「澪、本当に離れるつもりなの?」親友の石川由理恵(いしかわ ゆりえ)が心配そうな顔で言った。「結婚式まで、もうあと2週間しかないのよ。あなた……」「うん。もう決めたの」村上澪(むらかみ みお)は彼女の言葉を遮った。澪の眉間のしわは少しずつ解け、その瞳はまるで凪いだ湖のように静まり返っていた。「由理恵、その時の私の『死体』と死亡診断書、あなたに頼めるかしら。私の体質は誰よりあなたが知っているでしょう。どんな怪我もすぐ治る。死なないわ。医者であり親友であるあなただけが、彼を欺けるの。ごめんね、こんな面倒なことばかり頼んで。いつか必ず、相応しい形でお礼をさせてね」由理恵は澪の手をしっかりと握り、覚悟を決めたように力強く頷いた。由理恵の働く病院から出たとき、澪の心は不思議と軽くなっていた。これでやっと、何もかもに終止符が打たれるのだ。スマホの着信音が何度も鳴り、澪は唇を噛み締めながら、何食わぬ顔で電話に出た。「澪、何してたんだ。何度も鳴らしたのに」「私……」「いいか!夜8時だ。セントラル・タワーで待ってるからな」電話の向こうからは焦ったような声がする。「澪に最高のサプライズがあるんだ」澪の返事を待たずに、向こうは通話を切った。最後に耳に残ったのは、女の甘い笑い声と艶めかしい喘ぎ声。画面に表示された見慣れた名前に目を落とし、澪は鼻で笑った。#小山陸(こやま りく)、カウントダウンのサプライズという文字が、SNSのトレンド1位にあった。【今夜8時、セントラル・タワーで僕たちの愛の証を刻みます。新しい年、愛は更なる高みへ】リプ欄は大きな盛り上がりを見せている。【陸さん、澪さんのこと本当に愛しすぎてる……無理、泣ける】【セントラル・タワー?毎年毎年、ロマンチックすぎて独身が辛いよ】【羨ましい!こんな一途なハイスペック男、見たことない】【一途すぎる男の人って本当に最高。これこそ最強のスパイスだよね】澪の指先が少し震えた。SNSを閉じ、スマホの電源を切ろうとしたところで通知が目に留まった。内容は容易に想像できたが、ついタップしてしまった。一枚目の写真には肌の白い女性が、澪の婚約者の陸を見つめている。超ミニスカートから伸びる脚は、きわどいアングルだった。二枚目は、陸
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