誰よりも私・九条莉乃(くじょう りの)を愛してくれているはずの夫、九条柊吾(くじょう しゅうご)。妊娠を告げれば、きっと涙を流して喜んでくれる――そう信じて疑わなかった。なのに彼は、どこか申し訳なさそうな顔でこう言った。「ごめん、莉乃。俺、まだ父親になる覚悟ができてないんだ。子供はもう少し先延ばしにしないか?」身を切られるような思いだったけれど、私は彼の言葉を信じて、お腹の小さな命を諦めた。それから3年後。私は偶然、柊吾が見知らぬ女と手を繋ぎ、幼稚園の門から出てきた小さな女の子を迎えに行く姿を目撃してしまう。彼は満面の笑みでその子を抱き上げると、甘い声で囁いた。「結(ゆい)、今日は三歳の誕生日だね。パパから、グループの唯一の後継者の座をプレゼントしようか」仲睦まじく歩き去る「家族三人」の後ろ姿を見つめながら、私は全身の血が凍りつくのを感じた。――父親になる覚悟がなかったわけじゃない。彼はただ、私との子供が欲しくなかっただけなのだ。……夜、夫の柊吾が帰宅した。私の泣き腫らした目を見るなり、彼はスリッパに履き替えるのも忘れて大股で歩み寄り、私をきつく抱きしめた。その声には、痛いほどの思いやりが滲んでいた。「どうした?誰か莉乃に嫌なことでも言ったのか?教えてくれ、俺がそいつを許さないから」ようやく落ち着きかけていた私の心は、その甘い言葉のせいで再び激しく波立ち、堪えきれなくなった涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。九条グループの社長である柊吾が、筋金入りの愛妻家であることは業界でも有名な話だ。私と結婚してすぐ、彼は自分の秘書やアシスタントを全員男性に入れ替えた。夜の接待があれば必ずビデオ通話で報告してくるし、長年の友人が彼に女性をあてがおうとした時など、一切の躊躇なく縁を切ったほどだ。彼がどれほど私を愛しているか、誰の目にも明らかだった。とめどなく涙を流す私を見て、柊吾は苦しげに眉をひそめ、そっと指先で私の涙を拭った。「莉乃、一体どうしたんだい?お願いだから話して。君がそんな風に泣き続けていたら、俺まで胸が張り裂けそうだよ」心底心配そうに覗き込んでくる彼の瞳を見つめ返しながら、私は喉まで出かかった問い詰めの言葉をぐっと飲み込んだ。そして、小さく首を横に振ると、ゆっくりと口を開いた。「……う
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