LOGIN玲子のスキャンダルは大きく騒がせ、神崎家は雨宮家との婚約破棄を余儀なくされる。他の名門一族も、あんな傷物の女を嫁にもらうなど世間の笑い者になると、徹底的に距離を置いた。一夜にして、玲子は世間から完全に鼻つまみ者になった。さらに、違法な薬を使用して人を死に至らしめた罪で、30年という重い実刑判決が下される。当然の報いだ。一方、涼と陸はというと、私の自宅アパートの周辺をウロウロと徘徊し、執拗に付きまとってきた。毎回、いないものとして完全に無視した。そんな日々が続くと、ようやく神崎家の人が私に交渉を持ちかけてくる。涼と陸が家に帰ろうとせず、神崎家にとって深刻な損害が出ているらしい。「二人の前から完全に消してくれれば、手切れ金として20億円払う」と。私は20億円では安すぎると、きっちり100億円を要求する。そしてその金を受け取るや否や、涼と陸がいない隙を突いて海外へ行く。ついでに、家族のお墓も彼らの手の届かない別の場所へ移しておいた。海外での生活が始まってからも、二人は私の居場所を突き止められないまま、メッセージや着信を狂ったように送ってきた。たとえ電話番号を変えても、どういうわけかすぐに新しい番号を嗅ぎつけてくる。面倒になった私は、もう番号を変えるのをやめる。着信があるたびにただ着信拒否リストに放り込んだ。異国へ渡って2年目、私は神崎家からもらった資金を元手に、自身の会社を立ち上げる。惜しみなく資本を投入した甲斐あって、会社はあっという間に上場を果たし、破竹の勢いで成長した。わずか3年で、グローバル企業トップ500に名を連ねるまでになった。故郷を離れて10年目。ようやくまとまった休みが取れた私は、家族のお墓参りのために帰国を果たす。雇った管理人がしっかりと手入れをしてくれているおかげで、お墓の周りには雑草一本生えておらず、綺麗に保たれている。帰国した翌日、神崎家と雨宮家のその後の始末を耳にした。玲子が刑務所に入った直後、雨宮家は早々に彼女を見捨てたという。母親はすぐに次の子供を身ごもり、まるでゲームで新しいアカウントを作って最初からやり直すかのように、新たな跡取り作りに専念しているそうだ。玲子自身は、服役して5年目に同室の受刑者たちからイジメに遭い、無残にも獄中死を遂げたらしい。死に目も開いたままだったそうだ。一
舞い落ちた紙を拾い上げた招待客の一人が、ハッと息を呑んで声を上げる。「嘘でしょ、雨宮玲子が薬物で人を死に追いやったって書いてあるわ!」「それだけじゃない、見てよこれ。チンピラに乱暴されてる写真!うわぁ、えげつない……」「雨宮家も厚かましいわね。こんな事隠して神崎家と縁組するなんて。でも、神崎涼もクズだね。彼女を騙して夫婦のふりをして、子供まで産ませておいて別の女と結婚だなんて。似た者同士でお似合いじゃない!」「……」財界のトップの二大名門の醜聞が白日の下にさらされ、会場は騒ぎに陥った。玲子は、自分の犯罪の証拠と襲われている写真を、信じられないという顔で見つめている。とうの昔に処分したはずの写真がなぜ私の手元にあるのか、全く理解できないようだ。「この写真、とっくに隠滅したはずなのに!どうして持ってるのよ!」玲子は狂乱になって叫んだ。わざわざ招待状を送りつけて私を挑発したのは、すべての証拠は隠滅済みで、ボロが出る心配なんて万に一つもないと高を括っていたからだ。だが、玲子は知る由もない。私が涼からもらったあの1億円を惜しみなく使い、兄に薬を盛った証拠はおろか、乱暴された時の写真、さらには整形の記録まで、すべてを暴き出したことを。完全に理性を失った玲子は、怒り狂って私に掴みかかろうと襲いかかってきた。しかし、涼に突き飛ばされて転倒し、段差に頭を強く打ちつけて、そのまま意識を失う。式場は一瞬にして大混乱に陥った。涼は、倒れた玲子を気にする様子も見せず、私の腕を掴んで何かを訴えようとしてくる。だが結局、神崎家の親族たちに取り押さえられ、そのまま引きずられていった。あいつらのことなんて、もう私には知ったことではない。そのまま式場を後にしようとした前、再び陸と出くわした。予想外だったのは、陸が倒れている玲子を無視して、帰ろうとする私の行く手に立ちはだかったことだ。「ママ、あの時は僕が悪かったよ。ごめんなさい、許してくれるよね?」許すわけがない。実の母親である私をあっさり切り捨てて、玲子を選んだあの瞬間、一生許さないと心に誓ったのだ。二度と陸を見ることなく、足早に車に乗り込んだ。ルームミラー越しに、泣き叫びながら車を追いかけ、やがて力尽きて路上に崩れ落ちる小さな影が映っていた。
涼と玲子の結婚式で再び陸の姿を目にした。一ヶ月余り会わないうちに、陸はずいぶんと痩せていた。人混みの中に立つ彼が私に向ける視線からは、以前のような嫌悪感が消え、代わりに微かな期待が浮かんでいる。私が歩み寄り、昔のように抱きしめてあやしてくれるのを待っているのだ。しかし、私は冷ややかに一瞥をくれただけで、そのまま招待客の席へと歩を進める。頭の中にあるのは、次にやるべきことでいっぱいだ。やがて式が始まり、神崎家の親族に見張られるようにして涼が姿を現す。思えば、彼とも一ヶ月近く顔を合わせていない。最近の軟禁生活がよほどこたえたのか、ひどくやつれている。メイクでも、その生気のない表情は隠しきれていなかった。私に気づく様子もなく、親戚に背中を押されるようにして玲子の隣へ歩かされていく。魂が抜けたような涼とは対照的に、玲子の顔は得意だった。高級なウェディングドレスに身を包み、ツンと顎を上げて、涼の腕に絡みつきながら人混みの中を歩いている。私を見つけると、勝ち誇ったように片眉をくいっと上げ、無言の挑発を仕掛けてくる。そんなこと全く気にならない。喜んでいられるのも今のうちだけで、すぐに化けの皮が剥がれるのだから。司会者の進行で、会場の雰囲気はすぐに最高潮に達し、みんなの注目は二人に集まる。無理やり笑顔を作って招待客に向き合う涼と、これ見よがしにラブラブぶりをアピールする玲子。その時だった。二人の甘い思い出を流していた大きなスクリーンが突然真っ暗になる。再び映像が映し出された時、そこには二人の姿ではなく、涼と一人の女、そして小さな子供の温かい日常風景が映し出されていた。その女と子供は、私と陸だ。この数年間の私たちの日常を動画にまとめ、大きなスクリーンで流してやったのだ。涼がこれまで裏で何をしてきたのか、ここにいる全員に見てもらうために。結婚式に来ているのは勘のいい人ばかりだ。すぐに事態を察して、涼を指差してヒソヒソと囁き合う。中には動画の女が私だと気づく人もいて、一体どういう事かと次々に群がって質問してきた。私はそんな人たちを無視して、ただ壇上で愕然としている二人をじっと見つめた。私を見つけた涼は、まるで希望の光を見たような顔になり、周りの目も気にせず飛び降りて私の手を握りしめた。「ナナ!やっぱり俺を放っておけな
「この恥知らず!私と涼の結婚式をメチャクチャにしたくせに、どうしてまだ彼につきまとってるのよ!」先日の結婚式は、私が倒れて涼が途中で退席してしまったせいで、結局うやむやになったらしい。両家は騒ぎが落ち着いてから、改めて式を挙げるつもりのようだ。玲子はすべての責任を私に押し付け憎々しげに指を突きつけてわめき散らしている。私は無表情で彼女を見つめ返す。「勝手に家に上がり込んできて、私が何もしないとでも思ってるのか?」今の私は家族も失い、この世に未練なんて何一つない。その気になれば、なんだってできるのだ。でも、彼女をこのままあっさりと死なせてやるつもりはない。生きて、地獄のような苦しみを味わってもらわなければ気が済まない。だから、今はまだ何もしない。玲子はハッと我に返ったように、少し怯えた目で私を見る。「警告しておくわ、変な真似はしないでよ。そうじゃないと、雨宮家が黙ってないから」口では強がっているが、彼女の足はじりじりとドアの方へ後退し、最終的に玄関口まで下がる。「今日はただ警告するに来たわけじゃないの。来月の15日に改めて式を挙げることにしたわ。涼の元カノとして、私くらいの器になれば、特別に招待してあげてもいいわよ」そう言うと、彼女はポケットから招待状を取り出し、私の顔に投げつけた。「身の程を知りなさい、あなたと涼では住む世界が違う。さっさと諦めることね」その言葉を残すと、玲子は逃げるように走り去っていく。慌てて逃げ出すその後ろ姿を見つめながら、私は冷たく鼻で笑う。その結婚式を、決して忘れられない悪夢の日に変えてみせる。家に戻った玲子からこの一件を聞かされた雨宮家と神崎家は、二度と同じようなトラブルが起きるのを防ぐため、涼を軟禁してしまった。わざわざ私のところへも人をよこし、二度と涼に近づくなと警告してくる。私は思わず笑ってしまった。そもそも涼に「命を救われた」という恩義がなければ、あんな男に見向きもしなかったというのに。それでも向こうは私が信用できないらしく、尾行をつけて、少しでも怪しい動きがあればすぐに報告させるようにしているようだ。
入院している数日間、涼は片時もそばを離れずに看病してくれるが、私は彼に冷たい態度のままだった。玲子はひどく不満で、何度も涼を連れ戻しにやって来る。ついに苛立ちを爆発させた涼は、玲子の頬をひっぱたいた。温室育ちのお嬢様である玲子が、そんな屈辱に耐えられるはずもなく、あの日以来二度と来ることはなかった。陸については、あの日の口論以来、一度も見舞いに来ることはない。私への当てつけか、涼と電話している時にわざと大きな声でこう言っていた。「もうあんな女に会いに行けなんて言わないでよ!あっちが僕をいらないなら、僕だってあんなママいらない!土下座して頼まれたって、絶対に行かない!」以前の私なら、間違いなく下手に出て彼をなだめ、すべての責任を自分に被せていただろう。でも、今はもう疲れた。これ以上、誰かに媚びて生きるつもりはない。退院の前日、私は涼がいない隙に病院を抜け出し、郊外の霊園へと向かう。文字すら彫られていない、兄の墓石の前で足を止める。その隣にある二つの小さな土の塚が、両親の眠る場所だ。この数年間、私はただひたすらお金を稼ぐことに必死で、涼と陸のことしか頭になかった。両親にまともなお墓を建ててあげる時間も、お金もなかったのだ。これからお金を稼いで、ちゃんとしたお墓を建てよう。せめて家族の魂が安らかに眠れる場所を作ってあげたい。兄の墓前に座り込み、結婚式で玲子に言われたことを思い返していると、心の中に復讐の炎が燃え上がっていく。霊園を後にした私は、そのまま家へ帰る。家と言っても、実際はただの狭苦しいボロアパートだが、涼と陸の荷物をすべて段ボールに詰め込み、ゴミ捨て場に放り捨てる。その時になって初めて気がつく。この家には、私の物が驚くほど少ないことに。この5年間、彼らの治療代のために、100円単位で切り詰めるような生活をしてきた。コーヒー一杯飲むことすら我慢してきたのだ。ちょうどその時、ドアが開けられ、涼が息を切らして入ってくる。私を見た瞬間、彼の強張っていた表情が和らぎ、大きく安堵の息を吐く。「やっぱりここにいたんだね」そう言って私を抱きしめようと近づいてくるが、冷たい視線に気づくと、手を引っ込めて距離を置く。部屋がガランとしているのを見て、涼は自分と陸の荷物が捨てられたことを察した。彼は信じ
頭への突然の衝撃に、私は無意識に玲子を放し、その場に立ち尽くしたまま呆然と陸を見つめる。お酒と血が混ざって流れ落ちてくるのに、不思議と痛みは感じていない。陸はまだ5歳だから、涼に唆されて玲子に懐いているのだと思っていた。でも今の様子を見れば、本心から玲子を慕っているのは明らかだ。「もう玲子ママにこれ以上ひどいことしたら、もっと頭ぶっ叩くからな!」陸は玲子を後ろに庇い、憎たらしいほど鋭い目つきで私を脅しつける。玲子は得意満面な顔で私を見ている。その表情はまるで、「ほらね、あなたが育てくれた子、結局あなたが嫌いなのよ」と言っているかのようだ。涼は事態の深刻さに気づいたのか、慌てて駆け寄って私の様子を気遣う。「ナナ、血が……はやく病院へ行こう」彼を突き飛ばそうとしたが、手には全く力が入らない。頭はどんどん重くなり、やがて目の前が真っ暗になって、私の意識は途切れた。再び目を覚ますと、病院のベッドに横たわっていた。涼と医者がベッドのそばで何か話している。医者は、過労と怪我が重なって倒れたのだと言う。時間通りに傷の処置をして、ゆっくり休めば良くなるとのことだ。医者が部屋を出て、涼はようやく私が目を覚ましていることに気づく。まるで悪さをした子供のように、おずおずと私を見る。「ナナ、具合はどう?痛むところはあるか?」「涼、離婚しましょう」私は彼の方を一切見ず、氷のように冷たく平坦な声で言い放つ。涼がしたことすべてに対して、私はただただ嫌悪感しか抱けない。これからの人生、二度と関わりたくない。涼の顔に、珍しく焦りの色が浮かぶ。どうしていいか分からない様子で私を見る。「ナナ、俺が悪かった。本当のことは俺から話すつもりだったんだ……こんなことになるとは思ってなくて……」その先の言葉は聞かなくても分かる。これ以上言い争う気すら起きない。「もう無理して嘘をつかなくていいわ。離婚して」「ナナ、俺は……」涼が必死に弁解しようとしたその時、玲子と陸が現れる。「涼、はっきり言ってあげたら?そもそも夫婦なんかじゃないって。だって、あの婚姻届は偽物なんだから」玲子は馬鹿にしたように私を見る。その口から放たれる一言一言が、鋭い針のように私の心に深く突き刺さる。私は顔を上げ、涼を見つめる。玲子の言葉が本当かどうか