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第4話

Penulis: 栖崎夕
その時から、彼の世界はもう私とは無関係のものになった。

翌朝早く、私はリビングの物音で目を覚ました。

郁人はリビングに立っていた。目は赤く充血していて、一晩中まったく眠っていないのがひと目で分かった。

以前の私なら、きっとすぐに駆け寄って、体調を気遣う言葉をかけていたはずだ。

でも今は、彼が疲れていようが、眠れていなかろうが、もう私には関係なかった。

私はそのまま彼の横を通り過ぎようとした。けれど不意に手首をつかまれた。

彼の声はかすれていて、隠しようのない疲労が滲んでいた。

「真緒、どうして俺のメッセージに返事しなかったんだ?」

「スマホをマナーモードにしてたから。気づかなかったの」

「どれだけ心配したと思ってるんだ?何かあったんじゃないかって思って、慌てて戻ってきたんだぞ」

私は少し黙ってから、顔を上げて彼を見た。

今度こそ、彼の目の中にいくらか本物の感情が見えた。

でも、もう遅かった。私はもう、信じない。

私は少し力を込めて、その手を振りほどいた。

「私は大丈夫よ」

郁人は、私が栞里のあの投稿のことで腹を立てているのだと思ったらしい。

彼は目を伏せ、声をやわらげて取り繕うように言った。

「ただ、栞里を動揺させたくなくて、その場しのぎで話を合わせただけで……」

「分かってる」

私は静かに彼の言葉を遮った。

「あなたは栞里に対して、友達としての責任を感じてるだけ。それ以上の気持ちなんてない」

彼が言おうとしていたことを、私はもう慣れきったように先回りして口にした。声は自分でも驚くほど静かで、何の揺らぎもなく、かえって可笑しささえ込み上げるほどだった。

彼は複雑な目で私を見つめた。私の顔から、拗ねている証拠でも探そうとしているみたいだった。

けれど、何も見つけられなかった。

郁人は口を開き、まだ何か言おうとした。だが、その時スマホが鳴った。

わざわざ確かめなくても分かった。また栞里だ。

ただ今回は、郁人はいつものようにすぐ電話を取らなかった。

彼の視線は私と画面のあいだを揺れ、なかなか通話ボタンを押せずにいた。

私はどこか他人行儀な笑みを浮かべた。

「出てあげて。待たせたらかわいそうでしょ」

郁人は少しためらった末、結局ベランダへ出て電話を取った。

通話を終えて戻ってきた時、私はゆっくり朝食を口にしていた。

彼の分は用意していなかった。

彼の視線が何もないテーブルの空いた場所をかすめ、その目にわずかな居心地の悪さがよぎった。

「真緒、もう一度そっちに行ってくる。戻ったら、ちゃんと説明するから」

ドアが閉まったその瞬間、私は目の前の牛乳を手に取り、一気に飲み干した。

ぬるい温度の液体が喉を通っても、冷えきった心は少しも温まらなかった。

私はそばに置いてあったスーツケースを引き寄せ、最後の荷造りを始めた。

服、書類、パスポート。一つずつきちんとたたみ、ケースの中へ収めていく。

昨日、海外赴任の申請を出した。そして明日には出発する。

私はソファに腰を下ろし、思い出の詰まったこの家を見渡した。

ここはかつて、私の希望と憧れのすべてだった。

でも、ようやく手放せる。

その夜、郁人は帰ってこなかった。

彼からはたくさんのメッセージが届いた。一通、また一通と続き、文章はどんどん長くなっていった。

ただ私は、せっかく取り戻した静けさまでかき乱された気がした。だから一つも返さなかった。

翌日の午前、私は早めに空港へ着いた。

チェックインを済ませたばかりの時、突然スマホが鳴った。

出た瞬間、郁人の張りつめた声が耳に飛び込んできた。

「真緒、今どこにいる?お前の荷物が全部なくなってるんだけど。

どこにいるか教えてくれ。迎えに行く。ちゃんと話そう、な?」

「もういいの」

私は落ち着いた声で彼の言葉を遮った。

「もう遅い」

電話の向こうで、彼は一瞬言葉を失った。

「……どういう意味だ?」

ちょうどその時、空港のアナウンスが流れた。はっきりとした案内音声が受話口越しに聞こえたのだろう。

彼の声が一気に高くなる。

「空港にいるのか?どこへ行くつもりだ?」

「もうあなたには関係ない」

私は少し間を置き、搭乗口のほうへ流れていく人の波を見つめながら、続けた。

「もう一つ、あなたに隠していたことがあるの。だけど、それももう隠したくない。実は……」

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