All Chapters of 光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~: Chapter 31 - Chapter 40

76 Chapters

対魔法使いのスペシャリスト

 ソロがガンディーノの身柄を押さえ、ジーナを助けるその少し前。ジャンヌ目前にはロレンツォの刃が迫っていた。「終わりだっ!」   「くっ……!体勢が崩れても、このくらいっ!」 全身を血で朱く染めたジャンヌが辛うじて無事な左足を軸にして跳んだ。しかも、ただ跳んだだけではない。横薙ぎに振るわれた大剣の腹に一瞬だけ乗って、そこを蹴るようにして、反動で更に後ろへ跳んだのだ。あまりにも曲芸染みたその動きに、ロレンツォは驚くばかりで全く対応出来なかった。もしも、彼が冷静なままであったなら、ジャンヌが剣の腹に足を乗せようとした時点で剣の向きを変え、その足を切り落としていただろう。ジャンヌにとっても今の動きは賭けでしかなく、ロレンツォがそこまでの達人ではなかったことに安堵するばかりであった。「貴様っ……」「はぁ、はぁ。ぎ、ギリギリ……!でも、今ので何となく、違和感の正体を掴めた……気がする。もう、あと、少し……っ」 そう呟くジャンヌだったが、大量の出血で意識が朦朧としたのか、その場にうずくまってしまった。ハバキリを床に刺して支えにしていなければ、倒れてもおかしくない状態だ。そんなジャンヌにハバキリは少し慌てた様子で脳内に声を響かせた。 ――しっかりして、ジャンヌ。また次の攻撃が来るわ。そのままだと、今度こそやられてしまう。さぁ、立って構えて、お願いよ。「だい、じょうぶ、よ。ハバキリ……少し、考えているだけだから。答えはすぐ、そこにある気がするの」「ふん。この場で独り言とは、いよいよ頭が呆けて来たか。その出血だ、無理もない。奇策で潜り抜けたことは褒めてやるが、次はないぞ。今度こそ仕留めてくれよう!」 (さっきの攻撃、ふくらはぎへの一発は、明らかに背後からの一撃だった。その後に続いた、全身への連続攻撃も、あいつの剣とは全く違う方向からの攻撃だったわ。どうして?そもそも剣を振るってさえいない状況で、どうして私に傷をつけられたの?) ロレンツォに気付かれぬよう、そっと周囲に視線を這わせてみても伏兵の存在は確認できない。もし仮に、潜んでいる別の敵がいたとしたなら、ソロが間違いなく気付いていたはずだ。そして、それを自分に教えずこの場を去るようなことは、ソロの性格から言ってあり得ない。つまり、ロレンツォはたった一人で、ジャンヌに攻撃を浴びせたのだ。そこまで考えた時、ジャン
last updateLast Updated : 2026-03-31
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新しい仲間

 ガンディーノとその部下達は、そのほとんどが捕まった。Neckとして手配されたガンディーノは元より、彼が率いていた部下のチンピラやゴロツキ達は、彼の権力を傘に着て街のあちこちで横暴や無法を行っており、それぞれに罪が認められた形だ。元が札付きのワルばかりを集めた愚連隊のようなものだったし、それ自体は当然の結果といえるだろう。  結局、命を落としたのは、ロレンツォが殺害したトグサと、そのロレンツォの二人である。 片腕を失ったガンディーノ自身は重傷だったが、命に別状はないらしい。しかし、憲兵達が調べた所によると、彼は手配された内容だけでなく悪質な鉱山利益の着服を行っていて、領主はかなりご立腹のようだ。恐らく、縛り首は免れないだろう。彼にはこれから厳しい取り調べと処刑が待っている。その意味では、捕まった方が地獄だと言えるかもしれない。「これで、いいかな。……お父さん、お母さん。どうか、安らかに」 ドルトの片隅に整えられた区画には、この街で死んだ人達を祀る墓地がある。その中に、今回亡くなったボッシュと、二年前に病死したジーナの母、ファリの墓があった。ジーナは墓前に手を合わせて、二人の冥福を祈っていた。「…………」「どうした?ジャンヌ。らしくない顔してるぞ」「るっさいわね。私らしい顔ってどういう顔よ。……ねぇ、ソロ。ジーナのことなんだけど」 祈りを捧げるジーナの背中を、少しだけ離れた場所からジャンヌ達が見守っていた。ガンディーノを始めとした、彼女を狙う者達はもういないので護衛をする必要はないのだが、ジーナはまだ13歳の子供である。両親を失った今、独りにさせておくのはよくないだろう。そう思って、ボッシュの依頼が果たされた今も彼女の傍についているのだ。「……またその話か。悪いが同意は出来ないぞ、あの子を俺達の旅に連れて歩くなんて危険すぎる」「でも!ジーナにはもう頼れる人はいないのよ?いくらガンディーノ達がいなくなったと言っても、ううん、ガンディーノがいなくなって、街の権力者が変わるって時に子供が一人でやっていける訳ないじゃない。せめて、私達だけでも傍にいてあげれば……」「あのな、ジャンヌ。君の気持ちは解るが、俺達と一緒に来るって事は、普通の暮らしを捨てるってことなんだぞ。俺達と一緒にいれば、当然、命の危険だってある。それに、いくら身寄りが無くなったとはいえ、
last updateLast Updated : 2026-03-31
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レガリアへの道

 永世中立国・レガリア。ジャンヌ達が向かおうとしているその国は、大陸のほぼ中央に位置する巨大な湖、グラン・レガリアの中央に浮かぶ、孤島に建てられた世界最小の国家だ。グラン・レガリアは、|大三連月《ルイーナ》の光を反射し、真夜中であっても昼のように……或いは、昼よりも明るいと称される巨大湖である。 そんなレガリアは、この|星《せかい》の人々の約八割以上が信仰している月光教の本部が置かれた国であり、立場上どこの国にも属さず、またどの国とも特別な関係を持たない中立国として存在している。かつて、反月光教を唱えた武装国家がレガリアに攻め込んだことがあったが、レガリアはそれを単独でしのぎ切り、返り討ちにしたという逸話さえ残っている。それは、レガリアが常に|大三連月《ルイーナ》の輝きに満たされ、他の国々に住む人々よりも加護を持つ人間の比率が多いからではないか?とも噂されている。その意味で、レガリアに住む人々は他国の人間よりも一歩先を行く存在であると言っても過言ではないのかもしれない。「レガリアか……」 ドルトを出て二日、ソロは一人、宿の部屋で腕を組み頭を悩ませていた。いつも肩の上にいるアーデは、ジーナと一緒にいるようだ。アーデとソロは繋がっているので、ジーナにもしもの事があれば、すぐにソロが気付けるからだ。もっとも、彼女のプライバシーを考慮して、緊急時以外はソロに情報が来ないようにしてあるのだが。「レガリアに向かうルートは大きく分けて二つ……これは、ジャンヌと相談しなくちゃならないな」 ソロはどうやら、これからどうやってレガリアに向かうかを悩んでいたらしい。仕事の依頼を引き受けるかどうかはソロが決めるという二人のルールがあっても、流石に進むルートの選択は相談するらしい。普段ならばこれもソロが決めることなのだが、この問題だけは二人で相談しなければならない事情があるようだ。ソロは重い腰を上げて、隣室に借りたジャンヌ達の部屋へと向かった。「はーい!……ああ、なんだソロか。どうしたの?何か用?」「なんだとはなんだ、失礼な。……まぁいい、少し相談しておきたい事があったんだ。今、話せるか?」「いいわよ、別に。もう少ししたら、ジーナとお風呂に行こうって話をしてたところだから」「そうか、じゃあ、ちょうどよかったな。邪魔するぞ」 断って部屋に入ると、部屋の中には少し甘い匂いが
last updateLast Updated : 2026-03-31
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バーソロミュー・サマーヘイズ 1

 ジャンヌ達がソロと呼ぶ男、バーソロミュー・サマーヘイズ。彼は今から25年程前に、エンデュミオン皇国の地方にある、小さな村で産声を上げた。 彼は小さな頃から大変に利発で、また優れた魔力量を誇る子供であったようだ。加護とはまた違う意味で才能があるとすれば、彼は『魔法の才能』を持っていたと言ってもいいだろう。そんな彼がまだ幼い子供だった頃のことだ。 ソロが生まれた村はコヴェントという小さな村である。近くには作物の育てられる大規模な畑があり、それを囲むように牛や羊のような家畜が放牧されている。所謂、農村だ。通常、人が多く住む街や農村などは、魔獣などの危険な存在から狙われやすい為に巨大な防壁で周囲を囲むのが一般的だ。しかし、このエンデュミオン皇国では、ほとんどの街や農村はそうした防衛機構がない。それを可能にしたのは、この国が持つ独自の戦力である魔法兵の存在だった。 攻撃手段に限らず防御や防衛に有利な多数の魔法を従え、そこに鍛え上げられた肉体も加えた魔法兵の力は凄まじく、各街や農村に数名派遣されている彼らの力によって、この国の街や村は実に開けた状態でいられるのである。  そしてこのコヴェントにも、一人の魔法兵が防衛戦力として配備されていた。「よぉし、お前達、今日はとっておきの魔法を教えてやるぞ、集まれー!」「ダルク、遊ぶより寝ぐせ直した方がいいんじゃない?」「え?寝ぐせ?…………ほら、どうだ!寝ぐせを直す魔法だぞ!」「そんなの水で濡らせばいいのにー!」 軍服を着た中年の男を囲む子供達からドッと笑いが出て、広場は一気に明るい空気に包まれた。男の名はダルク・エイヴリングといい、三十も半ばを過ぎたベテランの魔法兵だ。魔法兵の所属は皇国軍にあり、彼らの大半は街や村の防衛戦力として各地に派遣されている。数年で任期が終わると王都に帰参し、また別の土地を任されるか、出世して役職を与えられて王都に住むことが決められているのだ。そして、ダルクはこの時、あと数か月で任期を終えて王都へ帰る予定になっていた。「……」 そんなダルクを、他の子供達とは違って少し離れた場所からじっと見つめている少年の姿があった。それがソロだ、この時まだ五歳に満たないほどの幼子である。かつて、ダルクがこのコヴェントに派遣されてきた、ちょうどその日に産まれた子供がソロだった。この年は他に子供が産まれな
last updateLast Updated : 2026-03-31
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バーソロミュー・サマーヘイズ 2

 まず真っ先に異変に気付いたのは、フォレストオウルだった。 この森は彼らの縄張りであり、余所からそれを侵すものが来れば容赦なく牙を剥くのが通例だ。それもあって、危険な外敵の侵入には誰よりも早く反応する。彼らが予想もしていなかったのは、それが因縁の仇敵であったということだろう。  その危険な気配に気づいてフォレストオウル達が空から確認すると、ゴアビーストもまた、かつて仕留め損ねた獲物に気付き、不敵に笑った。その瞬間、フォレストオウル達はそれがヴィシャスを殺した仇だと知り、一気に戦闘モードに入ったのだ。    フォレストオウルはその穏やかな性格とは違って、いざ戦闘となれば見た目以上の戦闘能力を発揮する。以前、ゴアビーストに敗北しかけたのは、森ではない別の場所で虚を衝かれたからだ。本来は森で生活する魔獣だけあって、フォレストオウルは森の外では十全な能力を発揮できない。その為、不意打ちで片割れがダメージを負い、それを庇って防戦に徹していたことで、フォレストオウル達は苦戦していたのだ。その点で言えば、今回の戦いは得意なフィールドであり、二羽ともに健在というベストコンディションである。いかに相手が以前苦戦した相手と言っても、簡単に負けることはない……はずだった。 まず最初に、フォレストオウル達は風を操って、上空からゴアビーストに攻撃を仕掛けた。本当ならば、フォレストオウル達が得意とするのは接近戦だ。普通の梟や鷹などの猛禽類は、獲物が察知できない長距離からその姿を確認し、相手に気付かれぬよう高速で接近して敵を捕まえるのが得意な戦法である。フォレストオウルの鋭い爪もその為にあり、超高速の突撃から繰り出される一撃は、名工の作った鎧や盾さえも軽々と貫通するほどの破壊力を有している。だが、相手であるゴアビーストもまた、非常に接近戦を得意とするモンスターだ。既にゴアビーストがフォレストオウル達に気付いてしまっている以上、得意な戦法は使えない。むしろ、不用意に近づけばいくら超高速の突撃であっても手痛い反撃を喰らう恐れもある。それを見越して、まずは風の魔法で牽制しているのだ。 木々が激しく揺れ、小型の竜巻がゴアビーストを襲う。しかし、狙われているはずのゴアビーストはその暴風に一歩も引くことなく迎え撃とうとしていた。「グオオ……ガァッ!」    迫りくる竜巻に、ゴアビーストは
last updateLast Updated : 2026-03-31
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バーソロミュー・サマーヘイズ 3

 ゴアビーストとの死闘から、15年余りの月日が流れた。あの時、ソロを助けてくれたダルクは程なくして任期を終え、王都へ帰っていったのだが、帰り際、ソロに一つのアドバイスを残していた。それは、もしも魔法兵になりたいと思ったのならいつでも連絡をしてくるように、という言葉だった。  正直な所、ソロには魔法兵になるつもりはなかったのだが、彼の類い稀な魔力量と魔法に対する才能はこの時に大きく開花していたようだ。それを、ダルクは見抜いていたのである。 そして、ゴアビーストを打ち倒した後気付いたのだが、あの時、フォレストオウルの番達は巣に一つの卵を産み落としていた。しかし、本来、卵を暖めて孵すはずの両親はソロを守る為に戦い、命を落としてしまっていた。ソロは、子供ながらにそれを自らの責任と感じ、遺された卵を暖めて育てることにした。そうして産まれたのが、アーデである。アーデは卵の状態からソロの魔力を受けて成長した為、産まれた時にはアーデと深く繋がっていたようだ。その後、魔法による契約を結び、晴れて彼の使い魔となったのだ。  以来、アーデとソロは主従を超え、兄弟でありまた親子として共に育っていった。そして、ソロは15歳になる直前、飛行魔法《ウォラーレ》で事故を起こし、王都にある魔法師団本部の門を叩く。彼はその後、魔法師団結成以来の天才として名を馳せ、弱冠18歳という若さで最高位である魔法師団長に任命されたのだが……。 「――それでは、失礼致します」 豪華な装飾を施された馬車に乗り込み、屋敷の主人である貴族達に挨拶をすると、ゆっくりと馬車が動き出す。この頃、エンデュミオン皇国では魔力によって動く|魔力車《クルルス》という機械が発明されていたが、街中での使用は禁じられていた。魔導車は馬車よりも速い反面、それ用に整備されていない道では事故を起こしやすく、危険な乗り物だったからだ。他国に先んじて発明はしたものの、それまで馬車や人が足で移動することを前提として作られた街の造りでは、危険過ぎたのである。    ソロは溜息を吐きながら、一人になった馬車の中でネックチーフを緩めた。普段の軍服とは違い、貴族との食事の場では正装の一環として身に着けているチーフだが、正直に言ってあまり好きにはなれないものだ
last updateLast Updated : 2026-04-01
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運命の邂逅

 ダルクがソロの元を訪れてから、早くも一ヵ月が経過した。この間にも、現皇帝バーンの病状は日に日に悪化の一途を辿っており、彼が早晩命を落とすであろうことは、誰の目にも明らかな状況になっている。こうなると、緘口令をしいていても人の口に戸は立てられず、まだごく一部の噂だとはいえ王都の内外にそれらの事情が知れ渡りつつあった。    (やれやれ、今日も会食の予定か。陛下の状態が噂になり始めてから、わざわざ昼食という短い時間にまでねじ込んでくるようになったとは……皆、そこまでして権力が欲しいのか) 午前の仕事を終えて昼の会食予定の相手へ向かおうと、廊下を歩きながら手帳に書き留められた予定を確認し、ソロは大きく溜め息を吐いた。皇帝バーンの容態が悪化するにつれ、王宮内での権力争いも日に日に激しさを増している。今の所は将来を見越した人材の引き抜きや利権の確保が主体だが、このままではそう遠くない内に、互いの足の引っ張り合いから最悪の場合は謀殺などへも発展していくことだろう。バーンがいなくなった後、この国がどうなるのか、考えただけで頭の痛くなる問題だ。 そしてソロに対してもまた、これまで以上に派閥への引き抜き工作が苛烈になっていた。3週間ほど前からは、貴族連中から釣書が直接届くようになっていて、もはや、その狙いを隠す気もないようだ。 ダルクの言っていた通り、各貴族やそれぞれの皇子派閥は、エンデュミオン最大の戦力である魔法兵と、それが属する魔法師団の後ろ盾を狙っている。 そもそも魔法師団は、皇帝に直接指揮される部隊である。エンデュミオンの皇帝は国家元首であり、同時に軍の最高司令官でもあるわけだ。これはかつて、モンスター達が跋扈していた時代に当時の皇帝が先陣に立ち、兵士達を指揮して戦い、領土と人民を守った事に由来する。その為、本来であれば次の皇帝となったものが魔法師団を手に入れると言っても過言ではないのだ。  しかし、長い年月の中でこれらは形骸化し、近年の魔法師団はかなりの権力を持つ事になった。有事には皇帝を守り支える魔法兵達が、もし叛意を見せれば、容易に国を乗っ取ることが可能だからだ。そうなっていないのは、歴代の魔法師団長がその欲望を表に出さなかったからである。  これらはソロにも
last updateLast Updated : 2026-04-02
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ジャンヌとソロ

 屋敷へと戻ったソロは、空いている客間を整えさせ、そこでスライを休ませるとすぐに医者を呼んだ。急な呼びかけにも関わらず対応してくれた医者の見立てによると、スライは馬車にはねられたというのに、その身体にはどこにも怪我がなかったという。ただし、極度の栄養失調状態であるとのことだ。そして、意識が戻らないのはそのせいだとも。だが、それ以上に驚くべき事があった、それは。 (まさか、スライが女性だったとは……確かに、あちこちの汚れと酷く痩せ衰えているから気付かなかったが、面立ちは女性そのものだ。……しかし、どこかで見覚えがあるような) そう、スライは女性だったのである。そもそも魔法によってある程度の生計を立てられるこの|星《せかい》では、個人がスライにまで身をやつすことは滅多にない。しかも、女性となれば尚更だ。通常、自分の意思でドロップアウトしなければスライになるようなことはないが、それでもここまで落ちぶれるのは珍しいのだ。 医者が帰った後、ソロはベッドで眠るスライをじっと見守り続けていた。何故そうしたのかは自分でも解らない、ただ、目を離せなかった。それだけだ。しばらくの時間が過ぎた後、スライの女性はゆっくりを目を開けた。初めはぼうっとしているようだったが、少しずつ視線が動いて段々と意識が覚醒してきたようだ。見知らぬ天井に困惑している中、横にいたソロが声をかけた。「ここ、どこ……?」   「目が覚めたか?」「あ……だ、だれ?わた、し……」「落ち着いてくれ。君は今朝、俺の乗っていた馬車にはねられてしまったんだ。どうやら、栄養失調で倒れた所に、ちょうどうちの馬車が走ってきたらしい。一応、医者に診てもらったが、怪我はないと聞いている。どこか、痛むところはあるか?」「な、ない……と、思う。あの」「なんだ?金の事なら気にしなくていいぞ。幸いにして怪我はなかったとはいえ、うちの馬車が事故を起こしたのは事実なんだ。気が済むまで休んでくれて構わない。ただ、一つ教えてくれ。君の名前は?」「…………ジャンヌ。ジャンヌ・パルテレミー」「ジャンヌか。……わかった、ジャンヌ。君はもう少し眠っているといい。今、何か食べるも
last updateLast Updated : 2026-04-03
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それぞれの家族模様

「まあまあ!バーソロミュー様、そんなにコワい顔してはいけませんわ。美丈夫が台無しですもの。あなたもダメよ、ギリアム。|私《わたくし》の|婚約者《フィアンセ》にそんな態度をとっては」「申し訳ございません。イェルダ様」「だから、それは……っ!」    ソロが反論しようと声を上げると、ちょうどイェルダと目が合った。その視線は、ゾッとするほど艶めかしく情欲が籠っていて、一瞬、気圧されてしまいそうになる。そうして言葉を詰まらせたソロを舐めるように見つめて、イェルダは言葉を続けた。「ねぇ、バーソロミュー様。|私《わたくし》、本当に心配でお見舞いに来たのです。あなたが|私《わたくし》との約束を破り、薄汚いスライを拾って家に帰ってしまったと、そんなデマを聞かされたものですから。……もちろん、そんなことはウソですわよね?」 (この女、俺がジャンヌ嬢を連れ帰ったことを……あれからまだ4時間ほどしか経っていないというのに、大した地獄耳だ。俺を婚約者だとかいい加減な事ばかり言うのは、その有能さを隠すためか?)「……何を仰っているのか解りません。さっきも言いましたが、お約束をキャンセルしたのも、医者を呼んだのもあくまで私が体調を崩したからです。それと、何度も言わせないで下さい。俺と貴女は婚約者でも何でもない、赤の他人だ」「……うふふ、そうですか。では、|そ《・》|う《・》|い《・》|う《・》|こ《・》|と《・》|に《・》|し《・》|て《・》|お《・》|き《・》|ま《・》|し《・》|ょ《・》|う《・》。元気そうなお顔も見られたことですし、安心いたしました。今日の所はこれで失礼させて頂きますわ。行きましょう、ギリアム」「はい」 イェルダはそう言うと、微笑みを絶やさぬままに振り向いて、軽やかな足取りで去って行った。この場に彼女がいなくなるだけで、空気そのものが大きく変わった気がする。イェルダから圧倒的な存在感と得体の知れない|何《・》|か《・》を感じ、ソロは深く溜め息を吐き、カムランは腰を抜かしてへたり込んでしまっていた。「ふぅ、やっと帰ったか…………しかし、あれが、皇女イェルダ。確かに、ダルクが気を付けろと言った理由が解った気が
last updateLast Updated : 2026-04-04
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旅の始まり

「ようこそおいで下さいました、出席者の皆様。|私《わたくし》が、皇帝バーン・ソフ・エンデュミオンの長女、イェルダ・ディフ・エンデュミオンでございます。本日は|私《わたくし》の帰還を祝うパーティにお集まりいただき、誠にありがとうございます。今は病床の淵にあり、此度の出席が叶わなかった父バーンに代わり、改めてお礼の言葉を述べさせて頂きますわ」 紫を基調とし、要所にモスグリーンを配置した豪華なドレスは、イェルダの雰囲気と見事にマッチして彼女の美しさと威容を存分に際立たせていた。だが、そんな誰もが目を奪われるであろう容姿も、彼女の発言によってその注意を逸らされてしまった。そう、イェルダは隠されていたバーン皇帝が病に倒れかけていることを公表してしまったのだ。  会場のざわめきが徐々に大きくなる中、その空気を塗り替えるように一人の男性が声を荒げ、イェルダの前に出た。第一皇子のパトリックである。「イェルダ!貴様、何を言い出している!?他国の貴族も多く参列しているこんな時に……!」「あら、お兄様、いらしてたんですのね。|私《わたくし》、てっきりおみえにならないかと思っておりましたわ。ティファーナ大臣のことがありましたから、|私《わたくし》ならばとても恥ずかしくて外に出られませんもの」「き、貴様……っ!?」 挑発するイェルダの表情は蠱惑的で、誰もが彼女の一挙手一投足に釘付けになっていた。ティファーナ大臣というのは、先日彼女が不正の証拠を基に断罪し、斬り捨てられた男である。彼は古くから帝国に仕えていて、パトリックが子供の頃から彼の後見に努めた人物だった。その彼が不正を働き、その上、よりによって皇女に危害を加えようとした謀反人となってしまった事でパトリック派は大きく動揺し、パトリック自身も深いダメージを負った。イェルダが言っているのはその事だろう。 まさに痛い所を突かれたパトリックは、二の句も継げられずに唇を震わせている。誰もが動けず固唾を呑んで見守る中、ソロだけがこの状況に危険なものを感じ、動き出していた。「別にお兄様が責任を感じる事ではございませんわ。お兄様が幼少のみぎりから、大事に後押ししてくれていた人物が大罪人であっても、お兄様自身が罪を犯した訳ではございませんもの。そうです、お兄様は騙され踊らされていたのですわ。あの愚かで悪徳な男によって」「許さんぞ、イェル
last updateLast Updated : 2026-04-05
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