All Chapters of 冷めた花火、掴めぬその温もり: Chapter 1 - Chapter 9

9 Chapters

第1話

森本博一(もりもと ひろかず)が、七人目となる身重の愛人を私のもとへ連れてきた。彼女の出産に私を立ち会わせるためだ。彼の親友は、私が何秒で泣き叫び始めるかを賭けていた。だが、分娩室から赤ん坊の産声が響くまで、私の取り乱した声が聞こえることはなかった。「博一、これで七人目だぞ。奥さん、今度こそ本気で怒って口をきいてくれなくなるんじゃ?」博一は、どこ吹く風といった様子で答えた。「あいつは子供を産めない体だし、うちはこれだけの大企業を経営してるからな。どうせ遅かれ早かれ、跡継ぎのために他の女に産ませることになる。今のうちにたくさん産ませて、あいつを慣れさせておいたほうがいい」その言葉が終わると同時に、私は赤ん坊を抱いて部屋を出た。そして、助産師として告げた。「おめでとうございます。体重は3700グラムで、母子ともに健康です」博一は満足げに笑みを浮かべて子供を受け取ると、離婚届と離婚協議書を私に差し出した。「サインしてくれ。あの子をなだめるための芝居だ。離婚してくれないと二人目は産まないなんて、聞き分けのないことを言うもんだから。二人目が産まれれば、子供は全部で八人になる。そうなれば、もう誰もお前が森本家の妻にふさわしくないなんて言わなくなるさ」こんな茶番に、私はこれまでに七回も付き合ってきた。けれど今回は、迷うことなく書類に名前を書き入れた。そして、ある人からのプロポーズを受け入れることにした。博一は大きな勘違いをしている。私は産めないのではない。彼との遺伝子の相性が、致命的に悪いだけなのだ。子供が欲しいなら、相手を変えればいいだけの話。森本家の妻という肩書きのために、私が他人の子を育てるはずだと、彼は一体なぜ思い込めるのだろう。……署名を終えた離婚の書類を返した時、ちょうど阿久澤美香(あくざわ みか)が運ばれてきた。博一は急いで私を押しのけ、彼女のもとへ駆け寄った。まだ回復しきっていないお腹に痛みが走り、私の顔は一瞬で青ざめた。だが、私に気を留める者は誰もいない。皆が美香を囲み、口々に労いの言葉をかけている。私は壁を支えにしながら一歩ずつ歩き、ようやく自分のオフィスに戻った。机の上に置かれた切迫流産の診断書が目に入ると、視界が涙で滲んだ。博一の七人目の隠し子が産ま
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第2話

博一の秘書が、申し訳なさそうにドアのそばに立っている。「社長、阿久澤様がお呼びです」博一はすぐにスマホをしまい、急いで言葉を残した。「アイコンはしばらくの間、変えさせてもらう。美香を喜ばせるためだけだから、気にしないでくれ。あとで元に戻すから」そう言って、彼は足早に立ち去った。私は彼の背中が完全に消えるのを、静かに見送った。それから手元のスマホを操作し、十年間使い続けてきたペアのアイコンを変更した。トーク一覧の最上部にある博一とのトークのピン留めも解除した。彼はまだ知らない。私がサインした離婚届が、すでに弁護士の手に渡っていることを。弁護士がそれを役所に提出すれば、離婚が成立する。私たちにとって、「あとで」という未来は、もう訪れないのだ。仕事の引き継ぎを同僚に済ませ、私は自分の病室へ戻った。病室のテーブルには、キキョウの花束が飾られている。看護師が私を見て、にこやかにからかった。「ご主人は本当に立中先生を愛していらっしゃるのですね。毎日欠かさずお花をお届けになるなんて」私は彼女の不慣れな様子を見て、ふっと笑った。「新しく入った方ですか?」この病院で、夫の歴代の愛人たちを私が助産していることは周知の事実だ。私はとっくの昔から、皆の格好の噂の種になっている。――これが、愛というもの?看護師が言った「ご主人」とは、博一本人ではなく、彼の秘書だ。博一はいつも、こうした手配だけは抜かりがない。愛人が出産する時でさえ、妻である私を慰めるために花を贈らせる。看護師が答える前に、私はその花を彼女に差し出した。「これ、捨ててください。私、花粉症なんです」彼女は一瞬顔をこわばらせ、花を受け取ると、逃げるように去っていった。入れ違いに、博一からメッセージが届いた。【今日の花は届いたか?お前のために特別に選んだんだ】指が止まった。ふと、彼にプロポーズされた日のことを思い出した。会場は花で埋め尽くされていたが、その一輪一輪、すべてかずいが丁寧に取り除かれていた。薬指に指輪をはめられた時、彼の手にいくつもの傷があるのを見て、私は心配で涙を流した。彼は照れくさそうに、それを茶化して言った。「どうだ?一生忘れられないプロポーズにするって言っただろ。嘘じゃなかっただろ?」博
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第3話

二度目の延期の際、博一が囲っていた三人の女たちが揃って大きなお腹を抱え、式場に乗り込んできた。私は知り合いたちの笑いの種になった。三度目は、私が二人目の子を予期せず授かった時だった。彼は式の前夜、外で作った女たちの出産に私を立ち会わせた。分娩室を出た時、私の下半身はすでに血に染まっていた。その後も、彼は次々と身重の女を私の前に連れてきた。争いと諍いが日常となり、いつしかどちらも式の話題を口にしなくなった。私が十年も待ち続けても手に入らなかった結婚式を、美香はいとも容易く手に入れる。これまでの私の執着も迷いも未練も、すべてが滑稽な笑い話のようだ。私は瞬きをして、こみ上げる涙を無理やり押し戻した。そして、口角を上げて軽く微笑んでみせた。「いいわよ」博一は一瞬呆然とした。私があまりにもあっさりと受け入れるとは思っていなかったのだろう。彼は私の手を握り、優しい声で話しかけた。「秋奈、今回はすまない。いつか必ず、お前に最高の結婚式をプレゼントするからな」私はさりげなくその手を引き抜いた。「もう疲れた」目を閉じ、それ以上彼にかまわなかった。罪悪感からか、彼は珍しく不機嫌になることもなく、私の布団を整えてくれた。「ゆっくり休め。今夜はずっとそばにいてやるから」返事はしなかった。だが五分もしないうちに、唐突な着信音が響いた。博一は迷うことなく立ち上がり、低い声で「美香」と呼んだ。彼が去っていく時に巻き起こした風を肌で感じながら、私は目を開けた。彼が消えていく背中を見送り、スマホに届いた美香からの挑発的なメッセージを見つめた。【離婚したなら、さっさと荷物まとめて出ていってよ。いつまで私の家に居座るつもり?】【ばばあ、見苦しいわね。離婚してもまだ可哀想なふりして、人の彼氏を誘うわけ?】【私が電話一本すれば、博一は這いつくばってでも私のところに戻ってくるわよ。試してみる?】博一が去っていった方向を眺め、自嘲気味に口元を歪めた。分かっている。彼はもう、今夜は戻ってこない。美香がインスタに投稿した。写真には、膝をついて彼女の足を洗う博一の姿が写っている。彼女は得意げにこう書き添えている。【体を屈められないから、社長様に手を煩わせちゃった】わざわざ私をタグ付けして
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第4話

けれど、私の口元から流れる血を見た瞬間、博一は美香を抱きしめていた手を無意識に緩めた。その瞳に、動揺の色が走った。「秋奈、大丈夫か?今のは、その、わざとじゃ……」博一が歩み寄ろうとしたその時、美香が突然泣き出した。彼女は博一の腕にしがみつき、ひどく悲しげな声をあげた。「博一、私はただ助産のお礼を言いに来ただけなのに。それなのに秋奈さんは離婚協議書を持ち出して、私のことを泥棒猫だとか、恥知らずな不倫女だとか怒鳴りつけた」彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。自分の頬を押さえ、怯えたふりをしている。「私は博一と心から愛し合ってるだけだって伝えたら、いきなり叩かれたの。この家から出ていけ、なんて……」男の顔がみるみる険しくなるのを見て、美香の瞳には勝ち誇ったような光が宿っている。彼女はわずかにあごを上げ、私を挑発するように見せつけてきた。博一は迷うことなく私をベッドから引きずり下ろし、冷徹な視線を向けた。「秋奈、美香に謝れ」私は床に崩れ落ち、彼を見上げた。そして、ふと笑った。「まさか、彼女が泥棒猫や不倫女じゃないとでも言うの?なぜ私が謝らなきゃいけないの?阿久澤、もうそんな気持ち悪い自慢はやめたら?博一の不倫相手なんて、あなた以外にもまだ六人もいるよ」「黙って!」美香は悔しさのあまり、博一の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。私は這うようにして立ち上がり、博一を冷たい目で一瞥すると、一歩ずつ部屋を出て行こうとした。美香はさらに声を張り上げて泣き叫んだ。「秋奈さんが謝ってくれないなら、外の人たちにうちの子が隠し子だって後ろ指を指されちゃう!そんなの、死んだほうがマシだわ!」その直後、私の手首が力強く掴まれた。博一の瞳には、まるで仇敵でも見るかのような嫌悪が満ちている。「謝れ」彼は冷たく言い放ち、すぐさま低い声で脅しをかけた。「秋奈、忘れるな。集中治療室にいるお前のおばあちゃんの命は、俺が断ちたいと思えばすぐに断たれるのだ」そう言って、彼はスマホを取り出し、秘書に電話をかけた。「特効薬の供給を停止しろ」私は目を見開き、目の前の男を信じられない思いで見つめた。祖母が、この世で唯一の私の肉親だと、彼は知っているはずだ。それなのに、美香のために、祖母の命を盾に
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第5話

博一は、自分の声がどこへ消えてしまったのか分からなくなるほどのショックを受けている。彼は秘書との通話を一方的に切り、ふらつく足取りで集中治療室へと向かった。長年連れ添ってきた彼だからこそ、私がどれほど祖母を大切に思っているかを、誰よりも理解している。私の母はギャンブル依存症の父から暴力を受けて亡くなり、父は十年の服役を経ても私のことを顧みることはなかった。ただ一人、祖母だけが私と身を寄せ合って生きてきた。私を育てるために、年を取っても必死に働き続けてくれた。祖母は、この世界でたった一人の、私の家族だった。だからこそ博一は、祖母の存在を盾にして私を脅し、美香に謝らせた。博一の心臓は激しく波打っているが、彼は自分に言い聞かせ続けた。「そんなはずはない。あいつを脅すために言っただけだ。薬は止めてないし、何事も起こるはずがない」エレベーターを降りると、祖母の主治医と鉢合わせた。彼は慌てて医師の腕を掴んだ。「あのおばあちゃんはどうしてる?無事なんだろう?」医師は驚きのあまり目を見開いた。「亡くなりましたよ。奥さんも立ち会われていたはずですが、ご存知なかったのですか?」さらに医師は言葉を続けた。「研究所の方から、特効薬の供給を停止するとの連絡がありました。それで投与を中止したんです。ですが、直接の死因は激しい怒りとショックによるものでした。救命措置も間に合いませんでした。残念です。ご高齢の方は刺激に弱いものですから」そう言って、彼は含みのある視線を博一に向けた。「あなたと奥さんのことは、この病院のスタッフなら皆知っています。奥さんはこのフロアのスタッフ全員に、おばあちゃんを刺激したくないからと事情を伏せるよう頭を下げて回っていたんです。それなのに、昨日どういうわけかテレビに映っていたのは奥さんで……」それ以上の言葉を、医師は口にしなかった。博一は目を見開き、何かがおかしいと察知した。「どういうことだ?テレビとは何の話だ?」だが医師は、患者に呼ばれていると言い訳をし、逃げるように立ち去った。博一は呆然としたまま集中治療室へと歩を進めたが、そこにはすでに祖母の姿は見えない。かつて彼と私が祖母を囲んで笑い合ったあの光景は、もうどこにも残っていない。その瞬間、彼の胸は締め付け
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第6話

美香の弾んだ笑い声が聞こえてきた。「あのばばあ、本当に笑えるわよね。私が前の六人の馬鹿女たちと同じだと思ったら大間違いよ。あいつを追い出す手なんて、いくらでもあるんだから!」「あいつが跪いて自分の顔を叩きながら謝ってる動画、こっそり撮らせてネットに流してやったの。まさか気づいてないでしょうね」「病院のシステムをハッキングさせて、院内のテレビ全部であの映像を流してやったんだから!」「あ、そうそう。隠し子がいるってあいつを嘲笑ってたネットの動画も、全部一緒にね!」「この病院にいられないようにしてやるわよ!」「あいつは子供も産めない役立たずの恥知らずだって、みんなに思い知らせてやるんだから。使い物にならないくせに、いつまでも居座って邪魔なのよ」「あいつがあの老いぼれのことも大事にしてたみたいだから、自分の孫娘がどんな無様な姿を晒してるか、見せてあげなきゃと思って!」「特効薬一錠で何十万もするなんて、離婚した女のために博一が出してあげる必要なんてないでしょ!」「さっさとこの街から消え失せればいいのよ。私と博一の目の届かないところへね!」「あなたたちも待ってなさいよ。私が玉の輿に乗ったら、金持ちの御曹司をいくらでも紹介してあげるから!」周りの友人たちが、口々に相槌を打った。「美香、あなた凄すぎる!森本グループの社長と子供作ったんだもんね。あのばばあが消えたら、すぐ結婚するんでしょ?」「当たり前じゃない。博一は私のことを死ぬほど愛してるんだから。昨日のインスタ、見たでしょ?私の足を洗ってくれたのよ!」「結婚式の準備もしてくれるって言ってるし!」「二人目も産んでくれって、せがまれてるんだから!」「あのばばあ、私の邪魔をするなら容赦しないわ。自業自得よ!」彼女が言い放ったその瞬間、博一は部屋のドアを乱暴に蹴り破った。入ってきた人が誰なのか分かった瞬間、そこにいる全員の息が止まった。美香の友人たちは震え上がり、蜘蛛の子を散らすように彼女に別れを告げた。「美香、ちょっと用事を思い出したから、失礼するね……」美香は博一の、どす黒い怒りを湛えた表情を見ると、顔色を失い、慌てて口を開いた。「博一……今の、聞いてたの?違うの。説明させて。あなたの思ってるようなことじゃなくて……」だが博一は一言も発さ
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第7話

「秋奈の言う通りだ。俺の女はお前以外にもたくさんいる。お前と本気で結婚するつもりだとでも思ってたのか?」そう言い捨てると、博一は一度も振り返らずに立ち去った。美香は腰を抜かし、その場にへたり込んで震えている。その頃、私はS市の病院にあるVIP病室のベッドに横たわっている。傍らには、貞光廉(さだみつ れん)が静かに腰を下ろしている。「おばあさんの葬儀は、滞りなく済ませておいた。君が持ってた株についても、弁護士を通じてすべて安値で売り払った。今ごろ、森本グループは大混乱に陥ってるはずだ」「ありがとう」私は静かに告げた。祖母を亡くして悲しみに沈む私を見て、廉はそっと私の手を包み込んだ。その声には、深い後悔が滲んでいる。「もしもあいつが君をこんな風に扱うと分かってたら、あの日、僕は木の陰に隠れてなんかいなかったのに」私は戸惑いながら、彼を見つめた。廉は遠くを見つめながら、独り言のように話し始めた。「君がひどい目に遭ってたあの日、実は僕も駆けつけてたんだ。ただ、一歩遅かった」彼の瞳は、やりきれない思いで満ちている。「当時の僕は、腕力もなく、何の取り柄もない、ただの頼りないガリ勉だった。博一みたいに喧嘩もできず、君を守ることもできなかった。警察を呼んで、木の陰から君たちの様子を窺うのが精一杯だったんだ。君に声をかける勇気さえ持てなかった」私は驚きを隠せなかった。あの日、警察を呼んでくれたのは彼だったのか。廉は同級生だった。彼も博一と同じように、裕福な家の息子だった。対して私は、成績優秀による特待生として編入した苦学生。学級委員長だった廉は、何かと私のことを気にかけてくれていた。私の記憶の中の彼は、どこまでも優しい少年だった。短髪でたくましい今の姿からは、想像もつかないほどに。思わず観察する私に、彼はふっと笑みを浮かべた。「驚いたかい?君が博一と付き合い始めてすぐ、うちは倒産した。それから、母の実家がある田舎の学校へ転校した」彼は、傷跡の残る掌を私に見せた。そして、淡々と話を続けた。「家という後ろ盾を失ってからは、自分の拳だけが唯一の頼りだった」そう言うと、彼は熱を帯びた瞳で私を見つめた。「秋奈、僕はもう博一に引けを取らないつもりだ。自分の力
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第8話

「どこへ行ってたんだ、秋奈!俺が丸一年、どれほどお前を捜し回ったか、分かってるのか!お前がいなくなってから、俺がどんな思いで過ごしてきたか」私は手元のグラスを揺らしながら、小さく鼻で笑った。「森本社長、何を言ってるの?離婚届は受理されたはずでしょう。あなたと私の間には、もう何の繋がりもないわ。あるとすれば、死ぬまで決して相容れない、そんな仲というだけ。聞いたわ。この一年で森本グループはフォーチュン・グローバル500から転落したそうだね。お仕事は大変でしょう」博一は言葉を失い、その場で凍りついた。相手にするのも馬鹿らしくなり、背を向けて立ち去ろうとした。だが、その手首を強く握られた。「待て。家に帰ろう。今までのことはすべて水に流そう。あの子たちは全員、どこかに預ける。子供なんていらない。俺にはお前だけでいいんだ!秋奈、もう意地を張るのはやめてくれ。お願いだ!お前が株を安値で叩き売ったことだって、責めやしない。式を挙げたいと言うなら、いくらでも望み通りにしてやる。だから、一緒に帰ろう。お前の言うことなら、何でも聞くから」そう訴える彼の瞳は、赤く潤んでいる。「お前がいなくなってから、まともに眠れた夜なんて一度もなかったんだ!お前なしでは生きていけない」あまりの滑稽さに、私は思わず吹き出し、口を押さえながら言った。「まあ、それは大変。ぐっすり眠れないのは、育児に追われてるせいではなくて?七人もの子供がいるなんて、立派な父親として頑張ってね、森本社長」博一は言葉に詰まり、顔を歪めた。「怒ってるのは分かってる。誓う、これからは二度と隠し子なんて作らない!お前だけを一生大切にする。子供がいなくたって構わないんだ!」私はその手を力いっぱい振り払った。そして、愛おしそうに自分のお腹に触れた。「お断りよ」私は微笑みながら言った。「なぜ、あなたのために私が母親になる幸せを諦めなければならないの?あなたと授からないのなら、他の男と作ればいいだけの話でしょう」その言葉を聞いた瞬間、博一は完全に呆然とした。だが、すぐに激しい怒りが彼の顔を覆った。「裏切ったのか?他の男の種を宿したというのか!秋奈、俺たちの十年間は何だったんだ!よくも裏切ってくれたな!」
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第9話

そう言い捨てると、博一はいつも使っているマンションへと戻った。そこには、一人の女がいる。博一の姿を見るや否や、彼女は小刻みに震え始めた。「ひ、博一……お帰り」博一は、美香のお腹を容赦なく蹴り上げた。「汚らわしい口で俺の名を呼ぶなと言っただろう!」美香の震えはさらに激しくなった。彼女の顔を見るたびに、博一の腹の虫は収まらなくなるのだ。彼は美香を冷酷に見下ろした。「秋奈が戻ってきた。お前はさっさと彼女に謝れ。俺を許すように仕向けろ。すべてはお前の企みで、俺も騙されてたのだと説明しろ。あいつが俺のもとへ戻るなら、お前の命だけは助けてやる」美香はその言葉に一筋の望みを見出したのか、必死に頷いた。「分かった、今すぐ行くから!」そうして、婚約パーティーが幕を閉じた頃。見るに無惨な姿をした女が、私の行く手を遮った。「秋奈さん、お願い……博一を、いや、森本社長を許してあげて」彼女は手を揉みしだき、狂ったように私に縋り付いてきた。乱れた髪の間からのぞくその顔は、無残にも切り刻まれている。彼女はひたすら泣き喚いた。「全部、私が悪かったの!おばあさんを死なせたのも、私のせいなの!お願いだから社長を許して!彼のもとに戻ってあげて……じゃないと、私は殺されてしまう!」私は、もはや人の形を留めていないほどに痛めつけられた美香を一瞥した。そして、彼女の足元に広がる血の溜まりに気づいた。私は眉をひそめた。「また身ごもってるの?」美香の体がびくっと跳ねた。私は淡々と問いを重ねた。「あいつに蹴られたの?」美香は何も答えず、ただガタガタと震え続けている。そして、自分の頬を何度も何度も叩き始めた。「ごめんなさい、本当にごめんなさい!全部私のせいよ……お願い、助けて……」私は眉間に皺を寄せ、そのまま警察に通報した。「お話なら、署で伺うわ。それと博一に伝えて。一生、彼を許すことはないと」廉が歩み寄り、私の手を優しく取った。そして、床にへたり込んだ美香を冷ややかに見下ろした。「どこへ消えたかと思えば、森本社長が匿ってたのか」彼は私をかばうように後ろに下がらせた。「あとのことは僕が片付ける。君はもう気にしなくていい」私は小さく頷いた。お腹の子は、私がず
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