破産した後、アスリートだった夫は借金取りから私を庇い、その両足をへし折られた。息子までも、耳が聞こえなくなった。2人を治すため、私は一日に五つのバイトを掛け持ちする毎日を送っている。接待で胃から出血するほどお酒を飲んでも、一度も弱音を吐いたことはなかった。そんなある日のこと。一晩で10万円を稼ごうと、ある財閥の結婚式でウェイトレスとして働いていた。トレイを手に人混みを縫うように歩き、何度も頭を下げながら、客に飲み物やデザートを配って回る。ふと、顔を上げた。視線の先、チャペルの前方に、足が不自由なはずの夫が自分の足でしっかりと立っている。美しい花嫁を愛おしそうに抱き寄せ、キスを交わした。……キスが終わって、神崎涼(かみざき りょう)は人混みの中にいる私に気づくと、その笑顔をみるみる凍りつかせた。信じられない思いで見つめる私の声は、ひどく震えている。「涼、病院で治療を受けているはずじゃ……」視線を落として、ピンと伸びた両足を見ると、なんだか滑稽にさえ思えてきた。1時間前まで、病院のベッドで弱々しく横たわって、最後の手術を待っていたはずなのに。涼の整った顔に一瞬焦りが浮かび、大股でこちらへ歩み寄ってくる。「ナナ、違うんだ。話を聞いてくれ」私の手を強く握りしめ、きれいな瞳で縋るように見つめてくる。付き合ってからの10年、こんな顔をされると、いつもならあっけなく絆されてしまっていた。でも今は、少しも心が揺れることはない。ただただ、全身が冷え切っていく。涼が着ているのは、ブランド名すら分からないほどの上質なスーツ。私が買ってあげた3着2000円の特売Tシャツなんかより、よほどお坊ちゃんらしい気品を引き立てている。手首にあるパテック・フィリップは、数千万円は下らない時計だ。私が10年働いても買えないような高級品なのに、今の彼にとってはただスーツの色に合わせただけの飾りにすぎない。胸元に飾られた、結婚式の主役であることを示すブートニアがまぶしくて、まるで針が心臓に突き刺さるような痛みを感じた。涼は私の視線に気づくと、慌ててブートニアをむしり取った。「誤解しないでくれ。これはただの飾りで……」そう言いながらも、目を合わせようとしない。こんな言い訳、自分でも信じていないだろう。私はその手を振り払
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