ホーム / 恋愛 短編ストーリー / 遠ざかる愛を抱いて / チャプター 21 - チャプター 22

遠ざかる愛を抱いて のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 22

22 チャプター

第21話

空がようやく白み始めたころ、心春は熱のこもった腕の中で目を覚ました。身じろぎした拍子に、自分がずっと勇信の腕を枕にしていたことに気づいた。しかも二人の身体は、背中と胸がぴたりと重なるほど密着していた。心春の耳先が、そっと赤く染まる。彼女は息をひそめるように、そろそろとベッドから抜け出した。昨日、勇信はひどく酔っていた。普段は無口で言葉数も少ないくせに、酔うとまるで別人だった。彼は彼女をつかまえてなかなか放さず、泣き言まじりに「君は薄情だ」と訴えたかと思えば、今度は引き出しをひっくり返して紙とペンを探し出し、自分の長所を全部書き出すと言って聞かなかった。小学生の時に算数のコンクールで三等賞を取ったことまで、褒めろと迫ってくる始末だ。最後には、心春も本当に手に負えなくなり、人を呼んで彼を寝室まで運んでもらうしかなかった。それでも勇信は彼女を帰そうとせず、仕方なく、心春はそのまま残って彼を寝かしつけた。けれど――確か自分は椅子に座っていたはずなのに、どうしてベッドの上にいたのだろう。心春は火照った頬を軽く叩き、こっそり部屋を抜け出そうとした。その時、視界の端に、床へ落ちたしわくちゃの紙が映る。身長185センチ、腹筋あり、生活習慣は規則正しい、悪い癖なし、家族に遺伝病歴なし……ずらりと並んだその最後の一行には、こんな言葉まで書かれていた。一途で誠実。心春だけを愛している。心春は小さく息をつき、引き寄せられるようにベッドで眠る男の顔へ視線を向けた。黒い羽のようなまつげが目元を覆い、すっと通った鼻筋の下で、薄い唇が静かに結ばれている。――こんなにも素敵な人が、自分を深く愛してくれている。心春が部屋を出ていくと、ベッドの上の男はゆっくりまぶたを持ち上げた。床に落ちていた紙は、もうなくなっている。勇信は眉を上げ、黒い瞳に笑みを浮かべた。この家で、彼の酒の強さを知らないのは心春だけだ。彼は昨夜、母から送られてきた贈り物を開いた。中に入っていたのは、布地の少ない、かなり大胆な女性用の下着だった。勇信の目が一瞬だけ深く沈む。だがすぐにそれをしまい込み、低くつぶやいた。「……まだ早い。俺たちは、ゆっくり少しずつでいい」……ウェディングドレス店。勇信は会社で急な
続きを読む

第22話

蒼真は床に跪いていた。叫び、泣き、彼女のドレスの裾をつかんで、行かないでくれとすがりついた。心春ははさみを手に取り、ためらいなくその裾を断ち切った。そして一度も振り返ることなく、そのまま外へと歩き出す。背後にあるのは、蒼真の胸を引き裂くような慟哭。前方に広がるのは、彼女自身の光あふれる未来。彼女と彼は、もう二度と会うことはない。それからずいぶん後になって、心春は人づてに聞いた。蒼真は彼女の結婚式からほどなくして重い病を患い、亡くなる前に成瀬グループの全財産を、かつて二人が通っていた高校へ寄付したのだという。さらに、「心真」と名づけた奨学金まで設立したらしい。その話を聞いたあと、勇信は彼女を腕の中へ引き寄せ、耳たぶを強くも弱くもない力で指先に挟んだ。「お腹に気をつけなさい」心春は笑って彼を軽く叩き、自分の腹部をそっとかばいながら、甘えるように言う。「もうすぐパパになる人が、そんなことでまでやきもち焼くの?」勇信は奥歯を軽く噛んだ。「明日にでも『心信』奨学金を作ってやる。あいつが出した額の倍出すよ」「もう……」心春は人差し指で彼をつついた。勇信は一本の電話を受けるために席を外し、心春は一人で階下へ降りて夕食をとることにした。妊娠しても彼女の好みはほとんど変わらず、食卓には昔から好きだった料理が並んでいる。ポン太は彼女の足もとに寝そべり、靴下を甘噛みしていた。しばらくして勇信がやって来ると、小さな体をくるりとひねって、丸々とした腹を見せる。「どうしたんです?」勇信の顔色があまりよくないことに気づき、心春は少し不安になった。「藤崎家で問題が起きた」心春の手から箸が滑り落ちた。次の瞬間には、冷えた彼女の手を、勇信がしっかりと握っていた。「聞きたくないなら、言わない」夜中、彼女が何度か「お母さん」と寝言を口にするのを聞いたことがある。だからこそ彼は、この話を伝えることにしたのだ。向き合うかどうかは、彼女自身に任せるつもりだった。心春は小さく息を吐いた。「……何があったんです?」「半年前くらいから、啓介が賭博にのめり込んで、高利貸しに百億以上の借金を作ったらしい。三日前、取り立てが家に来たが、澄子が泣きわめいて金を出そうとしなかった。それ
続きを読む
前へ
123
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status