グリオーマを患い、私の命は風前の灯火だった。だが幸運なことに、夫の桐生蒼介(きりゅう そうすけ)が天才脳外科医だ。国内でこの手術を成功させられるのは、彼しかいなかった。にもかかわらず、蒼介は私の手術を99回も強引に延期したのだ。そのすべてが、白石莉乃(しらいし りの)の「頭痛」を理由とする中断だった。腫瘍は想像を絶するスピードで肥大化していく。99回目のこと。骨の髄まで響くような癌の痛みに耐えかね、私は膝を突いて彼に哀願した。「蒼介、もうこれ以上延期しないで。私、本当に限界なの……」しかし蒼介は私を一瞥だにせず、きびすを返した。「結衣(ゆい)、いい加減にして。俺は医者だ。すべての患者に責任を持つ義務がある」癌の激痛が瞬時に私を飲み込み、頭が張り裂けそうなほどの苦しみの中、私は声を上げて泣き叫ぶしかなかった。手に検査結果を握りしめた看護師が、首を振ってため息をつく。「これ以上は限界です。今週中に手術をしなければ、手遅れになる恐れが……」泣き声がふいに喉の奥で詰まり、私は冷たい床にへたり込んだ。だが口角は勝手に吊り上がり、凄惨な笑みを浮かべてしまう。私はいったい、どこまで愚かなのだろう。彼の目に莉乃しか映っていないことも、私の生死など彼にとって取るに足らないことも、わかっていたはずなのに。それでも、わずかな哀れな幻想を抱き、自分の命を賭けてまで彼を信じようとしたのだ。今回ばかりは、本当に待つ余裕などない。震える手で電話をかけ、私はむせび泣きながら口を開いた。「治験グループに入ります。三日後、迎えの手配をお願いします」通話を終えた後、痛みを堪え、ふらつく足取りでベッドに這い上がった。また、前の98回と同じように待たなければならないのか。彼が莉乃をなだめすかし、香水の匂いを漂わせながら、のんびりとやって来るのを待たなければならないのか。そして「結衣はまたすねててね」と、事もなげに言い放つその瞬間を待たなければならないのか。まるで最初から最後まで、私ひとりが理不尽に騒ぎ立てているかのように。天井をじっと睨みつけながら、手術が延期されるたびに見せた、蒼介のあの冷淡な表情を思い出す。なのに、かつての彼は決してあんな風ではなかった。私の腫瘍が見つかったと知った時、蒼介は私
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