誰もが口を揃えて言う。四棟館の三人には、絶対に関わるなと。東棟の神代朔(かみしろ さく)――南山病院の「閻魔様」。そのメスは人を救いもするが、命を奪うこともできる。南棟の九条司(くじょう つかさ)――法廷における不敗神話。黒を白と言いくるめる男。西棟の鷹宮蓮(たかみや れん)――報道界の頂点。世論操作など、彼にとっては造作もない。けれど――本当に触れてはいけないのは、北棟。なぜなら、その三人すべてが、北棟に住む財閥令嬢の私――一ノ瀬綺夏(いちのせ あやか)に、狂ったように愛を捧げているから。成人式の日、私は朔との結婚を選んだ。それでも司と蓮は、この館を離れようとしなかった。「結婚しない。ここも出ない。一生、お前のことだけ見てる」そう言い切ったまま、三年が過ぎた。――そして、結婚三周年の日。私は震える手で妊娠検査薬を握りしめていた。血液凝固障害のリスクを承知で、それでもこの子を産みたいと、朔に伝えようとしていた。けれど、私を待っていたのは――母が事故で集中治療室に運ばれた、という一本の電話だった。病院に駆けつけた私に、朔が差し出したのは――救命処置のではなく、臓器提供の同意書だった。司の手には、母が「飲酒運転をしていた」という偽造された証拠。蓮のメディアは、すでに母を貶める記事を用意していた。喉が裂けるような声で、私は叫んだ。「……どうして?」朔は淡々とした目で言う。「お義母さんが、真凛(まりん)の母親をはねて心不全にした。心臓で償うのは当然だろう」司は優しく私の頭を撫でた。「お前、子供は欲しくないって言ってただろ?真凛が妊娠した。その子はお前が育てればいい」蓮は笑みを浮かべて続ける。「安心しろ。俺たちは、その子をお前が産んだとして愛してやる」モニターのビープ音が、耳元で炸裂した。母は集中治療室のベッドの上で、四肢を不自然な方向に歪めたまま横たわっている。朔の白衣は、すでに血で真っ赤に染まっていた。それでも彼はまったく動じず、相変わらず冷静なまま、臓器提供同意書を指先で示して言った。「いい子にして、署名しろ。お義母さんは飲酒運転で人をはねた。心臓ひとつで償うなら、むしろ軽いだろう。安心しろ。お前の母親だから。最新型の人工心臓を入れてやる。五年ごとに開胸して交換す
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