結婚7年目。夫の谷山恭介(たにやま きょうすけ)は私の両親の骨壺を掘り起こして私の目の前にドンと置き、二つの選択肢を突きつけた。「君のデザイン原稿を莉奈のコンクール用に渡すか、それとも君の両親の骨を海に撒かれるか。どっちか選べ」私は描き上げたばかりのデザイン原稿を握りしめ、涙を呑んで従うしかなかった。翌日、クルーザーの上で嬉しそうに骨を海へ撒く白川莉奈(しらかわ りな)の写真がネットで大バズりした。恭介はその写真にこうコメントを残していた。【俺のすべてを捧げて、君を甘やかそう】写真の隅に写り込んでいる骨壺を見て、私は全身の血が凍りつくのを感じた。私と亡くなった両親は、恭介が莉奈の機嫌を取るためのただの道具でしかなかったのだ。こんな男、もういらない。……莉奈のSNSを開くと、その投稿にはすでに1万件以上のコメントがついていた。【私だけへの特別な愛。それが私の、何でも思い通りにできる特権】短い一文だが、その一文字一文字から、恭介の彼女に対する偏愛が滲み出ていた。投稿された写真は、ネットでバズって真似する人が続出しているクルーザーでの散骨ショットだ。だが、誰も知らない。莉奈が撒いているのが、私の両親の遺骨だということを。私は壁掛けのテレビに目をやった。画面の中では、莉奈が私のデザイン原稿を使って若手デザイナーコンクールの優勝トロフィーを受け取っていた。プレゼンターを務めているのは、他でもない恭介だ。司会者に莉奈へのコメントを求められると、普段は人前で決して口を開かない恭介が、珍しくマイクを握った。「白川莉奈さんは、私がこれまで見てきた中で、最も才能に溢れたデザイナーです」莉奈は幸せそうな笑顔で、「私のインスピレーションはすべて、私を世界で一番愛してくれている、この人から貰ったものです」と言った。会場に響き渡るファンの歓声が、この授賞式を最高潮に盛り上げていた。頬に手をやると、そこはいつの間にか涙で濡れていた。かつて月明かりの下で、「命に代えても、君と君の夢を守り抜く」と誓ってくれたあの男の目には、今や別の女しか映っていない。私は弁護士に電話をかけ、自宅に来るよう伝えた。そして、金庫から離婚届を取り出した。これは結婚当初、恭介が署名を済ませて私に渡したものだ。「もし俺
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