど、あんた達は|赤鬼《レッド・オーガ》の仲間って事でいいのかしら?」「はぁ!?ぼ、ボスに何の用だ!このアマ!」「朝っぱらからうるっさいわねぇ……!こっちは機嫌が悪いんだから静かに喋りなさいよ。まぁいいわ、今ので聞きたい事は全部解ったから。手加減なんかしなくていいってことね。ハバキリ、悪いけど相手の事を気遣ってる余裕はないわ。あなたも手加減しなくていいからね」 ――解ってる。思いっきりやるといいわ、ジャンヌ。 ハバキリはそう
last updateLast Updated : 2026-04-20
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真紅の鬼

 ジーナに意識が向いていたせいか、或いはソロがジャンヌほど気配を読む事に長けていないせいか、既にその男はソロにすぐ手が届く場所まで接近していた。これほどの殺気を放てる人物なのだ、それをギリギリまで隠すこともお手の物なのだろう。それでも、ソロは突如感じたその圧に舌打ちしつつ、素早く振り返った。「ゴーシュ!?ただの執事や召使いではないと思っていたが、その姿……まさか、あんたが|赤鬼《レッド・オーガ》だったとはな。大したなりきりっぷりだ、|Neck《賞金首》として生きるより、|召使い《そっち》の方が向いているんじゃないか?」「フフフ、それは買い被りというものでしょう。あなたが初めから私のことを疑っていたのは解っていましたよ。しかし、わざわざ一人で残ってここを調べに来るとはね。もし、あそこに本物の|赤鬼《レッド・オーガ》がいたらどうするつもりだったのです?大事な相棒を死地へ送る事になっていたかもしれませんよ」「生憎と、例え本物の|赤鬼《レッド・オーガ》が相手でも、俺の相棒は簡単にやられるほど柔じゃない。むしろ、あっちに本物がいた時の事を考えて行かせたのさ。こんなすぐ傍に鬼が潜んでいるとは思いもしなかったんでね」「ほう?では、彼女の方があなたよりも実力は上だとでも?ククク、面白い冗談ですな」「今の内に笑っておくがいいさ。それより、どうやって俺の|人払いの魔法《ソリトゥード》を見破った?こうして喋っていても、あっちにいるルドマン達は気付いてもいないというのに」 ソロがそう言うと、ゴーシュはちらりとルドマン達に視線を向け、鼻で笑った。その表情は、人の好さそうな執事だった時のものとは明らかに違う、嘲笑と侮蔑を含んだ冷たいものだ。「さて、あんな無能共と一緒にされては困りますな。半年前、手土産ついでにこの街のカジノでも喰らってやろうかと中へ入り込んでみれば、奴らは分不相応な手柄を目当てに|赤鬼《レッド・オーガ》討伐などという愚策を謀っている始末……これは面白いことになりそうだと様子を見ていれば、策というのは他でもない。ただ腕利きのMIRAをぶつけようというだけの浅知恵だ」 ゴーシュはそう言うと、深く息を吐いてみせた。ルドマン達も、まさか|赤鬼《レッド・オ
last updateLast Updated : 2026-04-21
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最悪の加勢

 (さっきの攻撃、全く見る事が出来なかった……正直、信じられないスピードだ。いつだったか、ギリアムが本気で戦っているのを見たがアイツに匹敵するかもしれない) ソロは冷静にゴーシュの動きを分析していた。だが、それは決して余裕があるからやっているのではない。限られた状況の中で勝利をもぎ取る為に、必要だからそれをしているだけのことだ。まず彼我の戦力差をしっかりと見極め、今の自分が出来得る中でゴーシュを上回れる部分はどこなのか?そこを見つけだそうとしている。迂遠と取られるかもしれない行いだが、それがソロの戦い方である。「ふん、負けを認めるつもりはないか。頭でっかちの魔法使いとは違うようだな。……では、次はこちらから行くぞっ!」    (来るっ?!) ゴーシュはその宣言通り、高速のフットワークを用いて真正面からソロに向かってきた。一般的な魔法使いは、頭がよく、また戦いにおいても冷静な計算が出来る為に、ある程度の実力の差を見せつけられると勝負を放棄しがちな傾向にある。ゴーシュの言う頭でっかちの魔法使いとは、根性無しという意味合いが強いのだろう。だが、ソロはそう簡単に戦いを投げだすような性格ではなかった。 さきほどのパンチとは違って、目に見えないほどの速さではないが、逆にその大きな身体全体が迫って来るのが見えるのは、恐怖でしかない。キュッキュッという少ない足音が聞こえたかと思うと、既にゴーシュはソロの懐へと入り込んでいた。「は、はやっ?!……ぐ、あぁっ!」 強烈な拳が三発、ソロの腹と胸、さらに顔面へ襲い掛かる。ソロは成す術もなくそのコンビネーションパンチを受けるしかないと思われたが、命中したのは腹と胸への二発だけで、身体を折り曲げながらも、顔面へのフックだけはどうにか回避してみせた。そして、攻撃を放って動きの止まったゴーシュに、ソロは槍杖で斬りかかった。しかし、槍杖はリーチが長い分、懐に入られると扱い難くなるという欠点がある。ましてや、ソロは攻撃を受けて体勢が大きく崩れているのだ。そんな状況では攻撃が当たるはずもなく、ソロの攻撃はゴーシュの執事服を少し切っただけで終わり、避けられてしまった。   「く、くそ、浅かったか……!」
last updateLast Updated : 2026-04-22
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妖精の助力

 ゴーシュの一撃は、完璧なまでにソロの身体を貫いていた。大量の血が腹から吹き出し、その勢いのまま、ソロは壁際まで吹き飛ばされる。それが致命傷であることは誰の目にも明らかで、目の当たりにしたロディックもハインツも彼が助からないであろうと思ったようだ。「…………」 一方、それをなしたゴーシュ本人は、返り血でより赤く染まった手甲を見つめ、やがて眉をひそめた。 (ヤツは今、間違いなく勝負を賭けた何かをする寸前だった。だが、それを踏み止まったのは……!) ギロリと音が聞こえる様な鋭い視線で、ゴーシュがロディックを睨みつけている。ソロが何をしようとしていたかまでは解らないものの、ロディックの存在がそれをさせなかったことは推し量る事が出来た。せっかくの勝負を楽しんでいた所に水を差されたことで、ゴーシュは激しい怒りを露わにしていた。そしてそれは、激しいプレッシャーとなって、魔力と共に放たれた。「貴様……よくも下らぬ邪魔をしてくれたな!」「ひっ!?あじゃ、あばばびゃびゃっ!!?」 声にならない悲鳴を上げ、腰を抜かしてへたり込んだロディックが泣きながら逃げようと這っている。ゴーシュという男は、敵の攻撃を受け止め、或いはそれを上回って打ち克つことで、その相手より自らが上であると証明しようとするタイプの人間だ。武人気質というべきか、はたまた自らを強者としてアピールしたいのかは解らないが、それを邪魔された事は、敗北よりも許せないことである。ましてや、仲間ですらなく、もはやゴーシュにとっては敵である彼らが余計な事をしたが為に、ソロは攻撃を躊躇ってしまったのだ。その怒り足るや凄まじく、これほどプライドを傷つけられたのは初めてだった。 その怒りの波動は部屋全体に放出され、眠らされていたジーナの意識をも覚醒させた。先程、ソロの|人払いの魔法《ソリトゥード》を破った時と同じで、ゴーシュが怒りと共に魔力を放った事で、ジーナにかけられていた眠りの魔法も解除されたらしい。「う……うぅ。ん、ぁ…………んむぅっ!?」    猿ぐつわのせいで言葉にならないが、目を覚ましたジーナは縛られている自分の足元に倒れたソロの姿に気付き、声を上げた。既に、ジ
last updateLast Updated : 2026-04-23
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突然の訪問者

「そんなことがあったんだ。あ~もう!今回、私はイライラが溜まってばっかりだわ!あの砦にいた奴らは雑魚ばっかりだったし」 少しぬるめの|スー《紅茶》を口にしながら、ジャンヌは苛立ちを露わにしている。あの戦いの直後、ジーナと入れ替わるようにして目を覚ましたソロは、そこで何が起こったのかをロディックとハインツから聞き出したようだ。今はその顛末を、砦での戦いから戻り一息ついたジャンヌに聞かせているところだ。「まさか、精霊樹の枝に妖精達が宿っていたとはな。予想もつかないことだらけだが、今回ばかりは助かったよ。しかし、|赤鬼《レッド・オーガ》……ゴーシュか、あの男の強さは正直、桁外れだった。この数日は君も戦い詰めだったからな、出会っていたら、危なかったかもしれないぞ」 ソロも|ゴナ《コーヒー》を一口飲み、鳩尾辺りを摩った。あの瞬間、ゴーシュの一撃が腹を貫いた感触はハッキリと覚えている。大火力の魔法を使えず、アーデもいないあの状況で戦うには、ゴーシュは厳しすぎる相手だった。同じ条件でないならまだしも、もし仮に今もう一度戦って勝てるか?と問われれば、ソロは渋い顔をする他ないだろう。あれほどの敵を相手にするなら、ジャンヌと言えど万全の態勢でなければ苦戦を強いられるのは想像に難くない。その意味では、結果としてジャンヌを砦に送っておいたのは正解だったかもしれないとソロは思った。「どうかしら?負ける気なんてさらさらないけど。それより、あのロディックってヤツとハインツ皇子はどうしたの?」「王弟ロディックは重傷だそうだ。まぁ、|赤鬼《レッド・オーガ》の巻き添えを食った訳だから、名誉の負傷という形にしたいんだろう。ジーナの事は不問にすると言っていたよ。ルドマン伯爵と一緒に当分は入院生活になりそうだと、ホテルの支配人が言っていた。ハインツ皇子も入院するようだが、近い内にエンデュミオンから迎えが来るらしい。その前に、俺達は出発したい所だな」「それじゃ、ジーナの目が覚めたらすぐに出ましょ。いくら高級でも、このホテルにいるより野宿した方が遥かに気が楽よ。……なんだか最近、大変な事ばっかりなするもの」「そこは俺も同感だな。マーロが聞いたら、ここぞとばかりにこれでもかと開運のアイテムを売りつ
last updateLast Updated : 2026-04-24
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ジャンヌ・パルテレミー

 ジャンヌ・パルテレミー。年齢、二十歳。彼女は今から二十年程前、生まれ故郷のエンデュミオン皇国において、名門とされるパルテレミー伯爵家の令嬢として生を受けた。 彼女の父・ジャンゴは、若くして伯爵家を受け継ぎ、母であるアメーリアとは学園で運命的な出会いを果たし、大恋愛の末に結ばれたという。そんな二人はいつも仲睦まじく、互いに美しい銀髪をなびかせて歩く様は、国の誰もが羨んだと言われている。そう、濃い藍色の髪を持つ、ジャンヌが生まれるまでは。 パルテレミー家にとって、銀髪は特別な意味合いを持つ身体的特徴だ。そもそも、エンデュミオン皇国において銀色の髪を持つ人間は、パルテレミー家にしか存在しないとされる幻の髪色なのだ。それは、かつて救国の英雄として名を残した銀の魔女……パルテレミー家の祖先、ジェニファー・パルテレミーから受け継がれた特徴だった。 以前、サシャが読んでいた絵本『ぎんのきしとぎんのまじょ』は、ジェニファーをモデルにした物語であるという。あくまで絵本という形式にはなっているが、パルテレミー家に伝わる言い伝えとしては、その物語はほぼ実話である。世界を救う為に立ち上がった銀髪の魔女とその騎士こそが、パルテレミー家のはじまりだったのだ。  彼女達は艱難辛苦の末に、世界を滅ぼさんとする力を領内にある洞窟の奥深くへ封印したらしい。その力の詳細などは伝えられていないものの、絵本にあるように、相当過酷で大変な旅の果てだったと伝えられている。    そんな数百年以上もの間で受け継がれてきた確かなことは、パルテレミー家を継ぐ者は必ず銀髪であり、また銀髪の子供がパルテレミー家に産まれるとほぼ同時期に、エンデュミオン皇国内のどこかで銀髪の子供が産まれるという逸話だった。そして、その二人は絶対に出会い、恋に落ちるというのだ。それはジャンヌの父ジャンゴと母アメーリアもそうだったし、祖父母も、そのまた祖父母も同じで、連綿と一族に受け継がれてきた不思議な因縁である。 絵本では、銀の魔女と銀の騎士が生まれ変わり、共に生きるという結末で終わっているが、実際にはそんな事はないだろう。何故ならジャンヌの両親も、そして、そのまた両親も当然健在な内に、次代の嫡子は生まれるのだから。  そんな中で、
last updateLast Updated : 2026-04-25
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