次に俺が接触したのは、大神官セドリック=ヴァレンツィアだった。 神殿の奥にある彼の執務室は、昼間であるにもかかわらず薄暗く、窓からの光すら届かない。 香炉から立ち上る甘い香りが部屋中に漂っており、それはまるで――腐臭を覆い隠すための過剰な香水のようだった。 俺が部屋に入るがセドリックは椅子から動かず、細く白い指先を軽く持ち上げ、歓迎の意を示した。 その指は、祈りを捧げるためのものではない。遠く離れた場所から、まるで人形の糸を操る操り師の手に見えた。「アリス様。ようこそ……まさか貴女から直接お声がけいただけるとは光栄の極みでございます」 声音も言葉も、完璧に整えられた芝居のような台詞。そして仮面のような微笑み――だが、その瞳の奥に宿るのは、冷たい打算と鑑定眼。 彼は、俺を【聖女】として見ていない。 器の価値を計る商人のように、その目は値踏みしていた。「……こんにちは、セドリック様」 とりあえず俺は一礼し、案内された場所に座った後、すぐさま口を開いた。「……セドリック殿。単刀直入にお伺いします。あなたは様がリリスを……ねえさまを【導いた】のですか?」 聖女候補としての柔らかな微笑みを浮かべたまま、俺はその名を刃にして突き立てた。 その瞬間、セドリックの笑みが――ほんの一瞬だけ、硬直するが、それもすぐに仮面の奥へと沈んだ。 ……揺らいだ。 この男は、この件について嘘を抱えている。「……ああ、リリス様……ええ、私も彼女に神の教えを説きました。ですが――彼女は神の選定を乗り越えることができなかった。残念なことです」「神の……選定、ですか」 その言葉に、胸の奥で怒りが音を立てて燃え上がるのを感じてくる。 妹の死を、あまりにも冷たく、あっさりと語る。まるでそれが、自然淘汰であったかのように。
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