私、橋本真緒(はしもと まお)の幼なじみの高城郁人(たかぎ いくと)が、ついさっき私に想いを告げてくれたばかりなのに、その元恋人の森田栞里(もりた しおり)が交通事故に遭った。病院の廊下で、郁人の声だけがやけにはっきりと響いた。「栞里は今、刺激しないほうがいいんだ。悪いけど、しばらく我慢してくれ。俺たちのことは彼女に言わないでほしい」真剣な眼差しを向ける彼を見て、私はそっと頷いた。けれど、その「我慢」が、まさか三年にも及ぶなんて思ってもみなかった。彼は彼女のために栄養食を作り、リハビリに付き添い、ありったけの優しさを彼女に注いだ。そのくせ、私がたまに不満をこぼすと、だんだん苛立ちを隠さなくなっていった。「真緒、変なこと考えるな。今はただ、栞里が俺を頼りにしてるだけだ。元気になれば、ちゃんと元に戻る。栞里に友達として責任を果たしてるだけだ。だから、もうこれ以上困らせるな……」一度や二度じゃなかった。そのたびに彼は、まるで本心からだと言わんばかりに言い切った。けれど、温かい手料理の入った保温ポットを手に病室の扉を開けた瞬間、キスを交わしている二人の姿が目に飛び込んできて、そのとき初めて思い知った。最初から最後まで、自分がどれほど愚かだったのかを。その場で立ち尽くす私に気づくと、栞里はやわらかな笑みを浮かべた。「真緒、いい報せがあるの。私たち、よりを戻したのよ。あなたも早く彼氏を見つけなきゃね。真緒が幸せになるところを見たいわ」固くつながれた二人の手を見つめながら、私は目の奥がじんと熱くなるのを感じた。「実は私にも彼氏はいたの。でも、さっき……別れたの」その言葉が落ちた途端、郁人の身体がはっきりと一瞬こわばった。栞里は申し訳なさそうな声を出した。「真緒、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」私は口元をわずかに引きつらせた。「大丈夫」「でも、どうして別れちゃったの?」どうして、なのだろう。たぶん私は、誰にも言えない関係を三年ものあいだ守り続けてきたからだ。そして今、もう守るのをやめたくなった。彼女は車椅子を寄せながら近づいてくると、物わかりのいいお姉さんみたいに私の手をぽんと叩いた。「人と人がこうして出会えたのも縁なんだから、少しのことで別れてしまうなんてもったい
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