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冷めた花火、掴めぬその温もり
冷めた花火、掴めぬその温もり
作者: 灯り

第1話

作者: 灯り
森本博一(もりもと ひろかず)が、七人目となる身重の愛人を私のもとへ連れてきた。

彼女の出産に私を立ち会わせるためだ。

彼の親友は、私が何秒で泣き叫び始めるかを賭けていた。

だが、分娩室から赤ん坊の産声が響くまで、私の取り乱した声が聞こえることはなかった。

「博一、これで七人目だぞ。奥さん、今度こそ本気で怒って口をきいてくれなくなるんじゃ?」

博一は、どこ吹く風といった様子で答えた。

「あいつは子供を産めない体だし、うちはこれだけの大企業を経営してるからな。

どうせ遅かれ早かれ、跡継ぎのために他の女に産ませることになる。今のうちにたくさん産ませて、あいつを慣れさせておいたほうがいい」

その言葉が終わると同時に、私は赤ん坊を抱いて部屋を出た。

そして、助産師として告げた。

「おめでとうございます。体重は3700グラムで、母子ともに健康です」

博一は満足げに笑みを浮かべて子供を受け取ると、離婚届と離婚協議書を私に差し出した。

「サインしてくれ。あの子をなだめるための芝居だ。離婚してくれないと二人目は産まないなんて、聞き分けのないことを言うもんだから。

二人目が産まれれば、子供は全部で八人になる。そうなれば、もう誰もお前が森本家の妻にふさわしくないなんて言わなくなるさ」

こんな茶番に、私はこれまでに七回も付き合ってきた。

けれど今回は、迷うことなく書類に名前を書き入れた。

そして、ある人からのプロポーズを受け入れることにした。

博一は大きな勘違いをしている。私は産めないのではない。彼との遺伝子の相性が、致命的に悪いだけなのだ。

子供が欲しいなら、相手を変えればいいだけの話。

森本家の妻という肩書きのために、私が他人の子を育てるはずだと、彼は一体なぜ思い込めるのだろう。

……

署名を終えた離婚の書類を返した時、ちょうど阿久澤美香(あくざわ みか)が運ばれてきた。

博一は急いで私を押しのけ、彼女のもとへ駆け寄った。

まだ回復しきっていないお腹に痛みが走り、私の顔は一瞬で青ざめた。

だが、私に気を留める者は誰もいない。皆が美香を囲み、口々に労いの言葉をかけている。

私は壁を支えにしながら一歩ずつ歩き、ようやく自分のオフィスに戻った。

机の上に置かれた切迫流産の診断書が目に入ると、視界が涙で滲んだ。

博一の七人目の隠し子が産まれるわずか三日前、私はまたしても切迫流産を起こしていた。

これで三度目、子供を失った。

私が手術台で死にそうな思いをし、身元引受人のサインも得られず危篤状態に陥っていた時、博一は臨月間近の愛人を連れて、私との思い出の劇場でオペラを鑑賞していた。

そして、流産の手術から三日目。彼は深夜三時に、病床にいた私を無理やり叩き起こした。

新しく見つけた愛人の出産に、私を立ち会わせるために。

彼は血走った目で私を分娩室の前まで引きずり、声を詰まらせながら言った。

「秋奈、美香はまだ若くて何も分かってない。俺はお前しか信じられない」

その瞬間、私は黙って制服に着替えた。

騒ぐことも責めることもなかった。

かつてのように、気が狂ったように問い詰めることも。

声を枯らして泣き、助産師としてのプライドを捨ててまで助産を拒むことも、もうしなかった。

ただ淡々と、夫の愛人を分娩室へと押し入れた。まるで、見知らぬ妊婦に接するように。

十年間博一と共に過ごしてきた私には、彼が今回、本気でその女に心移りしていることが痛いほど分かっている。

机の上に置かれた博一とのツーショット写真に、そっと指を触れた。

顔に傷を負い、片手にギプスをはめた彼が、もう一方の手で私を抱き寄せ、無邪気に笑っている写真だ。

震える手で、その写真をフォトフレームから取り出した。

裏面には、力強い筆致でこう記されている。

【森本博一は、一生立中秋奈(たてなか あきな)を守り抜く】

あの日、18歳になったばかりの私は、ギャンブル依存症の父に夜の街へ売られそうになっていた。

博一は私を助け出すために、全身傷だらけになり、片手を骨折した。大好きだったバスケットボールも、二度とできなくなった。

それなのに、病院で笑顔を見せながら私と一緒に写真を撮り、誕生日を祝ってくれたのだ。

「怖がるな。これからは、俺がお前を守るから」

写真の中の彼の顔をなぞりながら、私は静かにつぶやいた。

「博一、あなたは一度私を救ってくれたけれど、私は三人の子供を失った。これで、貸し借りなしね」

写真を細かく破り、ゴミ箱へ捨てた。

そこへ、ドアを叩く音が聞こえた。

博一が入ってきて、中身のなくなったフォトフレームに目を留めた。

「俺たちの写真は?」

無意識にそう問いかけたが、私の答えを待つことなく、彼は興奮した様子でスマホを突きつけてきた。

「秋奈、この子の名前、何がいいと思う?」

その画面に並ぶ文字を見て、私は心臓を強く握りつぶされたような苦しみに襲われた。

それは彼が、私たちの最初の子供のために、何晩も辞書をめくりながら考え抜いた名前の候補リストだった。

そのうちの一つは今、神社に奉納されている提灯に刻まれている。

――そうか、彼は私たちの最初の子供の名前すら、忘れてしまったのだ。

私は彼の顔をじっと見つめた。そこには、再び父親になれた喜びが溢れ、穏やかで慈しみに満ちた笑みが浮かんでいる。

彼が私との子供のことを本当に忘れてしまったのだと、ようやく確信した。

あの子は確かに37日間、この世界に存在していた。遺伝子疾患のために生まれつき体が弱く、冬を越すことができなかった。

「秋奈?」

ぼんやりしている私を、博一が呼び戻した。

その顔から少し笑みが消え、不機嫌そうな色が混じっている。

「もう分かってくれたと思ってたんだ。何度も説明しただろう。

俺の立場上、跡継ぎがいないことは許されない。俺を愛してるなら、理解してくれ……」

その言葉を遮るように、私は静かに指をさした。

「これにしよう」

私が選んだ名前を見て、博一が驚いたように口を開こうとしたその時、背後で物音が響いた。
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