「……もういいよ。入れてあげて」優奈がそう言った。「でも……」陽菜はまだ少し不安そうだった。優奈はスマホを見せた。「晴臣がもう下まで来てるの。すぐ上がってくるって。ドアを閉めなければ大丈夫だから」そこまで言われて、陽菜はようやく手を放し、ドアから離れた。浩一はそのまま中へ入ってきた。彼は室内をゆっくり見回した。全体にすっきりとした雰囲気で、やわらかな色味でまとめられている。リビングには、よく知られた絵画が何点も飾られていた。浩一はすでに優奈のことを調べていた。美術を学んでいて、絵を描くことや写真、彫刻が好きなことも知っている。この家のしつらえは、たしかに彼女の専攻や趣味にぴったり合っていた。絵画のほかにも、家の中には精巧な彫刻作品がいくつも置かれていた。「もし女優にならなかったら、芸術家になりたいな。彫刻とか絵とか、そういうのを勉強してみたい……」かつて瑞希が口にした言葉が、浩一の脳裏をぐるぐると巡った。彼は美しい彫刻が並ぶ小さなテーブルの前まで歩み寄り、その上の作品を指さして尋ねた。「これ、全部君が彫ったのか?」「はい」優奈は昔から、物事をなるべく悪く取らず、人のことも善意に受け止める性格だった。陽菜が言うように、この人が異常な人間だという見方にはあまり賛成できなかった。むしろ、最愛の人を失った一途な男なのだと信じたい気持ちのほうが強かった。ただ、自分がたまたま彼の深く愛したその人によく似ていただけなのだ。だから浩一に対して、彼女はそれほど悪感情を持っていなかった。「暇なときに彫っただけの小さいものばかりだけど、気に入ったなら一つあげてもいいですよ」「いや、いい」浩一は苦く笑った。彼は顔を上げて優奈を見つめ、胸がかすかに震えるのを抑えられなかった。彼の中では、二つの思いがせめぎ合っていた。一つは、目の前にいる彼女は瑞希ではないという現実だった。たしかに瑞希もこうしたものは好きだった。だが、専門的に学んだことのない彼女に、ここまで完成度の高い作品を彫れるはずがない。けれどもう一つの思いが、それでも彼を引き留めていた。たとえ別人だとしても、彼女は瑞希と同じ顔をしている。しかも、そばにいるだけで不思議と心が落ち着いていくのだ。たとえ別人だったとして、それが何だというのだろう。
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