私は、本間澪華(ほんま れいか)。結婚してからずっと空き家のままになっている家がある。そんなある日、管理会社から連絡が入った。「本間様、恐れ入りますが、そちらにご入居中の方へお伝えいただけますでしょうか。ベランダに干してある女性用の下着が外から見えてしまうということで、下の階の方からすでに二度ほど苦情が入っておりまして……」送られてきた写真には、透け感のあるセクシーなランジェリーが、ベランダのいちばん外側に掛けられ、風に揺れていた。その隣には、見覚えのあるメンズのボクサーパンツまで干してある。胸の奥がすっと冷え、私はすぐ夫の本間郁人(ほんま いくと)に電話をかけた。「汐見ヒルズの部屋、人に貸したの?」郁人は一瞬だけ黙り込んで、それから急に笑い出した。「なんだ、もう気づいたのか。本当はサプライズにするつもりだったのにさ。帰ったら、家賃はちゃんと家計に入れるようにするから」私は嬉しそうなふりをして、「ほんと?助かる」と笑ってみせた。電話を切ると、そのまま汐見ヒルズへ向かった。……私がマンションに着いた頃には、上下の階の女がそれぞれベランダから身を乗り出し、今にも掴み合いになりそうな勢いで言い争っていた。下の階の年配の女性が、上のベランダを指さして怒鳴っている。「なんでよりにもよって、そんなものをいちばん外に干すのよ!通りから丸見えじゃない!」するとベランダの女も、すぐに言い返した。「自分の服を干して何が悪いんですか?」「人がどう思うかってことがあるでしょう!恥ずかしいって気持ちがないの!?」言い争いはどんどん激しくなっていった。そのとき、ひときわ強い風が吹いた。外側に掛けられていたメンズのボクサーパンツが大きく揺れ、そのままふわりと落ちていく。少し離れた場所に立っていた私には、はっきりわかった。――あれは、郁人のだ。最近、ジムに通い始めて少し痩せた郁人のために、私がウエストを詰めてあげたものだった。最後まで抱いていたわずかな期待も、その瞬間、きれいに消えた。私はそのまま玄関の前まで歩いていき、鍵を差し込んでドアを開けた。さっきまでベランダで怒鳴っていた女は、リビングの物音に気づいて振り向いた瞬間、顔を強ばらせた。「ちょっと、誰よあなた!?どうして入ってこられたの!
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