「あの老い損ないめ、どこまで恥の上塗りを…」京司の五指は掌に深く食い込み、怒りのあまりその輪郭を震わせていた。対する槇村の視線には、いっそのこと残酷なほどの静寂が宿っている。まるで、檻の中の猛獣を観察するかのような、絶対的な俯瞰。「……六穣会は今後、大阪港を九条組には一歩たりとも踏ませない。これが意味する断絶を、君が理解できないはずはないよね。実際六穣会にはそれが可能だ。うちは大阪港湾の利権の全てを掌握している。だからこれからの大阪港に九条組の影すら落とさせない。あの老害が別の流通ルートをゼロから開拓するなんて技、可能だとは到底思えないけどね」大阪湾の利権は、六穣会の絶対的な不可侵領域だ。九条組という老舗のブランド力をもってしても、そこに割り込む隙間など一ミリも残されてはいなかった。「薬なんぞ売らんでも、九条組は……死んじゃいません!」京司の絞り出すような怒号は、槇村の耳には、壊れたスピーカーのノイズ程度にしか響かなかった。「暴対法で首が回らないのは、君だってわかってるはずだ。看板だけで飯が食えた時代はもう終わったんだよ。九条組のようなオールドタイプの組織は、その毒(薬物)で命を繋ぎ止めねば、あとはただ枯れ果てるのみだ」京司の足元で、彼を支えていた世界が地鳴りを立てて崩れてゆく。仁義という名の虚飾、任侠という名の幻想、血の盃という名の呪縛。かつては彼の魂のすべてを形作っていたはずの絶対が、今や、祭りのあとに捨て置かれた安物の飾り物のように、惨めに、冷え冷えと転がっていた。「六穣会かて…同じ穴のムジナじゃないんですか!」京司の語尾は激しく波立ち、荒ぶる感情を隠そうともしなかった。対照的に、槇村の表情は氷のように凝固したままである。「うちは薬物には手を出さない方針でね。そんな不確かなリスクを背負う理由がないんだよ、六穣会は」槇村は皿の料理を綺麗に片付けると、ごく自然な動作で次の小鉢へと手を伸ばした。その平然とした捕食者のごとき佇まいが、京司の焦燥をいっそう深く削り取っていくようだった。「うちの命脈は、地下のカジノと、海の向こうで動く莫大な不動産取引にある。古臭い縄張りのあがりや、みかじめ料なんていう端金が、この巨大な組織をどう養うというんだい?」槇村の紡ぐ正論は、京司の守ってきた古い世界を容赦なく
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