「俺に、そんな力あらしません……。槇村会長は、すべてお見通しでした」宇治宮の指先が、燻る煙草を支えきれずに小さく震えている。その微かな震動は、彼が拠って立つ足場がすでに崩れ去っていることの証明だった。「取引相手は、六穣会だけやない……」吐き出された言葉は、乾いた夜風に宛てもなく霧散していく。見え透いた虚勢。それは、溺れる者が藁の代わりに掴んだ、あまりにも脆い刃のようだった。その無様な足掻きを、京司はただ冷ややかに見下ろしている。唇の端に刻まれたのは、憐れみすら削ぎ落とされた酷薄な笑みだ。「大阪港湾は、すべて六穣会の手の中ですよ」京司の低い声が、夜の闇に宣告のように響く。その一言は、宇治宮が必死に守ろうとした最期の幻想を、容赦なく踏みつぶしていった。「港なら、こ、神戸や東京かて……」宇治宮の口から漏れたのは、未練という名の泥に足を取られた男の、見苦しい足掻きに過ぎなかった。「好きにしてください。俺はもう……降りさせてもらいます」京司の言葉は静かだったが、そこには切り落とされた大木のような、絶対の拒絶が横たわっていた。彼は重力に抗うように、ゆっくりと、しかし確実に腰を上げる。「そんな道理が通ると思うとんのか‼」宇治宮の咆哮が、狭い室内の空気を狂暴に震わせた。それは、崩壊しゆく己の領土を必死で繋ぎ止めようとする、老いた獣の断末魔のようでもあった。「絶縁でも破門でも、好きにしてください」吐き捨てるように告げ、京司は襖に手をかけた。背を向けたその瞬間、背後から。「絶縁? 破門? ――そんな生ぬるいもんで済むと思うとんのか」地鳴りのような宇治宮の声が響いた。それは怒りという名の濁流となって室内に溢れ、京司の背中に鋭い刃のように突き刺さる。京司の戸惑いを押し潰すようにして、宇治宮が荒々しく襖を開け放った。乾いた衝撃音が廊下に響き渡り、彼の叫びが空間を切り裂く。「おいッ! こいつを地下に連れていけ!」凍りついていた空気が一瞬で反転する。屋敷の闇に潜んでいた男たちの足音が、うねりのように一箇所へと収束していった。京司を取り囲む男たちの間で、じりじりと肌を刺すような緊張感が高まっていく。「はようせぇ!」宇治宮の、焦れたような怒号が再び響いた。けれど、誰も動けない。男たちは互いに視線を泳がせ、困惑を隠せ
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