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第9話

Penulis: 栖崎夕
「真緒、すまなかった」

私は首を横に振った。

「郁人、もういいの」

「お前にひどいことをしたのは分かってる」

彼は私の手を強く握った。彼の手はひどく冷たく、痩せて骨ばかりが目立っていた。「あんなふうに傷つけるべきじゃなかった。あんなふうに、手放したくなんてなかった」

「知ってるか?」

彼の声はどんどん小さくなっていった。胸の奥底に押し込めていた秘密を、ようやく吐き出しているみたいだった。

「お前がいなくなってから、ずっと探してた。俺たちが一緒に行った場所は全部回ったし、お前を知ってる人にも片っ端から聞いた。でもお前は、まるでこの世から消えたみたいに、どこにもいなかった」

「毎日、お前からの知らせを待ってた」と、彼は力なく笑った。「でも後になって、ようやく分かったんだ。お前は電話番号を変えて、俺の世界から完全にいなくなってしまったんだって」

彼の目は赤く充血し、涙が頬を伝って落ちていった。

「後悔してる……本当に、後悔してる。

もしあの時、栞里の願いを聞かなければ。もっと早くあいつの本性に気づいていたら。お前をちゃんと大事にできていたら……」

「郁人」

私は彼の
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    それから、私は鍵をかけた。その扉を、もう二度と開けることはなかった。戻ってからの私は、また仕事と日々の暮らしに身を投じた。悠真はそっと私を抱きしめて言った。「大丈夫。ゆっくりでいい。僕が一緒に忘れていくから」私は分かっていた。彼は本当に、少しずつ私を癒してくれていたのだと。一年後、郁人は亡くなった。弁護士が、あの書類の入った封筒を私の会社に送ってきた。中に入っていたのは、彼の遺言書と、一冊の日記だった。私は日記を開いた。そこには、私たちが付き合い始めた頃から、私がいなくなり、やがて彼が病に倒れるまでの胸の内が、途切れることなく綴られていた。ページのどこを開いても、私への後悔と、募る想いで埋め尽くされていた。【今日、真緒がいなくなった。俺は世界のすべてを失った気がする】……【栞里の嘘が暴かれた。自分が憎くてたまらない。それなのに、ますます真緒に会いたい】……【胃がんだと診断された。死ぬことは怖くない。ただ、もう二度と真緒に会えないことだけが怖い】……【真緒、もしお前がこの日記を読んでいるなら、どうか俺を許してほしい。俺は本当に愛していた】最後のページには、力を振り絞って書いたのだと分かる、乱れた、それでも強い文字が残されていた。【真緒、幸せになれ】私はその文字を見つめながら、とうとう涙をこらえきれなかった。日記も遺言書も、私はしまったままにしておいた。彼の財産には、一切手をつけなかった。それからの私と悠真の暮らしは、相変わらず穏やかで幸せだった。やがて私たちには、可愛らしい娘が生まれた。名前は佐藤薫(さとう かおる)にした。娘が三歳になった年、私たちは薫を連れて一度だけ帰国した。私は娘を連れて、郁人のお墓参りにも行った。墓前に立つと、若い頃の彼の笑顔がふいに脳裏によみがえった。陽だまりのような、あのやわらかな笑顔だった。私はしゃがみ込み、そっと娘の頭を撫でながら言った。「薫、この人はね、ママが昔、好きだった人なの。だからね、どんなことがあっても、自分をちゃんと大切にして、そばにいる人のことも大切にしなきゃだめよ」娘はまだよく分からないながらも、こくんと頷いた。それから小さな手で墓石に触れて、あどけなく言った。「おじさん、しあわせになってね

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