All Chapters of 光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~: Chapter 21 - Chapter 30

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襲来、ガンディーノ一味

「よお、邪魔するぜぇ~!」 ズカズカと足音を踏み鳴らして入ってきた男達は、いずれも明らかに挑発的な態度を取っていた。彼らの姿を見た途端、客達は誰もが警戒感を露わにして、静かにその動向を見守っている。しかし、男達はそれを意に介さず、真っ直ぐにカウンターへと進んでいく。「い、いらっしゃいませ!お好きな席に……」「ウルセーぞ、ガキ。しっかし、テメーら、昼間っから酒盛りたぁずいぶんお楽しみじゃねぇか、なぁ?」 いかにも荒くれ者といった風体の男達の中で、リーダーと思しき男が怒鳴り声を上げ、嫌味ったらしく周囲の客達に言葉を投げ掛ける。怒鳴られたジーナは震えてしまっているし、客達も苛立ちを隠さずに男達を睨みつけているが、何故かそれ以上の荒事にはならなさそうだ。すると、様子を見ていた店主が静かに声を上げた。「おいトグサ、その辺にしとけ。コイツらはお前らが強いた無茶な深夜作業の為に一晩中働いて、ようやく一息吐いている所だ。お前達に文句を言われる筋合いはねぇ。それより、お前らの飲むような高級酒はここにはないぜ。客じゃないならとっとと帰れ」「おいおい、つれねぇこと言うんじゃねぇよ、ボッシュさんよぉ。お前の店には安酒しか置いてねぇことくらい解ってるが、そんなお前に良い話を持ってきてやったんだぜ?もっと喜べよ」「いらん。お前らの話なんぞ聞いてもろくなことが無いのは解り切っている」「へへっ、素直に聞いておいた方がいいと思うぜ。|か《・》|わ《・》|い《・》|い《・》|娘《・》|の《・》|為《・》|に《・》|も《・》、なぁ?」「……なんだと?」 冷静であろうとしていた店主のボッシュだったが、流石に娘を巻き込むような台詞を言われては無視する事は出来なかったようだ。ジャンヌ達の目から見ても、この男達は何をしでかすか解らないタイプだ。目的の為なら娘……つまり、ジーナに危害を加える事も平然と行うだろう。怒りを浮かべた視線で睨みつけるボッシュに対し、トグサという男は不必要なほどに顔を近づけて囁いた。「お前のこの店、俺達に売れや。今ならガンディーノさんが二割増しでイロ付けてくれるって言ってんだ。悪い話じゃねぇだろ?お前だって娘抱えたまま、こんな店続けた所で|将来《さき》はたかが知れてるはずだ。本業も上がったりだしな。それよりまとまった金を受け取って、王都へでも出て行きゃいい。そうすり
last updateLast Updated : 2026-03-31
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守るも攻めるも

 ボッシュの説明を聞き、トグサ達……いや、その上に立つガンディーノという男の暴君ぶりを理解したジャンヌは、この場にいる者達がどうしてこれほど熱狂しているのかがようやく理解できた。彼らにとってガンディーノは街の支配者であり、逆らえない相手なのだ。だが、ジャンヌ達は街の人間ではなく流れ者だ。そういうしがらみのない人間でなければ、ガンディーノ達に一矢報いる事は出来ないという事なのだろう。皆、胸がすく想いで浮かれるのも、当然である。 (ただ、こうなると奴らがどんな報復をしてくるやら……ジャンヌが手を出した以上、俺達も無関係とは言えないしな。少し、考えておく必要があるか) ソロは一人、冷静に自分達の置かれた状況とガンディーノ達の反撃に意識を向けていた。連中がただのチンピラでないのなら、間違いなく何らかの報復があるはずだ。かといって、先手を打って相手を叩く訳にもいかない。少なくとも話を聞く限り、敵はこの街のほとんどを牛耳る権力者だ。例え横暴であってもこの街における正当性は未だ彼らの方にある。真正面からぶつかれば、確実に立場が悪くなるのはこちらだろう。最悪の場合、こちらが罪人として|Neck《賞金首》にされる可能性すらあるのだ。そうならない為の策を考える必要があると、ソロは思っていた。    そんな中、ワイワイと騒ぐ客達を横目に、ボッシュはジャンヌとソロに向き合って、改めて頭を下げた。「ジャンヌさんとソロさんだったか、アンタ達はMIRAだって言ってたな?だったら、頼みがある。少しの間でいいから、娘を、ジーナの護衛をしてやってくれないか?」「護衛?ジーナちゃんの?」「ああ、脅し文句とはいえ、奴らはジーナに危害を加える様な口ぶりだった。実のところ、奴らが本気で仕掛けてきたら、とても俺だけじゃ娘を守れねぇ。しっかり金は払うし、この店の二階には空き部屋もあるからそこに泊ってくれてもいい、もちろん食事もだ。だから、頼む!」「それは願ってもない話だけど……ソロ?」「……ふむ」 ジャンヌとソロはコンビで活動するMIRAだ。正確に言えばそこに使い魔である梟のアーデを入れた二人と一羽のパーティなのだが、彼女達の間にはいくつかの決められたルールがある。その内の一つが、仕事を引き受けるかどうかを判断するのはソロの役目だ、ということだった。これはジャンヌの頭や判断力が悪いという訳で
last updateLast Updated : 2026-03-31
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スマートな解決

 明くる日の朝、カーテンの隙間から入って来る朝日が顔に当り、ジャンヌは目を覚ました。もぞもぞと身体を起こしてうんと背を伸ばしてみれば、固まっていた身体の筋も伸びて気持ちが良い。素肌に触れる空気は少し冷たいが、布団そのものは上等だったので眠っている間に寒さを感じることもなく、久々に良質な眠りから朝を迎え、爽快な目覚めだ。「んー……んん!はぁ、良く寝れたわ。温かいベッドで眠れて、ご飯もついてる。なんていい仕事なの。いつもこうならいいのに」 身体を伸ばした後ベッドから起き出して窓の前に立ってみる。本当ならカーテンを開けて全身に陽を浴びたい所なのだが、パジャマがなかった為に今のジャンヌは下着姿だ。流石にカーテンを全開にして露出する趣味はない。強いて言うなら少し熱めの風呂に入りたい所だが、ここは店舗兼住宅ということで風呂はないのだそうだ。その代わり、近くに鉱山労働者向けの共同浴場があって、この辺りに住んでいる人達はそこで風呂を済ますものらしい。または外縁部まで行けば、観光客向けの銭湯のようなものもあるという。しかし、護衛の仕事中に風呂へ入りに行くのも気が引ける。ジャンヌは仕方なく、後でソロにお湯を出してもらって我慢することにした。 溜め息交じりに袖を通していると、コンコンコンと小気味良いノックの音がした。続けて、明るい少女の声が聞こえた。「おはようございます、ジャンヌさん。起きてますか?」「あら、ジーナ?起きてるわ。入っても大丈夫よ」「はい、開けますね」 そう言うと、ジーナはするりと流れる様な動きでドアを開き、部屋に入って来た。その手には、見慣れない服が握られている。「おはよう、ジーナ。どうしたの?もうご飯の時間?」「おはようございます。ご飯ももうすぐなんですけど、ジャンヌさん、お着替えにこれはどうかなって。お母さんの服なんですけど、一度も着ていないものなので、もしよかったら」「ええ?!いいの?ありがとう!助かるわー。私達みたいな稼業だとどうしても服って消耗品になっちゃうから……あ、もちろん大事にはするけど。本当にいいの?」「はい、箪笥の肥やしになってるのももったいないので。見た感じ、ジャンヌさんならサイズは大丈夫じゃないかなって思います。体型的に、私には合わないので」    手渡されたのは柄の無いまっさらな白いシャツと、タイトなハイウェストのパン
last updateLast Updated : 2026-03-31
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ジーナの秘密

「え?ジーナと、隣村に?」「ああ、どうしても隣村の野菜で仕入れないといけないものがあるんだ。ジャンヌさん、ソロさん、悪いがあの子を頼む」 夜、驚いた顔でボッシュを見つめるジャンヌとソロに、ボッシュは深々と頭を下げた。ガンディーノ一味がトグサを送り込んできてから早くも12日が経過したが、相変わらず事態は特に動きを見せていない。それが特に意外だと感じたのはソロだった。トグサの背中に魔法の火で書いたメッセージは、ガンディーノの無能をこれでもかと煽る内容だったはずだ。ジャンヌ達の存在を知った翌日には引き抜こうとしたり、力技でボッシュの店を狙ったり、正直な所、ガンディーノはかなり直情傾向にあるタイプの人間だとソロは踏んでいた。なので、部下の仕事を失敗させた挙句、自らの無能を嘲笑うようなメッセージを読めば、ガンディーノは即座に報復行動へ出るだろうと見込んでいたのだ。 だが、蓋を開けてみれば12日も何ら音沙汰がない。思った以上にガンディーノは冷静な人物だったのかと、ソロは自分の見立てが間違ったことを不思議に感じていた。「そりゃあ必要ならついていくけれど……どうして隣村なの?いくら野菜の仕入れと言っても、今わざわざ隣村まで行かなくてもいいんじゃ?」「いや、うちの店で使うソースには、隣村のホガータ婆さんの育てるポンガが必要不可欠なんだ。護衛を頼んでいる時にあの子を出歩かせるなんて、アンタ達に迷惑をかけるのは百も承知だが……どうか、この通りだ!」「……」 ボッシュの真剣な態度には、流石のジャンヌとソロも顔を見合わせる事しか出来なかった。ここから目的の村までは、どんなに急いでも半日はかかる山道を通る他ない。旅に慣れているジャンヌやソロならば、ひとっ走りでもう少し早く行き帰りが可能だろうが、ジーナが一緒ではそうもいかない。彼女の足に合わせるというのなら、やはり半日以上の時間は見ておく必要があるだろう。 しかし、それだけの長時間、ジャンヌとソロの二人が同時に店を離れることになるのは、ガンディーノ達に襲撃する恰好の隙を与える事になる。それはどうしても、受け入れるには厳しい内容だ。「正直、ジーナを一人で出歩かせるのは危険だからな。仕入れが必要なら、確かに俺達がついていくべきだろう。だが、俺達二人がここから離れるのは不用心過ぎる。……ならば、こうしよう。俺達が朝出かけてから帰る
last updateLast Updated : 2026-03-31
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ボッシュの最期

 ――ジャンヌ達が異常に気付く、その少し前。ボッシュの店『|月の涙《ラクリマエ・ルーナエ》』の裏手で、ガンディーノ一味とボッシュが睨み合って対峙していた。ざっと20人はくだらない男達を従え、ガンディーノはニヤニヤと薄笑いを浮かべてボッシュを見下すような視線を向けている。対するボッシュは、その目に尋常ならざる決意の炎を宿しているようだった。  睨み合い、緊張した状態がしばらく続いた後、ガンディーノが勝ち誇るように口を開く。「よお、ボッシュ。まさか|テ《・》|メ《・》|ェ《・》|が《・》|自《・》|分《・》|か《・》|ら《・》|俺《・》|様《・》|を《・》|呼《・》|び《・》|出《・》|し《・》|て《・》|く《・》|る《・》たぁな。今更頭を下げて店を売ろうったって、もう遅ぇぞ」「ふん、お前の方はともかく、俺にはお前に頭を下げる理由などない。それに、お前は絶対に俺を無視できないと解っていたからな。俺とファリを賭けて争った時もそうだった」 その名を耳にしたガンディーノの顔が気色ばみ、怒りに歪む。ファリというのは、今は亡きボッシュの妻であり、ジーナの母親だ。何を隠そうこの二人とファリを含めた三人は、元々この街で産まれた幼馴染である。ボッシュとガンディーノは、子供の頃から悪戯好きの悪童だったのだが、事あるごとにそんな二人を諫めていたのがファリだった。不良といっても、かたや街長の息子と、鍛冶屋の息子だ。二人は生まれながらに差が付いていたのだが、そこにファリという存在が入ることで不思議とまとまっていたらしい。ボッシュとガンディーノにとって、ファリは太陽よりも二人を優しく照らす月そのものだったのだ。 そんなファリを、二人が取り合う形になったのは当然の結果だったのだろう。いつしかボッシュとガンディーノはファリを賭けて争い、勝利したのはボッシュの方だった。ガンディーノには、それも含めた複雑な思いがボッシュに対してあったのである。   「ふん!|街長《まちおさ》の息子であり、ゆくゆくはこの街の全てを手中に収めるこの俺を振って、お前を選んだファリは見る目がなかったな。あの時、俺を選んでいたなら、ファリは死なずに済んだだろう。お前とのくだらん家族ごっこに付き合ってさえいなければ!」「お前こそ何も解ってないな、|ガ《・》|ノ《・》。ファリが欲しかったのは、自分が生まれ育ったこの
last updateLast Updated : 2026-03-31
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彼らの領分

「ジーナの様子はどうだ?」「ダメね、ずっと泣き伏してる。……あんな場面を見ちゃったら仕方ないけど」 ジーナの様子を見てきたジャンヌが答えると、ソロは静かに目を閉じて唇を噛んだ。ジャンヌ達が街に戻った時、既にボッシュは凶刃に倒れた後であった。全身に深い傷を負い、どうみてもボッシュは即死に近い状態だったのだが、それでももう少し早く着いていればという無念の気持ちは消えそうにない。  ガンディーノ一味は、ボッシュを始末した後、店を焼き払おうとして魔法で火をかけた跡があった。遠くから煙が見えたのはそのせいだ。しかし、店にはソロが魔法で張った結界が展開されていたので、建物にほとんど損傷はない。ボッシュも店から出ずにいれば助かったはずなのだが、何故、店を出てしまったのかは解らないままだ。  それから三日が経ち、葬儀を終えた今も、父の無惨な亡骸を目にしたジーナは自室で泣くばかりだった、その心の傷は察して余りあるものだろう。 二人に護衛を依頼したボッシュは亡くなってしまったものの、悲痛にくれるジーナを放っておく気にもなれず、ソロとジャンヌは店に留まって彼女の様子を見守っている状態だ。だが、二人とていつまでもこうしている訳にもいかない。そんなソロの思いを察したのか、ジャンヌは重い口を開いた。「ねぇ、まさかとは思うけど、あの子をこのまま放っておく気じゃないわよね?」「しかし、俺達に出来ることなど限られているだろう。ボッシュさんから頼まれた期間は過ぎた。……考える必要があるな」「本気でジーナを見捨てるツモリ?!そんなの嫌よ!」「じゃあ、君はどうしろというんだ?このままこの街に骨を埋めて、ずっとあの子と一緒に暮らすのか?」「そ、それは……」 二人には急ぎの目的がある訳ではないのだが、とはいえ、これまでの生活を捨てる訳にもいかない理由がある。それを考えると、ジーナと共に暮らすのも不可能だ。ジャンヌが言葉に詰まって反論に窮した時、不意に店の扉をノックして誰かが顔を覘かせた。「すみません、こちらジーナ・アノールさんの御宅ですか?」「え?あ、はい。そうですけど……」「そうですか、ではこれ、お手紙です。えーと、差出人はボッシュ・アノールさんからですね。あ、こちらにサインを」「え、ボッシュさんから?!わ、解りました、預かります!」 死んだはずのボッシュから手紙が届くとは
last updateLast Updated : 2026-03-31
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怒りの進撃

「クソっ!なぜだ?!どうしてこんなことにっ!」 その夜、豪華な調度品の上に積み上げられた品々を払いのけ、ガンディーノは苛立ちを隠さずに怒鳴り声を上げた。ガンディーノがNeckとして指名手配された事実は、あっという間にドルトでも広まった。この国の法律上、殺人犯として手配されたガンディーノは、その裁判が終わるまで、鉱山の運営権利・管理監督権を剥奪、または停止されることになる。その為、昼夜を問わず働かされていた労働者達は一斉にストライキを起こし、採掘も完全にストップしている状態だ。今は雇い上げた自前の管理者としてのゴロツキ達が用心棒となっているので、反乱こそ起きていないが、いずれは街の労働者達が反旗を翻すか、或いは国か領主の兵士達がガンディーノを捕らえに来るだろう。その前に自首すればいくらか罪は軽くなるはずだが、それを選べるほど、ガンディーノは潔い人物ではない。「仕方ないことだろう。市民を不当に働かせていただけでなく、殺人まで犯した証拠を提出されてはどうしようもない。これで我らは、|お《・》|仲《・》|間《・》という訳だな」「なっ!?テメェ、ロレンツォ!俺を舐めてやがるのか!?」「フフ、お主のような小悪党など眼中にはない。俺はただ、腕の立つMIRAを斬れるのならば、それでいいだけだ。元々の目的だったあの男の始末分については、金を受け取っている訳だしな。そもそも、お前が街の人間に嫌われているから、今回のような事が起きた時に後ろへ手が回るのだ。それが人徳というものだぞ?」「くっ……!」 ガンディーノはロレンツォに言い負かされ、反論する言葉を失った。いかにボッシュを憎んでいたとはいえ、ガンディーノはボッシュをああも直接的に殺すつもりはなかった。当初は、もっと計画的に彼を追い詰め、自殺に追い込むか、あるいは暗殺のような形で始末をつけるつもりだったのだ。しかし、直にボッシュと相対し、またその彼から同情めいた言葉を聞かされたことで、ガンディーノは冷静さを失い激昂してボッシュを殺させるにいたってしまった。いくら店の裏手という人目に付きにくい場所だったとはいえ、昼の街中でそんな事をすれば隠蔽は難しい。ましてや、ロレンツォが言ったように、ガンディーノは街の人間から忌み嫌われているのだ。今回、ボッシュを殺害する瞬間の一部始終を魔法で記録され、それを領主に訴えられてしまったのも、
last updateLast Updated : 2026-03-31
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MIRA殺しの男

「なんだ?お前らうるせーぞ!何を騒いでやがる!?」    喧騒と怒号が飛び交う屋敷の中で、苛ついたようにトグサが叫ぶ。そこへ近づいてきたのは、チンピラ風だがどこか気弱そうな雰囲気を纏った男だった。男は額に汗を滲ませ、酷く青褪めた顔をしていた。「あっ、兄貴!敵です!刀を持った女と、梟を肩に乗せた男が襲撃してきたと報告が!」「はぁ?!刀をもった女と、梟……を、肩に…………あ、ああああっまさか!?」 トグサが慌てて二階の窓から外に身を乗り出すと、ちょうどジャンヌとソロが部下達を打ち倒しながら悠然と敷地内に入って来るところだった。二人の前方には、部下達が陣形を組んで迎え撃とうとしているが、それであの二人を止められるとは到底思えない。トグサの背筋に冷たい汗が大量に噴き出し、その足はガタガタと震え出している。トグサが直接ジャンヌ達と相対したのはたったの二度だが、そのわずかな邂逅だけで、彼の身体にはジャンヌ達への恐怖が沁み込まされていたようだ。  このまま自分がジャンヌ達と鉢合わせればどうなるか?それは火を見るよりも明らかだった。 (な、ななな、なんでアイツらがここに!?ガンディーノ様は雇い主を失ったMIRAがわざわざ報復に出るなんて、そんな割に合わない事をするはずがないと言ってたのに!マズい。いや、や、ヤバイぞ。このままここにいて、奴らに出会ったら……今度こそ殺される!) そもそも、初手で顎を砕かれた時に、トグサは一歩間違えればあの世に逝ってもおかしくないダメージを受けていたのだ。しかも、その次に会った時はソロによって、背中に火傷で文字を書かれるという地獄の苦しみを味わわされたのだから、彼の恐怖心はあながち間違いでもないだろう。敢えて言うなら、ジャンヌは彼を殺さないようにちゃんと手加減をしていたのだが。  トグサは何かに突き動かされるようにして振り返り、部下を置いてその場から駆け出した。文字通りの転進である。部下に忠告する暇などなく、着の身着のまま、一刻も早くこの場を離れることが生き残る最善の道だと彼は考えたようだ。しかし、その目論見は哀れにもすぐに打ち砕かれた。「……どこへ行く?トグサ」「はっ!?が、ガンディーノ様っ!あ、いや、その……これは」「まさか、逃げようとしていたんじゃあるまいな?この俺を置いて。あんなたったMIRA二人にビビッて!みっともな
last updateLast Updated : 2026-03-31
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ロレンツォ対ジャンヌ

 ソロが武道場を出ていく間、ジャンヌはじっとロレンツォの一挙手一投足に注意を払っていた。彼の目的が二人の足止めだとすれば、ソロが出ていくのを邪魔するだろうと踏んでいたからだ。しかし、予想に反してロレンツォは不敵な笑みを浮かべたまま、ソロの後ろ姿を見送るだけだった。ジャンヌは自らの予想が外れたのかと思ったが、その後に続いたロレンツォの言葉で、自分達の判断が間違いでなかったと確信する。「ふむ、見事な判断だ。聡いものよな、こちらの狙いをこうも早く見抜くとは」「やっぱり、ガンディーノはジーナを狙っているのね。お生憎様だわ、ソロがジーナを守りに行った以上、あの子に手出しなんて絶対させない。あとは、あんたをとっちめればそれで終わりよ!」「ふははっ!若い若い、いや、甘い考えだ。確かに、ガンディーノではあの男に勝てぬだろうが、それはお主が俺に勝つという前提があってこその勝利よ。その判断が誤りだと言っておる」 ロレンツォは豪放そのものといった様子で、ジャンヌの宣言を笑い飛ばした。彼が持つ歴戦の戦士の自負と自信が、ジャンヌのような若い女のMIRAに負ける事など無いと確信しているらしい。それでも、ジャンヌは油断をせずに挑発を返した。「あら、それじゃあんたは私に勝って、その後でソロの事も倒すって言うつもり?ずいぶんと都合のいい計算するじゃない」「計算などではない、事実だ。お主では力も技術も、経験すらも足りておらぬ。そもそもそんな女の細腕で、我が剛剣が受けきれるか?試すまでもない。一撃で終わらせてやろう」「ずいぶんと、舐められたもんね……っ!」 背負っていた大剣を抜き放ち、ロレンツォが構えを取った。構えそのものは何の変哲もない正眼の構えだが、その長大な剣のせいか、構えただけで恐ろしいほどの圧を感じる。それでも、ジャンヌは冷静にロレンツォの攻略法を探っていた。 (大口叩くだけあって、大した迫力だわ。それでも、私を舐めているなら好都合よ。……あれだけの重量武器なら威力はあっても振るう速さには限界があるはず。それに、懐へ飛び込んでしまえば大型の武器は取り回ししづらいもの……なら!)「先手必勝!いくわよ、ハバキリ!」 ――ええ、任せて。「むっ!?」    ハバキリを抜いたジャンヌは疾風のような速さで走り、文字通り一足飛びにロレンツォの懐へ飛び込んだ。あまりの速さにロレン
last updateLast Updated : 2026-03-31
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一気呵成

 武道場を出たソロは、屋敷の庭へ飛び出して、足早に外を駆け抜けた。ガンディーノの部下達は皆生きてこそいるものの、誰もが意識を失っていたり大きなダメージを負っていて、とても戦える状態ではない。仮に身体が戦える状態にあっても、精神的には戦うことなどできないだろう。それほどに、ジャンヌとソロは恐れられている。ソロはそんな者達の間を縫って、無人の野を進むが如く、門を抜けていった。「俺達が踏み入った時には、まだガンディーノは屋敷の中にいたはずだ。ということは、俺達が奴を探して邸内をうろついている間に脱出したことになる。ロレンツォが足止めに残っていたくらいだ、まだそう遠くへは行っていまい。……だが」 街外れの丘に建つガンディーノの屋敷の前は、一本のなだらかな下り坂になっていて、先を進むものがいれば夜でもすぐ解るようになっている。しかし、坂の上からソロが見てもその道を進んでいる者はいなかった。恐らく、ソロが知らないだけで街に通じる別の近道があるのだろう。となれば、やることはシンプルだ。「……飛ぶか」 ソロは小さく息を吐き、呟いた。そのまま、心配そうに顔を覗き込むアーデの腹を優しく撫でると、ソロの身体が|ふ《・》|わ《・》|り《・》と浮いていた。「|飛行魔法《ウォラーレ》……久し振りだが、文句は言ってられん」 そうしてゆらりとソロの身体が揺れたかと思うと、次の瞬間にはソロの身体は凄まじいスピードで街の方向へ向けて進んでいた。まるで、放たれた弾丸のような速さである。|飛行魔法《ウォラーレ》は、ソロが故国エンデュミオンの魔法師団長となる前に、自ら編み出した魔法だ。きっかけは単純で、子供の頃から育てているアーデが空を飛んでいるのを見て、自分も一緒に空を飛びたいと願った事だった。ただ当時、魔法に関して非凡な才能を持っていたがまだ子供だったソロは、魔法の創造についての基本的なルールや、守るべきコツのようなものを習っていなかった。その為、彼が創った|飛行魔法《ウォラーレ》は制御というものが一切考慮されていない危険極まりない魔法であったようだ。 普通の魔法ならば、どんなものにも暴走を防ぐ為にブレーキとなる術式が組み込まれているものだが、その時の|飛行魔法《ウォラーレ》にはそれがなく、魔力を費やせば費やしただけ加速してしまう欠点があった。おかげで、ソロはアーデと共に飛びたいからと不
last updateLast Updated : 2026-03-31
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