何年過ぎても、君とはもう逢えない의 모든 챕터: 챕터 11 - 챕터 20

24 챕터

第11話

美桜が朔夜に連れて来られたとき、浩一が気を変えて瑞希とは結婚せず、自分を花嫁にするつもりなのだと思っていた。胸の内では有頂天だった。自分の勝ちだと思ったのだ。「浩一さん、もしかして私と結婚するつもり――」美桜が言い終える前に、浩一が怒りにまかせて突進してきて、そのまま彼女の首をつかみ、激しく問い詰めた。「瑞希はどこだ?お前が隠したんだろう!!」「げほっ……げほっ……」浩一の力は強かった。美桜は首を締め上げられ、激しくむせ込み、息もできなくなりそうだった。「放して……浩一さん、お願いだから、先に放して……」美桜は必死に彼の手を叩き、もがいた。浩一は彼女を乱暴に突き飛ばし、怒鳴るように問いただした。「言え、瑞希はどこにいる?!」「何を言ってるの……私……私、知らない」「げほっ……げほっ――」ようやく新鮮な空気を吸えるようになり、美桜は胸を押さえて荒く息をついた。怖かった。こんなにも恐ろしい浩一を、彼女は見たことがなかった。「美桜、まだしらばっくれる気か?」浩一は瑞希のスマホを彼女の前に叩きつけた。「なんで余計なことを瑞希に吹き込んだ?」浩一の反応を見て、美桜は心の中で、瑞希は身を引いたのだろう、結婚式から逃げたのだろうと思った。それはむしろ彼女の望みどおりだった。胸の奥に得意げな感情がよぎった。だが、その優越感もすぐに消えた。瑞希が姿を消したのに、浩一はそれでも自分と結婚するつもりなどまったくないのだ。「もし瑞希がいなくなったことにお前が絡んでるとわかったら、そのときは絶対に許さない。生きてるのが地獄だと思うくらい、後悔させてやる」「失踪って何よ?私には関係ない!私はただ、私たちのことを彼女に教えただけ。それ以外は何もしてない!」美桜は浩一の手をつかみ、すがるように言った。「浩一さん、私もう妊娠してるのよ。このことはどうしたって瑞希さんには隠しきれない。いつかは知られるんだから。今知ってもらったって、むしろいいじゃない。私たちのことを受け入れられないってことは、瑞希さんはあなたをそれほど愛してないってことよ。そんな相手と結婚したって、最後はどうせ別れるんだから。だったら最初から――」パシン――浩一は、美桜の口から「瑞希が自分を愛していない」などという言葉を聞くことに耐えられなかっ
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第12話

ぽたり――涙が黄ばんだ日記帳の上に落ち、そこに並ぶ端正な文字をにじませた。瑞希が子どもを産めなくなったのは、十八歳のとき、浩一をかばって刃物を受けたからだった。あのとき二人は強盗に襲われ、犯人はナイフを持って浩一に切りつけた。瑞希はとっさに飛び出して彼をかばい、その刃で子宮を傷つけられた。そのせいで、彼女はもう妊娠できなくなったのだ。それなのに浩一と阿部夫人が、そのことを理由に彼女を見限っていたなんて、瑞希は夢にも思わなかっただろう。「瑞希……違う、そうじゃない。子どもを産めないからって、お前を手放そうなんて思ってない。瑞希、俺が悪かった。全部俺が悪い。お前がいないと駄目なんだ。もう何もいらない。子どもだって必要ない。だから許してくれ、頼む……」浩一は部屋に鍵をかけ、瑞希の日記帳を抱きしめたまま、子どものように声を上げて泣いた。十分あまり経ったころ、彼は日記帳を閉じて部屋から出ると、ドアの前で待っていた秘書に命じた。「今すぐ空港も、高速の入口も、駅も全部押さえろ。必ず瑞希を見つけ出せ!」「かしこまりました、社長」だが実際には、瑞希が去るのに交通手段など必要なかった。彼女が確認ボタンを押した次の瞬間、システムはすでに彼女を別の国へ転送し、新しい身元まで用意していたのだ。ただ、そのことを浩一は知るはずもなかった。美桜は浩一に平手打ちされたあと、ようやく事の重大さを思い知った。このときになって、彼女は初めて理解したのだ。瑞希が浩一にとって、どれほど重い存在だったのかを。たしかに瑞希は浩一にとって大切だ。けれど、自分の腹の中にいる二人の子どもだって、阿部家にとっては同じくらい重要なはずだ。お腹の子どものためにも、自分が無事に阿部家へ入るためにも、美桜は阿部夫人に電話をかけた。「おばさま、美桜です……瑞希さんが私の妊娠を知って、結婚式から逃げたんです。どうしたらいいですか?」「え?」阿部夫人は美桜からの電話を切ると、すぐに浩一へ電話をかけた。そのころ浩一は床に力なく座り込み、瑞希の日記帳を抱きしめたまま泣いていた。彼はどうしても、瑞希が跡形もなくいなくなったとは信じられなかった。だからまだほんのわずかな望みにすがって、部下たちが彼女を見つけてくるのを待っていた。見つけさえすれば、き
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第13話

「申し訳ありません、阿部様。こちらの戸籍資料とパスポートは、いずれも確認が取れず、公的な証明書類としてはお使いいただけません」浩一は信じられず、秘書にアプリを開かせて瑞希の航空券を手配させた。何度やっても、パスポートが違うと言われるか、名前が違うと言われるかのどちらかだった。やむなく警察署まで足を運んだが、そこで瑞希という身元そのものが実在しないことを知った。「そんなはずあるか?俺を騙しているんじゃないのか?まさか瑞希に頼まれて、俺を騙してるのか?」どうして急に、この世に存在しない人間のようになってしまったのだろう。「写真は?警察のシステムなら、写真照合ができるんじゃないのか?」浩一は瑞希の写真を取り出し、警察の担当者に照会させた。だが結果は同じだった。システム内に、その人物は存在しなかった。「どうしてこんなことに?」浩一が初めて、自分の力に疑いを抱いた瞬間だった。彼は思った。もしかすると、瑞希の背後にはとてつもなく力のある人物がいて、彼女の身元を作り変え、自分の世界から完全に消し去ったのではないかと。でなければ、今目の前で起きているすべてをどう説明すればいいのだろう。あるいは、瑞希は去ったわけではなく、すぐそばで自分を見ているだけなのではないか。きっとそうだ。彼女はきっと、彼のことをそれだけ強く想っているからこそ、わざとここまで徹底して姿を消して、彼を追い詰めようとしていたのだ。そうだ、間違いない。ならば次に自分がやるべきことは、美桜を処理することだった。彼はすでに美桜に与えていたものをすべて取り戻していた。あとは、彼女の腹の子を始末するだけだ。そうすれば、瑞希は戻ってくるかもしれない。浩一は警察署を出ると、その足で美桜のもとへ向かった。しかし美桜は、浩一が自分に与えていたものをすべて取り上げた時点で、次は自分の腹の子に手をかけるつもりなのだと察していた。だから彼女は身を隠した。「一日だけ時間をやる。美桜を病院へ連れて行って、子どもを堕ろさせろ」浩一は秘書に厳命した。阿部夫人がどれだけ取りなしても無駄だった。彼の態度は断固としていて、何があっても美桜の腹の子を下ろすつもりだった。「浩一、早まらないで……瑞希ちゃんがどんな子か、あなたもわかってるでしょう?もし本当にあなた
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第14話

だが、美桜の腹の子は、阿部夫人が死んでもいいとばかりに食い下がった末、結局産ませることになった。その代わりに、浩一は阿部夫人に親子の縁を切ると書いた書面を突きつけ、阿部家とはもう関わらないと言い放った。阿部夫人は阿部グループの株式を30%握っており、そこに浩一の祖父の持つ15%が加わって、最大株主となった。浩一は阿部夫人と争おうとはせず、自ら阿部グループの社長職を辞した。そして毎日、ただ一つのことだけをしていた。瑞希を探すことだ。彼はかつて瑞希と訪れた場所を、片っ端から巡った。この街から隣の街へ、隣の県へ、さらに海外にまで足を伸ばした。街中で少しでも彼女に似た人影を見かければ、必ず追いかけて確かめた。けれど結局、どれも彼女ではなかった。浩一はそうして半年以上も探し続けた。夏から冬になるまで。それでも、何一つ手がかりは得られなかった。阿部夫人も結局は年齢には勝てず、しかも今の時代は昔とは違う。彼女の考え方ではもうついていけず、阿部グループは彼女の経営のもとで次々と問題を起こした。株価は下がる一方で、何度も資金繰りが危うくなった。社内の株主たちは彼女への不満を強め、浩一を会社に戻して再び経営を任せるべきだという声を次々に上げた。どうにもならなくなった阿部夫人は、とうとう浩一に電話をかけた。だが案の定、彼は電話に出るなり皮肉たっぷりに言った。「俺に電話してきて何の用だ?あの女の腹の中には跡継ぎが二人いるんだろ。生まれたら、そのうちの一人に継がせればいいじゃないか」「浩一、お願いだから……母さんが頼むわ。あなたが戻ってきてくれないと、阿部グループは本当に潰れてしまうの」「俺はもう阿部家とは縁を切った。阿部グループが潰れようが、俺に何の関係がある?」「浩一、あなた本気でそこまで突き放すつもりなの?私のことはもうどうでもいいとしても、美桜のお腹の子はあなたの子なのよ!」「そうか?あいつら……本当に俺の子なのか?」浩一は見知らぬ相手から送られてきた動画を見ながら、冷たく笑った。「浩一、それどういう意味?」阿部夫人は訝しげに尋ねた。「もうすぐ生まれるんだろ?」と浩一は逆に問い返し、少し間を置いてから続けた。「生まれたらわかる」浩一が持っていたその動画には、美桜が見知らぬ男と頻繁にホテルへ出入りす
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第15話

子どもたちは案の定、阿部家の血筋ではなかった。「高瀬美桜!!」阿部夫人は怒り狂って病室に乗り込み、手にしていた親子鑑定書を彼女の前に叩きつけた。「このクズ女、よくも私を騙したわね!!」「お義母さん……私じゃありません、何かの間違いじゃ?」「今さらまだ誤魔化そうっていうの!?」阿部夫人は思った。この子どもたちのことで実の息子とは縁が切れ、十年以上も可愛がってきた嫁まで失ってしまったのだと。胸が引き裂かれるようだった。「違う……あっ……」美桜が言い終える前に、阿部夫人はそのまま平手打ちを食らわせた。「全部あんたのせいよ!あんたのせいで息子には見限られ、瑞希ちゃんまで追い詰めて出て行かせた!それだけじゃない、あんたのせいで阿部グループは株価まで暴落して、今や会社は火の車よ!この疫病神、ただじゃおかないから!」怒りが頂点に達した阿部夫人は、美桜の首を締め上げながら何度も平手打ちを浴びせた。この数か月、自分がどれほど美桜に気を遣ってきたかを思い出していた。ろくに食べられないんじゃないか、眠れていないんじゃないかと気を揉み、身を粉にして世話をしてきた。機嫌を損ねないように、バッグや腕時計まで買い与えた……まるでお姫さまにでも仕えるみたいに、機嫌を損ねないよう気を遣って尽くしてきたのだ。なのに最後には、彼女の腹の子は阿部家の子ではなかった!「あなた……私は本当に、あなたに申し訳ないことをしたわ。よその子を、危うくうちの孫だと思い込むところだった……どうしてこんなに愚かだったのかしら……」阿部夫人は亡き夫に向かって、震える声でつぶやいた。美桜は首を締め上げられ、息も絶え絶えだった。もともと早産の出産直後で身体は弱りきっていたのに、今は阿部夫人に殴られ、首まで絞められ、縫合した傷口まで開いてしまった。痛みで顔は激しく歪んだ。「助けて……この人、私を殺す気よ!」美桜は大声で助けを求めた。だがここは阿部グループが出資している私立病院だ。医者も看護師も、誰一人として彼女を助けに前へ出ることはできなかった。阿部夫人が怒りをぶつけ終えた頃には、美桜はもう虫の息だった。阿部夫人は感情を吐き出し終えると病室を出て、真っ青な顔のまま廊下の医療スタッフに言った。「様子を見てきなさい……でも、あの女には生き地獄を味わわせるの
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第16話

その声とともに現れたのは、すらりと背の高い青年だった。「来たばかりだよ」優奈は、席に着いた男へメニューを差し出した。「何飲む?」「生ココナッツラテを一杯。ミルク追加、砂糖あり、氷少なめで」男は店員にそう告げると、半分ほどコーヒーを飲んでいた優奈を見て言った。「君、スイスロール好きだよね。二つ頼む?」「いいよ」優奈は笑ってうなずいた。向かいに座るその男は城崎晴臣(しろさき はるおみ)という。彼女の先輩だ。正確に言えば、お見合い相手だった。大学時代、二人にほとんど接点はなかった。だが最近、親から結婚を急かされて一度会ってみたところ、同じ大学の出身だとわかり、そのまま連絡先を交換してやり取りするようになった。好きかどうかまではまだ自分でもよくわからない。けれど優奈は、少なくとも彼を嫌ではなかった。それで二人は意気投合し、これ以上親に結婚を急かされないためにも、とりあえず付き合う前提でお互いを知っていくことにして、それぞれの親の相手も手伝い合うことにした。これが、お見合いのあと三度目に会う日だった。とはいえ、見合いをしたのは二日前のことだ。昨日は晴臣にテニスに誘われ、今日はこうしてコーヒーと買い物に誘われている……優奈は思った。きっと彼はフィンランドに来たばかりで、暇なのだろうと。だからコーヒーを飲み終えると、優奈は彼の買い物に付き合った。晴臣の買い物に付き合うはずだったのに、最終的に大量に物を買ったのは優奈のほうで、その支払いは全部晴臣が済ませていた。「あの……今日いくら使った?あとで振り込むよ?」優奈だって払うつもりがなかったわけではない。ただ、彼女が何かを見終わって、買うかどうかまだ迷っているうちに、晴臣が先に会計を済ませてしまっていたのだ。「いいよ。このくらいで返してもらうなんて、さすがに格好つかないだろ」「いや、そういう問題じゃないでしょ。私たち、まだただの知り合いみたいなものなんだから、こんなふうにしてもらうのは気が引けるよ」「どうしても礼をしたいなら……」晴臣は少し身を乗り出し、優奈のほうへ顔を寄せて続けた。「明日、俺にご飯をごちそうしてよ。海辺にいいレストランがあるんだ。味もいいし、景色もすごくきれいだよ」「じゃあ、そうする」優奈はそう答えたあとで、遅れて何かがおかしいことに
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第17話

優奈のコーヒーを注文しようとしていた手が、ふいに震えた。まさか。本当にそこまでのクズなの?はあ……この世にまともな男なんていないのかな。優奈は複雑な気持ちで、向かいの男を見つめた。けれどふと、彼がクズ男でいてくれたほうが、むしろ都合がいいような気もしてきた。さもないと、さっきの食事代を自分で払っていたら、来月の生活費さえ危うかったのだから。【わかった。コーヒー飲んだら帰るね】優奈はメッセージを返すと、何食わぬ顔でコーヒーを注文した。コーヒーを飲み終えると、晴臣が海辺の公園を散歩しようと提案してきたが、優奈はきっぱり断った。「あの……朝、犬にごはんあげるの忘れてたの思い出して。もう帰らなきゃ」「へえ、そうなんだ?」晴臣は少し離れた場所を指さした。そこには、彼女の犬を抱えたまま、ヤシの木の陰にこそこそ身を潜めている陽菜がいた。「でも、お友達が君の犬を連れてきてるみたいだけど……」優奈は晴臣が指した方向を振り向いた。するとやはり、さっき「晴臣はクズ男だ」とメッセージを送ってきた陽菜が、優奈のトイプードルを抱えて木の陰に身を潜めていた。怪しさが全身からあふれていた。優奈は恥ずかしさのあまり消えてしまいたくなった。地面に穴があったら、そのまま潜り込みたいくらいだった。つまり、さっき晴臣が陽菜たちのテーブルの会計を払ったのは、陽菜の誘惑に引っかかったからではなく、あれが自分の友達だと気づいていたからだったのだ……あまりにも恥ずかしすぎる。しかも当の陽菜は、まだ事の重大さをわかっていなかった。優奈と晴臣が自分のほうを見ているのに気づくと、とっさに逃げ出そうとした。ところが腕の中の子犬が飼い主を見つけ、陽菜の腕からぴょんと飛び降りて、そのまま優奈めがけて駆け出した。「あっ……ワタアメ、走っちゃだめ!」陽菜は慌てて追いかけてきた。ワタアメは優奈の足元にすり寄り、前足を上げて抱っこをせがんだ。優奈は仕方なくしゃがんで抱き上げようとしたが、陽菜が横から飛び込んできてワタアメを抱き上げ、わざとらしい笑顔で言った。「えへへへ……すみませんね、綺麗なお姉さん。うちの子、美女を見るとテンション上がっちゃうんです」陽菜は犬を抱えたまま立ち去ろうとしたが、優奈は彼女の服の襟をぐいっとつかみ、耳元で囁いた。
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第18話

「いつのこと?その男、どんな顔だった?」晴臣はその男を見ていなかったらしく、振り向いて追いかけようとしたが、優奈が慌てて彼を引き止めた。「たぶん悪気はないと思う。私、ここに何年も住んでるけど、誰かに恨まれるようなことした覚えないし」「可愛かったから、つい目で追っただけってこともあるかもしれない。でも、用心するに越したことはない。次からは、俺が着いてから出てきて」こんなときでも、さらっとそういうことを言う。優奈は思わず口元をゆるめ、小さくうなずいた。「うん、わかった」そう口では答えたものの、彼女はそれほど深刻には受け止めていなかった。フィンランドはかなり安全な国だと思っていたし、しかもここは首都だ。自分も長年ここで暮らしてきたが、危険な人間に出くわしたことなどなかった。それでも晴臣は何かあるのではと気がかりで、展示を見終えて戻ってきたあとも、優奈を部屋の前まで送ると言って譲らなかった。優奈が鍵を取り出して扉を開けようとしていると、晴臣が廊下に立ったままこちらを見ているのに気づき、振り返って言った。「今朝、犬の散歩してないの。時間があるなら、一緒に行く?」「あるよ、もちろんある」晴臣はすぐに何度もうなずいた。二分後、二人は犬を連れてまた階下に降りていた。優奈がいつも犬の散歩をする公園はそう遠くなく、二人は歩いて向かった。晴臣は自分からリードを持ち、優奈はその隣を歩いた。二人はとりとめのない話を交わしながら進んだ。話しているうちに、優奈は晴臣が今、自分で会社を立ち上げていることを知った。本国にもこちらにも拠点があって、ふだんはほとんど本国で仕事をしており、こちらへは年に数回ほど来るらしい。優奈は不思議だった。彼ほどの条件なら、わざわざお見合いなんてする必要はない。たとえ好きな相手に出会えていなかったとしても、彼を好きになる人はいくらでもいるはずだ。それなのに、どうしてずっと恋人がいなかったのだろう。「たぶん、運命の人を待ってたからかな。そうだよな、ワタアメ」その一言に、優奈の耳まで赤くなった。「そういう冗談、ほんと好きだよね」晴臣は真剣な目で優奈を見つめ、一語一語はっきりと言った。「冗談じゃないよ」本当は、彼は昨日嘘をついていた。優奈の親友だと気づいたのは、ワタアメがいたからではな
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第19話

そのとき、晴臣が大股で階段を駆け上がってきて、強く握った拳をそのまま浩一に叩き込んだ。不意を突かれた浩一は、晴臣の一発でその場に倒れ込んだ。「何をするつもりだ。優奈ちゃんに近づいた目的は何だ?」晴臣はさらに続けて浩一を二発殴ってから、優奈のほうを振り向いて言った。「優奈ちゃん、警察を呼んで」「う、うん」優奈はあわててバッグからスマホを取り出し、警察に通報した。三十分後、三人は警察署で事情聴取を受けていた。「たぶん、人違いなんです。ずっと私のことを瑞希って呼んでいて……」晴臣に殴られて顔中あざだらけになった浩一を見ながら、優奈は少し気の毒そうに言った。この数日、浩一はあちこちを駆け回っていた。どこでも瑞希を見かけたという情報ばかりで、そのたびに自分で確かめに行っていたのだ。今朝、こちらの人間から写真が送られてきたとき、彼はちょうど隣国にいた。写真を見た瞬間、休む間もなく飛行機を手配して、ここまで飛んできたのだった。「阿部さん、風間さんは本当に、あなたがお探しの藤ヶ谷瑞希さんではありません。完全に人違いです」だが浩一は、ほとんど飢えるような目で優奈を見つめた。「瑞希、お前は瑞希なんだろ……どうして俺を他人みたいに見る?」晴臣は優奈を自分の背後にかばった。「これ以上続けるなら容赦しませんよ」「優奈ちゃん、行こう」晴臣は優奈の手を引いて警察署を出ると、そのまま彼女を車に乗せて家まで送った。車に乗ってから、優奈は晴臣を見て言った。「本当に、上がってきてくれてよかった。じゃなかったら、どうしていいかわからなかったと思う」「怪我はしてない?」「してないよ」優奈は首を横に振った。そして、さっき見たやつれた顔を思い出し、少し見覚えがあるような気がした。「なんだか、どこかで見たことある気がするんだよね」優奈は少し考えてから、はっとしたように言った。「思い出した!」彼女はスマホを取り出し、数日前に見た人探しの告知を開いて、晴臣に見せた。「ほら、これ。この人、本当に私とすごく似てるでしょ!」晴臣は横目でちらりと見て、眉をわずかにひそめた。「たしかに、そっくりだな」数秒黙ったあと、彼は続けた。「でも、君のほうがきれいだ」「そんなことないよ。どう見てもあっちのほうがきれいだもん。肌も私より白
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第20話

「同じ都市にいるならまだしも……」「同じ都市どころか、国すら違う。なのにこれまでの経歴が全部すり替わってるんだ」「そんなこと、あり得ない」相手は浩一に、そんな可能性は極めて低いとはっきり告げた。とくに、浩一は優奈のこれまでの経歴をすでに調べていた。小学校から大学卒業までの集合写真には、どれも彼女が写っていた。彼女は旅行が好きで、旅行フォーラムに自分の旅の記録を投稿していたし、ときどき写真も載せていた。しかも、そこに記された日付は瑞希が姿を消す前のものだった。なら、本当に彼女は瑞希ではないのか?電話を切ったあと、浩一は酔い潰れてもかまわないと言わんばかりに、グラスをあおっては酒を流し込み続けた。最後には意識も朦朧としながら、それでもなお呟いていた。「瑞希……お前はいったいどこにいるんだ?俺がどれだけ必死に探してきたか、お前は知ってるのか……本当に会いたいんだ、瑞希」「お客様、お客様……」バーの店員は彼があまりに飲みすぎているのを見て、このまま酔いつぶれて会計を踏み倒されては困ると思い、慌てて彼を揺り起こして先に支払いをさせた。そのとき、清楚な身なりをした若い女がグラスを手に近づいてきて、色っぽく声をかけた。「お兄さん、一人で飲んでてもつまらないでしょ?よかったら私が付き合ってあげようか?」「瑞希……」浩一は女の手をつかんだが、すぐに振り払った。「失せろ。お前は瑞希じゃない」「瑞希、お前はどこだ……」浩一はふらつく足取りでバーを出ていった。だが、自分の後ろから数人の大男がつけてきていることには気づいていなかった。道端で目を覚ましたとき、財布もスマホも、身につけていた貴重品はすべて盗まれていた。「クソ!」浩一は目を覚ますなり悪態をつき、それからタクシーを拾ってホテルへ戻ろうとした。だが車に乗り込み、行き先を告げかけたその瞬間、彼は思い直したように口を開き、優奈の住所をそのまま告げた。優奈は、自分が瑞希と間違えられた件を陽菜に話していた。陽菜はネットで浩一の紹介記事を眺めながら、眉を上げて言った。「この男、条件かなりいいじゃん。いっそあんた、彼が探してるその人のフリして一儲けしたら?」優奈は呆れたように言い返した。「じゃあ、私そっくりに整形させて、その人から巻き上げればいいじゃん
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