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裏切りの代償〜風に消えた愛と、流れる雲〜
裏切りの代償〜風に消えた愛と、流れる雲〜
Author: キュートキャット

第1話

Author: キュートキャット
誰よりも私・九条莉乃(くじょう りの)を愛してくれているはずの夫、九条柊吾(くじょう しゅうご)。妊娠を告げれば、きっと涙を流して喜んでくれる――そう信じて疑わなかった。

なのに彼は、どこか申し訳なさそうな顔でこう言った。

「ごめん、莉乃。俺、まだ父親になる覚悟ができてないんだ。子供はもう少し先延ばしにしないか?」

身を切られるような思いだったけれど、私は彼の言葉を信じて、お腹の小さな命を諦めた。

それから3年後。

私は偶然、柊吾が見知らぬ女と手を繋ぎ、幼稚園の門から出てきた小さな女の子を迎えに行く姿を目撃してしまう。

彼は満面の笑みでその子を抱き上げると、甘い声で囁いた。

「結(ゆい)、今日は三歳の誕生日だね。パパから、グループの唯一の後継者の座をプレゼントしようか」

仲睦まじく歩き去る「家族三人」の後ろ姿を見つめながら、私は全身の血が凍りつくのを感じた。

――父親になる覚悟がなかったわけじゃない。

彼はただ、私との子供が欲しくなかっただけなのだ。

……

夜、夫の柊吾が帰宅した。

私の泣き腫らした目を見るなり、彼はスリッパに履き替えるのも忘れて大股で歩み寄り、私をきつく抱きしめた。その声には、痛いほどの思いやりが滲んでいた。

「どうした?誰か莉乃に嫌なことでも言ったのか?教えてくれ、俺がそいつを許さないから」

ようやく落ち着きかけていた私の心は、その甘い言葉のせいで再び激しく波立ち、堪えきれなくなった涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。

九条グループの社長である柊吾が、筋金入りの愛妻家であることは業界でも有名な話だ。

私と結婚してすぐ、彼は自分の秘書やアシスタントを全員男性に入れ替えた。夜の接待があれば必ずビデオ通話で報告してくるし、長年の友人が彼に女性をあてがおうとした時など、一切の躊躇なく縁を切ったほどだ。

彼がどれほど私を愛しているか、誰の目にも明らかだった。

とめどなく涙を流す私を見て、柊吾は苦しげに眉をひそめ、そっと指先で私の涙を拭った。

「莉乃、一体どうしたんだい?お願いだから話して。君がそんな風に泣き続けていたら、俺まで胸が張り裂けそうだよ」

心底心配そうに覗き込んでくる彼の瞳を見つめ返しながら、私は喉まで出かかった問い詰めの言葉をぐっと飲み込んだ。

そして、小さく首を横に振ると、ゆっくりと口を開いた。

「……ううん、何でもないの。今日、すごく悲しい映画を観たら、つい涙が止まらなくなっちゃって」

柊吾はあからさまに安堵の息を吐き、愛おしそうに私の鼻先を軽くつついた。

「もう、本当に心臓が止まるかと思ったよ。

まだ夕飯、食べてないだろ?今日は俺が腕を振るってやるよ。どう?」

私は小さく頷き、されるがまま彼に抱き上げられてダイニングの椅子に座った。

手慣れた様子でエプロンを身に着け、フライパンに油をひいて料理を始める彼の後ろ姿を見つめる。けれど、私の脳裏には今日の午後の光景が何度もフラッシュバックしていた。

あの小さな女の子を抱き上げ、満面の笑みで語りかける夫の姿。

『結、今日は三歳の誕生日だね。パパから、グループの唯一の後継者の座をプレゼントしようか』

三歳。

もし、あの子を諦めていなければ、私たちの子供も今年で三歳になっていたはずだった。

胸の奥にじわじわと苦いものがこみ上げてきた、まさにその時。キッチンからスマートフォンの着信音が鳴り響いた。

電話に出た柊吾の口調は、私には向けたこともないような冷たく厳しいものだった。

「仕事の後は連絡するなと言ったはずだ」

キッチンのガラス戸を隔てていても、電話の向こうからすがるような女の声がはっきりと聞こえてきた。

「ごめんなさい……莉乃さんと一緒にいる時に邪魔しちゃいけないって分かってるんだけど。でも、結がパパと一緒じゃなきゃケーキのろうそくを消さないって泣き止まなくて。どうしようもなくて、電話してしまったの。

莉乃さんが一番大切だってことは分かってる。でも、あなたはこの子の誕生日を一度も一緒にお祝いしてくれたことがないじゃない。お願いだから、今日だけは……」

そこまで聞こえたところで、柊吾は通話を切り、コンロの火を止めてキッチンから出てきた。

彼はひどく申し訳なさそうな顔を作って言った。

「ごめんね、莉乃。会社で急なトラブルがあって、どうしても俺が行かなきゃならなくなったんだ」

全身の血の気が引き、喉の奥が塞がったように息が詰まる。長い沈黙の後、私はようやく一言だけ絞り出した。

「……どうしても、行かなきゃダメなの?」

「ああ」

彼はジャケットを手に取り、急かすように慌ただしく靴を履く。それでも家を出る直前、いかにも私を気遣うような言葉を残すことは忘れなかった。

「何か軽くお腹に入れておいて。すぐ戻ってくるから、そしたらまたご飯を作るよ」

遠ざかっていく足音を聞きながら、私はダイニングチェアの上で膝を抱えて丸くなった。無意識のうちに、またハラハラと涙がこぼれ落ちる。

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