私・朝倉夢子(あさくら ゆめこ)は十年間、深夜ラジオパーソナリティを務めてきた。番組終了前の最後の生電話が繋がったのは、一人の女子大生だった。「朝倉さん、こんばんは。実は今、とても悩んでいて……胸が苦しいんです。大学の先生のことを好きになってしまって。彼には奥さんがいるはずなのに、私にはすごく優しくて……私が風邪を引いた時は手作りの料理を持ってきてくれたり、落ち込んでいると夜遅くまで話に付き合ってくれたり、旅行にも連れて行ってくれたりするんです……」彼女の話を最後まで静かに聞き終え、私はゆっくりと口を開いた。「……素敵な人に惹かれてしまうのは、自然な気持ちですよ。ただ、今は、まず学業を最後までしっかりやり遂げることが、何より大事だと思います。実は、私も高校生のとき、教育実習の先生にひそかに想いを寄せていました。でも、今の夫と出会って、初めて本当の恋愛や、大人の愛というものがどんなものかわかったんです。あなたにもきっと、本当にふさわしいような素敵な人が巡ってきますよ!」少女は意味深な笑みを漏らした。「本当にうらやましいです、先生の奥さま」頭の中で何かが弾けるような音がして、私ははっと顔を上げた。スタジオの外に、私の仕事が終わるのを待っている江口達朗(えぐち たつろう)の姿が見える。道理で、あの声に聞き覚えがあったんだ。彼のスマホの中で、何度も聴いていた声なのだ。ディレクターが焦ったように立ち上がり、イヤホン越しに「続けて」と急かす。達朗は暗い瞳でこちらを一瞥し、スマホを手にしたまま背を向けて歩き去った。私は深く息を吸い込み、笑みを作る。平静を装いながら解説を締めくくると、ちょうど五分ぴったりだ。十年間続けてきた深夜番組が、遂に静かに幕を下ろせた。音楽が流れ始めた瞬間、張りつめていた緊張の糸がふっと切れた。全身に冷や汗がにじむ。自嘲と諦めの入り混じったような笑みが、ふと唇にこぼれた。まるで、初めてマイクの前に座ったあの夜のようだ。周囲の同僚たちの視線が、妙に複雑だった。驚きと好奇、そして同情が、一筋縄ではいかない色合いで絡み合っている。「朝倉さん……」私はスマホを受け取った。番組名と私の名前が、もう検索ランキングに載っていた。【うわっ、やべえ!まさか番組終了後に、こんな大ネタ出る
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