All Chapters of 転生したら首が揺れる系ヒロインだったので、首を揺らすのを止めたら溺愛が待っていた!: Chapter 1 - Chapter 10

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第一話:男は首を揺らす女が好きらしい

世の中には、男にモテる女と、そうじゃない女がいる。私は昔から責任感が強く、学生時代はなぜか毎回、学級委員に選ばれていた。小・中・高、すべて学級委員。──当然、モテない側だ。それでもいいと思って生きてきた。好きでもない男に好かれるくらいなら、一人でいる方がマシだと、本気で思っていた。周りからは「一人で生きていけそう」とか、「肩で風切ってる」なんて言われてきた。……本当は、寂しくないわけじゃない。でも、それを見せるのが悔しくて、ずっと強がってきた。──こういうところが、可愛くないのかな。そんな私の周りには、なぜかいつも“首が揺れる女”がいた。「菜穂ちゃんは強いから~」そう言って、口元で手を合わせて「えへ」と笑う。その首は、いつもふわふわと揺れている。男は、大体こういう女が好きだ。フリルにパステル、ゆるふわの髪。甘い香りをまとって、天然を装いながら、男の懐に入り込むのが上手い。(ちなみに私も天然らしいけど、私の場合は“お笑い担当”らしい)そんな私にも、社会人になってから彼氏ができた。婚約が決まった矢先──彼は、“首が揺れる女”と浮気した。しかもその女は、二児の母。既婚者であることを隠したまま、彼に近づいていた。そしてある日。私は、ホテルから出てくる二人を見てしまった。頭が真っ白になって──気づけば、走り出していた。次の瞬間。強い衝撃と、ブレーキ音。視界がぐらりと揺れて、地面が近づいてくる。──ああ、これ。死ぬやつだ。意識が遠のく中で、ふと思い出したのは、昔スナックで出会った女の言葉だった。「私、首が据わってるでしょう?それがダメなんだって。男は、首が揺れてる女が好きなんだって……」皮肉なことに──私が最後に見たのは、婚約者の背後で、口元を押さえながら、“ショックを受けたふり”をしている彼女の姿だった。その首が、ゆらゆらと揺れていた。
last updateLast Updated : 2026-04-18
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第二話:あれ? 私……赤べこになってる?

「このクソ女! 私が死んでるのに、なに可愛こぶってるんだよ!」叫んだ瞬間、勢いよく上体を起こした。息が荒い。心臓がうるさい。……生きてる? 私。目に入ったのは、真っ白で統一された部屋。レースだらけのカーテンに、フリルまみれの寝具。そして──天蓋付きのベッド。……何これ。乙女の夢詰め合わせセット?嫌な予感しかしない。自分の格好を見て、さらに引いた。ピンクのフリフリナイトウェア。……無理。これ、私じゃない。慌ててベッドを飛び降り、鏡へ駆け寄る。映っていたのは──ゆるふわのピンク髪。透き通るような白い肌。宝石みたいな瞳。──めっちゃ美少女。いや待って。落ち着け。前世の私は、逆三角形の骨太体型。木から落ちても無傷で、折れるのはいつも男友達だった。それが今は──折れそうなくらい細い手足。撫で肩に、華奢な身体。(しかもスタイルまでヒロイン仕様って……どういうこと)……いや、それはいい。問題はそこじゃない。──なんで首が揺れてるの?気づけば、首がゆらゆらと揺れている。止めようとしても、止まらない。しかも──いつの間にか、両手が口元に添えられていた。その仕草、誰の指示?鏡の中の“知らない自分”に、思わず眉をひそめる。あの女の姿が脳裏をよぎって、イラッとする。……なのに。首だけは、ずっと揺れている。「お前は赤べこか!」思わずツッコミが出た。いや、やりたい人はやればいい。それでモテるなら、好きにすればいい。でも、私は嫌だ。この首、勝手に動きすぎじゃない?そんなことを考えていると、扉がノックされた。「はい」返事をした瞬間、また違和感に気づく。──声まで可愛い。ドアが開き、メイドが入ってきた。記憶を辿ると、この身体の持ち主──ソフィア付きのメイドらしい。名前はロッテンマイヤー。長いから「ロッテ」と呼んでいたようだ。「失礼いたします、お嬢様」ぺこりと頭を下げた彼女は──まさに、前世の私タイプだった。骨格がしっかりしていて、少し低めの声。(あぁ……羨ましいわ、ロッテさん)
last updateLast Updated : 2026-04-18
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第三話:赤べこ卒業宣言!

ロッテは鏡台の前に私を座らせると、手慣れた手つきで髪を梳きはじめた。「あの……ロッテ、お願いがあるの」どうやら、いつものハーフアップにするつもりらしい。「何でしょう、お嬢様」「これからは、髪をアップにしたいの」ロッテの手が、ぴたりと止まる。「よろしいのですか? クリフォード殿下が“その髪型が似合う”と仰って、この簪を贈られたのですよ」差し出されたのは、しだれ桜のような繊細な簪だった。──クリフォード殿下。その名前に、胸がざわつく。ソフィア。クリフォード。そして、この世界観。……間違いない。ここは乙女ゲーム《きみの光が世界を救う》の世界だ。クリフォード殿下は第一王子。婚約者である公爵令嬢レミリアを捨てて、ヒロインと結ばれる男。……いや、ちょっと待って。ゲーム本編では、こんなに関係は進んでいなかったはず。「えっと……クリフォード殿下って……」恐る恐る尋ねると、ロッテはあっさり答えた。「お付き合いしておられますよね?“悪役令嬢から奪ってやった”と、とても喜んでいらっしゃいました」……え?背中に、冷たいものが走る。あの作品は、後にスピンオフで大ヒットした。ヒロインが王子を奪い、最後に断罪される話。──まさか。ざまぁされる側に転生した……?顔から血の気が引く。「どうなさいました?」ロッテが心配そうに覗き込む。「と、とにかく! 髪はアップでお願い!」思わず強く言ってしまう。ロッテは慌てて頷き、手を動かした。出来上がったのは、上品で清楚なまとめ髪。……いや、普通でいいんだけど!「いかがでしょうか? お嬢様」鏡に映るのは、整えられた可憐な自分。「いつもありがとう、ロッテ。でも、明日からはもっとシンプルでいいわ」ロッテは、少しだけ驚いた顔をした。──ごめんね。でも私、もう決めたの。“首が揺れるヒロイン”は、卒業する。その瞬間──コクン、と小さく首が揺れた。……いや、違う。今のは違う。揺れてない。揺れてないはず。なのに鏡の中の私は、ほんの少しだけ、可愛く頷いていた。(……は?)
last updateLast Updated : 2026-04-18
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第四話:赤べこ卒業しました!

「そんな……。私、ソフィアお嬢様を可愛く仕上げることが生きがいなんです!」ロッテが縋るような目で訴えてくる。(ダメよ、私。ここで負けたら終わる)「でもね、ロッテ。私は、ロッテみたいになりたいの!」「お嬢様、なんと勿体ない!」ロッテはオーバーに床に崩れ落ちた。「ソフィアお嬢様は天使のように愛らしいのです!その愛らしさを武器になさってくださいませ!」……三文芝居か。私は小さく息を吐いた。「私ね……王子様と結ばれたくないの」その一言で、ロッテの顔つきが変わった。「まさか、クリフォード殿下が何か?」「違うの。よく考えたのよ。殿下にはレミリア様がいるでしょう?私は、身の丈に合った人と結婚できればそれでいいの」カタン、と櫛が落ちる。「ソフィア様……熱でもあるのですか?」額に手を当てられる。……無理もない。前のソフィアは、王太子妃を狙っていたらしい。でも今の私は違う。ざまぁされないためには──即撤退。それしかない。そう思った。私が知っている未来は一つだけ。断罪されて、北の修道院送り。……いや、無理。だったらもう、王子はレミリア様にお返しして、平和に生きるしかない。そう決めた、その時だった。──首が揺れてる。「ロッテ! これ、巻いて!」私は厚手の布を掴んで差し出した。言われるままに巻かれたそれは、もはや首用コルセット状態。「……お嬢様。本気でそれで行かれるのですか?」ロッテが呆れた顔で言う。分かってる。でもね──背に腹はかえられないのよ。鏡に映る自分を見て、私はニヤリと笑った。これなら“儚いヒロイン”じゃない。ただの“ヤバい女”だ。クリフォード殿下も、きっと逃げ出すに違いない。──これで、ざまぁ回避。そう確信した、その時。コクン、と小さく首が揺れた。……いや、違う。今のは違う。固定してるのに、なんで揺れるのよ!?布の内側で、かすかに“ゆらり”と動く感覚。(ちょっと待って、これ……止まってないんだけど!?)嫌な予感しかしない。それでも私は、気づかないふりをした。だって──ここで負けたら、本当に終わる。それでも私は、上機嫌を装って食堂へ向かった。
last updateLast Updated : 2026-04-18
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第五話:攻略対象、全員地雷系でした。

魔法学園へ向かう馬車の中で、私は現状を整理していた。──まず、この世界は乙女ゲーム『きみの光が世界を救う』。通称“キミセカ”。どうやら私は──そのヒロイン、ソフィア・ハンプソンらしい。……いや、待って。可愛いのはありがたい。そこはいい。問題ない。でもさ。よりによって、ざまぁ展開の当事者ってどういうこと!?婚約破棄されて、全員から見放されて、最終的に修道院送りとか──聞いてないんだけど!?私は頭を押さえながら、記憶を引っ張り出す。ソフィアは、幼い頃に“光魔法の加護”を受けて生まれた少女。回復、浄化、さらには土地すら癒す力。ゲーム内でもトップクラスのレア能力。──いわゆる、チートヒロインだ。しかもこの国は、唯一魔法使いを輩出する特別な国で、光魔法の使い手なんて百年に一人。……うん、目立つ。めちゃくちゃ目立つ。そのせいで、男爵家のメイドに裏社会へ売られかけ、国外へ連れ出される直前──当時“子爵”だったバトレー伯爵に助けられる。その功績で子爵は伯爵へ昇進。……うん、ここは深く考えないでおこう。それ以来、ソフィアはバトレー伯爵家の援助を受け、男爵家とは思えない生活を送っている。そして──その息子、ダーネルと婚約。……この時点で、詰み確定だ。ダーネルは束縛系のくせに、自分は浮気三昧。外面は完璧。でも中身は最低。それでも尽くし続けるソフィア。……いや無理。普通に無理。そして学園に入学後──物語は本格的に動き出す。攻略対象は、全部で五人。(1)ツンデレ王子・クリフォード殿下。完璧すぎて人生が退屈な王子。恋を知らない残念イケメン。(2)弟王子・カーティス。甘えん坊の弟属性。軽い気持ちで近づいて、本気で落ちるタイプ。(3)婚約者・ダーネル。浮気三昧のくせに独占欲だけは一流。終盤で手のひら返ししてくるクズ。(4)教師・ギルバート。皇帝の弟。拗らせすぎてチャラ男化した結果、駆け落ちルート持ち。(5)魔族の王・スウェイン。ヤンデレ。愛が重いとかいうレベルじゃない。監禁エンド担当。……いや。どう見ても、まともなのが一人もいない。そのど真ん中に立つのが、私。「ちょっと待って、危険人物に囲まれすぎじゃない……?」思わず声が漏れた。もしこのまま“ざまぁルート”に入ったら──修道院送り、確定。
last updateLast Updated : 2026-04-18
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第六話:創造神様が……突然、降臨?

こうして羅列してみると──……改めて思うけど、ろくな男がいないわね!ちなみに、私はゲームをやっていない。だから実際の展開は、ほとんど知らない。この知識も、漫画版のキャラ紹介を読んだ程度。しかもその漫画、ざまぁ展開だった。クリフォード殿下を婚約者から奪ったソフィアが、最後に断罪されるやつ。だから、ゲームとはかなり設定が違ったはずだ。なにせ、ゲームファンの間では「こんなクリフォード見たくない!」と炎上して、不買運動まで起きたらしい。……まぁ、ざまぁ展開をやるには、王子も悪役じゃないと面白くないもんね。でも、そこで私は一つの疑問にぶち当たった。漫画では、ソフィアがざまぁされるのって──日本から転生した別の子が、逆ハーレムルートを狙ったからだよね?しかも、その子は前世の記憶を持ってたはず。だとしたら……私、記憶があるだけで恋愛なんて狙ってないし。これ……ゲームじゃなくて、普通に異世界転生じゃない?一筋の光が見えた──その瞬間。「残念!」耳元で、いきなり声がした。次の瞬間──目の前に、ドアップの見知らぬ顔!!「ぎゃ───!!!」思わず悲鳴を上げた私は、馬車の中で飛び上がった。ガッ! と音を立てて、馬車が急停車する。「どうなさいました!? ソフィア様!」御者が慌ててドアを開けた。「し、知らない人が……!」私は、目の前にいるキラッキラした女性を指さした。すると御者は、眉をひそめて首をかしげた。「ソフィアお嬢様しか、おりませんが……?」……は?私が再びその“キラキラ女”を見ると、彼女はにっこり笑って言った。「私の姿、あなたにしか見えないの」──そして、口元に手を当てて「えへっ」と笑った。「えへっ、じゃないわよ!!」そういうことは先に言ってぇ!私は動揺を隠しながら、御者に向かって咳払いした。「ごめんなさい。疲れているみたいで……あなたの影が、人に見えただけみたい」笑顔を作ると、御者がぽーっと頬を赤らめた。「ソフィアお嬢様は、いつも一生懸命ですからね。学園に着くまでお休みください」そう言って、馬車のドアを閉めた。再び動き出した馬車の中。私は、目の前で優雅に座っているキラキラ美女に尋ねた。「で、あなた誰?」「ようこそ聞いてくださいました!」叫んだかと思うと、彼女は指をパチンと鳴らした。気づけば、
last updateLast Updated : 2026-04-18
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第七話:全ての元凶は、彼女だった

並本雪花。思い出した。前世で、私から婚約者を寝取った──あの女。出会いは、私が勤めていた中小商社。私は経理部で働く32歳で、社長の紹介で取引先の男性と出会い、婚約も決まって幸せの絶頂だった。職場では、同期の葉子と凛と3人で「経理三人娘」と呼ばれる仲良しトリオ。それなりに地味で平和な毎日だった。──あの派遣社員が来るまでは。繁忙期で人手が足りず、派遣を頼んだのが運の尽き。やってきた彼女は、紺のスーツに黒髪ボブ。ぱっと見は清楚系。でも、最初に思ったのは「女の敵」だった。あれはたぶん、“女の勘”ってやつ。どこか、関わっちゃいけない気がした。それでも部長に「年齢も近いし仲良くしてやれ」と言われ、しぶしぶ昼ご飯を一緒に食べるようになった。話してみると、意外とサバサバしていて面白い子だった。油断していた私に、彼女はよくこう言った。 「私、何故か女の人に嫌われちゃうの。 だから、こうして仲良くしてもらえる職場で良かった」その言葉に、私は笑って答えた。 「きっと雪花ちゃんが可愛いから嫉妬されちゃうんだよ」 ──あの時の自分を、殴りたい。経理部は男性が少なく、いても部長と課長の中年組。そんな中で、彼女は明るく話題を振ってくれるムードメーカーだった。 いつの間にか、私たちは四人で行動するようになっていた。そんなある日、彼女が突然言い出した。 「ねぇ、菜穂ちゃんの婚約者さんを見てみたいからさ、凛ちゃんの彼氏さんと、葉子ちゃんの好きな人も呼んで飲み会しない?」 「え?」 「ほら、葉子ちゃんってずっと片想いでしょ? みんなで応援してあげようよ!」その提案に、私も凛も顔を見合わせた。雪花は手帳を取り出して手際よく言う。 「菜穂ちゃんと婚約者さん、凛ちゃんと彼氏さん、葉子ちゃんと好きな人! ね、バランスいいでしょ?」 (……あれ
last updateLast Updated : 2026-04-21
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第八話:悪魔のような女、並本雪花降臨!

そんな不穏な空気の中、飲み会が始まった。 最初こそ、雪花(並本)は私たち女子側の席にいた。 けれど気づけば、いつの間にか男性陣の席へ移動して──完全に女王様状態だった。 葉子の好きな人の隣で、膝をぴったりと相手の足にくっつけ、キャッキャと笑っている。 葉子の顔が、みるみる曇っていった。 「並本さん、そろそろ帰らないとご主人が心配するんじゃないですか!」 凛が怒鳴ると、雪花はきょとんとした顔で小首を傾げた。 「やだぁ~、凛ちゃん。何言ってるの?」 そう言って笑いながら、今度は凛の彼氏の腕に手を乗せる。 「なんかぁ~、凛ちゃん怒ってるぅ~。彼氏さん、優しくしてますか?」 ──頬を指でツンツン。 しかも、葉子の好きな人に当てている膝は離さない。 その瞬間、私の中で何かがプツンと切れた。 「あのさ、並本さん。これ、合コンじゃないよね?」 さすがに我慢できずに言うと、彼女は唇を尖らせた。 「隆二ぃ~。菜穂ちゃんが怖い~」 ……は? 見ると、男性陣の鼻の下が見事に伸びている。 「まぁまぁ、菜穂も怒るなよ」 ──あんたもか、隆二。 完全に私たちは“空気読めない女”扱いだった。 そして、お開き直前。 「あの、並本さん。連絡先、交換しませんか?」 私の婚約者以外の二人が、声をそろえて言い出した。 「え~、でもぉ~」 わざとらしくこちらをチラッと見てから、葉子の片想いの相手が口を開く。 「こうして出会ったのも、何かの縁だし」
last updateLast Updated : 2026-04-22
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第九話:雪ちゃん劇場──男の前では“天使”、女の前では“悪魔”

「ちょっと、並本さん。どういうつもり?」 私が怒りを抑えきれずに声を上げた、その瞬間だった。 「酷いです……。私、みんなと仲良くしたかっただけなのに……」ポロポロと涙をこぼし始めた。その涙に、私たちは何も言えなくなった。そこへ部長が通りかかり、眉をひそめる。 「まさか、社内いじめじゃないよね?」 ──そして、私たちは呼び出された。 けれど、そこは普段の人徳(という名の地道な信頼)が功を奏した。人事がきちんと話を聞いてくれて、一時は派遣契約終了まで話が進んだ。だが、最終的に彼女はなぜか営業部へ異動になった。うちの会社は、総務経理と営業部でフロアが違う。そのため、彼女に会うことはなくなった。 ──あの時は、それで終わったと思っていた。あの日以降、凛は彼氏と破局。葉子は片想いの人に振られ、私たちは最悪の後味を残したまま日々を過ごしていた。だが、彼女の異動によって、営業部の女子たちとも関係が悪化した。まるで、誰かが裏で焚きつけたかのように。そう、異動前から社内には妙な噂が流れ始めていた。──「経理部が意地悪して、並本さんを追い出したらしいよ」 ……はい、犯人バレバレ。営業部に行ってからというもの、彼女は“本性”を隠さなくなった。営業部は花形部署で、若い男性社員が多い。最初こそ猫を被っていたものの、徐々にボディタッチが増え、勝手に“お茶出し”を復活させていたらしい。 「外から大変な思いして帰って来てるのに、お茶くらい出してあげないと。独身の子には、そういう気が回らないわよね~」とか言って、夏は冷たいお茶、冬は温かいお茶を給茶機で入れていたそうだ。営業部の女子たちは注意した。 「並本さんが勝手にやるのは自由ですけど、私たちには求めないでくださいね」だが彼女は聞かない。 “お茶出し最優先”、仕
last updateLast Updated : 2026-04-23
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第十話:“嫌いです”の一撃

そんな“雪ちゃん劇場”は、冬の間、延々と続いていた。 営業部の女子たちは、限界だった。 「職場はキャバクラじゃないんだよ!」 ついに、不満が爆発。 しかも彼女、婚約者のいる男性社員に書類を渡す時── わざと転んだフリをして、そのまま膝の上に座ったというのだから、呆れ果てる。 ……もう、ホラーでしかない。 それでも男性社員たちは「雪ちゃん」「雪ちゃん」と呼び、まるでお姫様扱い。 そんな中、彼女に物申せる男が一人だけいた。 ──営業部のホープ君、松永くん。 ある日、彼女が勝手に彼のジャケットを羽織った時のこと。 彼は無言でファ○リーズをシュッと吹きかけた。 「勝手に人のジャケットとか着るの、やめてもらえませんか?」 さらに、喜んでいる男性社員に向かって、こう言い放った。 「女物の香水の匂いさせて営業に行くつもりですか?」 蔑むような目。 その一言で、営業部の空気が一瞬で凍ったという。 以来、男性社員たちはコートを脱ぐと、すぐロッカーにしまうようになった。 そして松永くんは、彼女本人にもきっぱり言ったらしい。 「寒いなら、人のジャケットを着ないでください。他の女性社員は、ちゃんとひざ掛けや上着を持ってきています」 ──見事な対応だった。 この件で、松永くんの評価は一気に跳ね上がった。 営業部女子のハートを総ナメにしたとか。 だが、それでも雪花は懲りなかった。 ある日、大口契約を決めたメンバーで祝杯を上げることになった時のこと。 「私も参加したい!」
last updateLast Updated : 2026-04-24
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