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深夜番組と共に消え去る愛
深夜番組と共に消え去る愛
Author: 桃瀬乱破

第1話

Author: 桃瀬乱破
私・朝倉夢子(あさくら ゆめこ)は十年間、深夜ラジオパーソナリティを務めてきた。

番組終了前の最後の生電話が繋がったのは、一人の女子大生だった。

「朝倉さん、こんばんは。実は今、とても悩んでいて……胸が苦しいんです。大学の先生のことを好きになってしまって。

彼には奥さんがいるはずなのに、私にはすごく優しくて……

私が風邪を引いた時は手作りの料理を持ってきてくれたり、落ち込んでいると夜遅くまで話に付き合ってくれたり、旅行にも連れて行ってくれたりするんです……」

彼女の話を最後まで静かに聞き終え、私はゆっくりと口を開いた。

「……素敵な人に惹かれてしまうのは、自然な気持ちですよ。ただ、今は、まず学業を最後までしっかりやり遂げることが、何より大事だと思います。

実は、私も高校生のとき、教育実習の先生にひそかに想いを寄せていました。でも、今の夫と出会って、初めて本当の恋愛や、大人の愛というものがどんなものかわかったんです。

あなたにもきっと、本当にふさわしいような素敵な人が巡ってきますよ!」

少女は意味深な笑みを漏らした。

「本当にうらやましいです、先生の奥さま」

頭の中で何かが弾けるような音がして、私ははっと顔を上げた。スタジオの外に、私の仕事が終わるのを待っている江口達朗(えぐち たつろう)の姿が見える。

道理で、あの声に聞き覚えがあったんだ。彼のスマホの中で、何度も聴いていた声なのだ。

ディレクターが焦ったように立ち上がり、イヤホン越しに「続けて」と急かす。

達朗は暗い瞳でこちらを一瞥し、スマホを手にしたまま背を向けて歩き去った。

私は深く息を吸い込み、笑みを作る。

平静を装いながら解説を締めくくると、ちょうど五分ぴったりだ。

十年間続けてきた深夜番組が、遂に静かに幕を下ろせた。

音楽が流れ始めた瞬間、張りつめていた緊張の糸がふっと切れた。全身に冷や汗がにじむ。

自嘲と諦めの入り混じったような笑みが、ふと唇にこぼれた。まるで、初めてマイクの前に座ったあの夜のようだ。

周囲の同僚たちの視線が、妙に複雑だった。驚きと好奇、そして同情が、一筋縄ではいかない色合いで絡み合っている。

「朝倉さん……」

私はスマホを受け取った。番組名と私の名前が、もう検索ランキングに載っていた。

【うわっ、やべえ!まさか番組終了後に、こんな大ネタ出るとは!】

【上のコメントに答えると、ざっくり言えば、女子大生が自分の先生に恋しちゃった話で、パーソナリティが説教した後に、急にその女子大生がパーソナリティのことを「先生の奥様」って呼んで、即座に電話カットされたってこと】

【そのパーソナリティの夫は江口達朗、A大学法学部の教授らしい】

【皮肉すぎる。この人、さっきまで夫との仲がどれだけ良くて幸せか語ってたくせに。次の瞬間には──自分こそが『悲劇の主人公』だったっていうね。まさか自分がネタの中心になるとは】

……

たぶん、これがこの番組史上、最も話題になった瞬間だったんだろう。オフィスを出た途端、胃の痛みがさらに強まり、気力だけで駐車場まで足を引きずるように歩いた。

達朗は車の中で待っていた。後部座席には、彼が私のために買ってきてくれた花と贈り物が置かれている。

「若い子はまだわがままで分別がなくてね。代わりに謝っておくよ」

彼の声は淡々としていて、まるで取るに足らない出来事でも話しているかのようだった。

「お前の番組なんて、聴いてる人もほとんどいないんだから。大丈夫、そんなに影響ないさ」

そう言い終えると、彼は私のシートベルトを締め、エンジンをかけた。

私は笑った。歯を食いしばりながら。

「あの子のこと……何も説明してくれないの?私に」

彼はわずかに眉をひそめ、冷たい声で言った。

「どんな説明が欲しいんだ?俺は浮気をした。自分の教え子のことを好きになった。学校で残業していると言っていた時間の半分は、実際には彼女と一緒にいたんだ。この半年間、ほとんどお前に触れなかった。彼女が気にしていたからだ。

離婚したいなら、俺は構わないよ」

まるで心臓を握り潰されるような痛みを覚え、声が震えた。

「どうして……」

「浮気の理由って?冷めた、飽きた、疲れた……新しい刺激が欲しくなっただろうな」

彼はしばし沈黙し、指輪をいじりながら、ゆっくりと外した。

「自分のしたことが許されないと分かっている。でも、心が動いてしまったんだ。どうしようもなかった。彼女といると、生きていることを実感させられるんだ。

ごめん、夢子。本当はお前を傷つけたくなかったんだ」

涙で視界が霞み、彼の顔が歪んで見えた。

……

「夢子、俺がいる限り、誰にもお前を傷つけさせない」

彼がプロポーズしてきたのは、病院の中だった。

あの年、大晦日に私は母と年越しのため、実家へ帰省した。

まさか、母がまた、ギャンブルとDVに溺れた父とよりを戻そうとし、借金の代わりに私を大企業の社長の元へ差し出そうとしていたとは、思いもしなかった。

逃げ場を失った私は、二階の窓から飛び降りて逃げるしかなかった。

達朗はそれを知るとすぐに駆けつけ、私の両親を、言葉巧みに、時には脅すように説き伏せ、親子の縁を切る絶縁状へと署名させた。

私はその書面を呆然と見つめ、泣き笑いのような声を漏らした。すると彼は、一つの指輪を取り出した。

「お前から電話をもらった時、ちょうど母の遺品を整理していてね。慌てていたから、ついポケットにしまったまま飛行機に乗っちゃったんだ。

夢子、俺と結婚してくれ。家族になろう」

私は何度も頷いた。「はい」と言おうとしたが、喉が涙に詰まって、言葉にならなかった。

骨折が治ると、すぐに私たちは婚姻届を提出した。

愛していたはずのこの心が、冷め果てるまで、十年と持たなかった。

かつて「一生を共に」と固く誓い合った約束は、今や脆いプラスチックのようだ。見た目にこそ昔と変わらないが、指先でそっと触れただけで粉々に砕けてしまう。

スマホの着信音が、私を記憶の世界から現実へと引き戻した。

達朗がちらりと一瞥をした。もう私を避ける必要はないと思ったのか、そのまま車内で電話に出る。

向こうからは、かすかにすすり泣く声が漏れている。

達朗は穏やかな口調で言う。「大丈夫。落ち着いて家で待ってて。彼女を連れていくから」

エンジンがかかる。私は咄嗟に彼の腕をしっかりと握りしめ、どこへ行くのかと問い詰めた。

「美月が、お前に謝りたいって言ってるんだ」
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